特措法24条9項に基づく自粛要請は違法か?


 新型インフルエンザ等対策特別措置法では、緊急事態宣言を出すタイミングは、感染経路不明の人が出たかどうかが重要なポイントだ。そうした意味では、屋形船でクラスターが発生した二月中旬の時点で宣言を出しておかなければならなかった。

 感染予防については、外国からウイルスが流入するのを食い止める水際対策は国の仕事だが、国内で感染が始まってからは都道府県の仕事だ。

 屋形船と同期時に病院でクラスターが発生した和歌山県は、仁坂知事が国の基準では県民を守れないと判断し、徹底したPCR検査を実施し、感染拡大を抑えていった。小池都知事の場合は、国の基準に従うだけだったためウイルスの拡散を許してしまった。

 小池都知事のそうした態度が変化したのは、東京五輪の延期決定直後のこと。「都市封鎖、いわゆる『ロックダウン』などの強力な措置を取らざるを得ない状況が出てくる可能性がある」と述べたが、実際のところ、我が国の現行法では都市封鎖はできない。

 都道府県知事に可能なのは、緊急事態宣言が出された時の外出自粛要請や、一定の範囲内での営業自粛要請、イベント開催中止の要請、医薬品の買い占めや売り惜しみをしている人への売り渡し要請ができ、臨時病院を設けるために所有者の同意がなくても土地を使用できる権限があるくらいだ。しかし、都市封鎖やそのための交通を遮断する権限はない。

 のんびり構えていた政府や他の都道府県は、事態を後追いするしかなかった。そうした時に、特措法の条文を政府が誤って解釈したため、全国の知事が違法の可能性のある自粛要請に乗り出すことになってしまった。

 特措法は、まだ流行するかどうかわからない段階でも、どこかで感染者が発見されたら、政府や都道府県が対策本部を作るように定めている。政府は必要な地域に緊急事態宣言を出す。宣言を受けた地域の都道府県知事は、限られた期間、一定の権限行使ができるようになる。外出や営業の自粛要請だ。

 これは法の制定時、謙抑的な仕組みとして考えられた内容ではないか。感染の拡大を抑えるため、知事にはある程度の権限を与えたが、無制限にではなく、緊急事態宣言下でという制約を設け、人権に最大限配慮しようとした。その意味ではバランスの取れた法律体系になっている。

 しかし緊急事態宣言が出ていなくても、知事は権限を行使できると解釈を変えてしまったらどうなるだろうか。知事はいつでも誰にでも自粛要請ができることになってしまう。実際に政府は誤ってそう解釈してしまった。

 この対策を推進するのが「基本的対処方針」。特措法では、政府が対策本部を設置した後、基本的対処方針を定めるとされている。第一波の感染拡大では、緊急事態宣言が出される少し前の3月28日に発表された。

 この「方針」には、知事が緊急事態宣言下で行う自粛要請だけでなく、緊急事態宣言が出ていなくても自粛要請ができるという解釈が盛り込まれた。その根拠が特措法24条9項。

 この条項は知事が住民や事業者に対して行う要請に関する規定ではなく、都道府県が対策本部を組織するための規定だ。都道府県の対策本部では、知事が本部長になり、副知事や教育長などが加わる。しかし庁内の人だけでは陣容が希薄になるため、他の地方機関や、外部の人にも入ってもらうように要請できると書かれている。

 その9項では、都道府県対策本部長は当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実行するため必要があると認めるときは、公私の団体または個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができるとされている。

 条文を素直に読めば、地元の医師会や大学の感染症の専門家などに加わってもらい、対策本部の体制を強化するための要請だとわかる。しかし、実際は「実施に関し必要な協力の要請をすることができる」の部分だけを抜き取り、誰にでもなんでも要請できると解釈してしまった。

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