高等教育から初等教育に向かった改革の流れ

 アクティブ・ラーニングの提起に向けた直接の改革は、学士教育課程の改善を目的とする中教審の「質的転換答申」(二〇一二年)で、「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を作り、学生が主体的に問題を発見し解を見出していく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」と提言した。

 それを可能にするアクティブラーニングの例として「個々の学生の認知的、倫理的、社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッションやディベートといった双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授業」が例示されている。

 この質的な議論は教育課程企画特別部会の「論点整理(案)」(二〇一五年)に引き継がれる。ここでは、さらに一歩踏み込んだ形で、「学習者の主体的・教導的な学びを実現するのは……、単に特定の型を導入するという発想ではなく、『学び主体』を改善する見方が必要である」とされ、「アクティブ・ラーニングの視点に立った、深い学び、対話的な学び、主体的な学びの実現」が目指されるべきだと提起されるに至った。

 さらには2018年に発表された学習指導要領のベースとなる中教審答申(二〇一六年)で、これまでにない包括的な改革が提起される。そこでとりわけ注目されるのが、学び方改革で、何を学ぶか(内容)だけでなく、どのように学ぶか(プロセス)が重要だという視点から、アクティブ・ラーニングへの移行が求められているとされる。すなわち、

「子供たちが、学習内容を人生や社会のあり方と結びつけて深く理解し、これからの時代に求められる資質・能力を身につけ、生涯にわたって能動的に学び続けたりすることができるようにするため、子供たちが『どのように学ぶか』という学びの質を重視した改善を図っていく」とされる。

 この答申に先立って、「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」が出た。この「審議のまとめ」の内容と構成を踏襲しつつ、その後に行われたヒアリングの結果などを反映させたものである。アクティブ・ラーニングの定義も、「審議のまとめ」で使われた「主体的・対話的で深い学び」という表現がそのまま踏襲されている。

 この2016年12月の中教審答申の提起がいかに包括的なものだったのか、それを示す事例が多数ある。これからの教育課程や学習指導要領に期待される役割を、子供たちが身につけるべき資質・能力や学ぶべき内容の全体像を一望できる「学びの地図」として活用されることにあると規定したこと、また「カリキュラム・マネジメント」の確立という言葉を使って、各学校が子どもや地域の実情を踏まえた独自の教育計画を持つように求めていること、などがそれである。これらは2018年版の学習要領により明確に反映されている。

 さらにここでは、新しい学力観・能力観のさらなる見直しが行われ、また指導と評価の一体化の必要性が説かれた。

 この答申では、新しい時代に必要となる資質・能力として、
1)生きて働く「知識・技能」
2)未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」
3)学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」

という三本柱が挙げられている。

 これらの資質・能力を「何を知っているか」だけでなく「何ができるようになるか」という観点にまで発展させて捉え、それを可能ならしめるものとして「主体的・対話的で深い学び」が位置づけられている。これまで、教育の内容と方法で言えば、学習指導要領の改定のたびに問題になってきたのはもっぱら内容の方であった。

 この間の経緯を見ると次のような特徴がある。

1)初等教育から始まることの多かった教育改革の流れが、大学教育(「質的転換答申」)から初等教育・中等教育(「論点整理」)へという逆の方向になっている。
2)知識理解を優先する大学入試が中等教育までの授業改革とミスマッチを起こしていると言われ続けてきたのだが、このたびは受験機械の複数化や長文問題の導入など、入試改革の構想とセットで登場してきたこと(高大接続改革)
3)特定の学習技法の導入にとどまらず、学習システム全体の改革を提案している。

の三点である。

 教育学科の学生に聞くと、アクティブ・ラーニングの導入に賛成という声が圧倒的が多い。とりわけ、就職活動をやってみて、表現力やコミュニケーション力が求められる社会の実感とこれまで受けてきた授業のギャップを実感するといった理由がある。

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