遠い記憶 第四話
母は、人前では明るい人だった様に記憶している。
私には、よくニコッとしろ、ニコッとしろと、
しつっこく言っていた様に思う。
それだけ、私は、笑わない子であった。
知らない人の前では、つい誰かの影に隠れていた様に記憶している。
又、父は酒さえ、入らなかったら、穏やか人であったが、
一度、酒が入ると、その目は鋭く、吊り上がり、
まるで、獣の様な怖い顔は、今でも、忘れる事は無い。
タンスから、家の中の物は、全てと言って良いほど、投げ出され、
朝になると、まるで大きな、地震でもあったかの様な、荒れよう。
六畳二間の、部屋は、足の踏み場も無い状態だった。
倒れた、食器棚の上に、お皿が一枚置かれ、
その上には、おにぎりが二つ。
兄は、学校に行っていない。
母も、仕事でいない。
その、おにぎりを、弟と二人分け合って食べた。
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