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龍のすみか

焼き尽くすほかない
東町、次は西町
龍のすみかを元通りに
知っているはずだ
区長よ、那覇市場のある場所だ

浅黄の琉球織を着流した
女が役所の玄関をくぐる
女たちを引き連れて
眼光鋭く見回すと
どすのきいた声で一度
忠告して消えた

数日後
赤く染まったのは夜空
東町に降り注ぐ
火の粉、また火の粉
四百あまりの家屋が焦げ
焼け出された人びと

家を失い
仕事場を失い
財産を失い
家族を失った
子、孫、親、夫、妻
道ばたで途方に暮れる

市中に火霊の往来
大見出しが舞う
道向こうでは訓示
玄関先でつばを飛ばす署長
流言浮説の醸成を許すな
検挙すべきはユタだ

会合に踏み込む
晩餐をぶち壊す
寝込みを襲う
特高に繁忙期がくる
市中を引き回されるのは
女、女、また女

あそこの娘が出入りした
向こうの婆はゆたむに
近ごろ挙動が不審である
けしからん、とにかくけしからん
密告を燃料にして
跳ね踊る特高

あれがユタか
あれがユタだ
あふれる傍聴席
ゆくしむぬいだ
大火に乗じたのだ
裁け、裁け、また裁け

被告席で叫ぶ
何もかもを拒む女
検事は求刑する
証人の請求を退け
裁判官は告げる
収監されていく女たち

腰縄をまかれ
引き回される女たちの中に
近所模合の仲間たちが
主婦が、姉が、母が
豆腐屋が魚売りが
父の病を治したユタが

年が明けると
日常になったユタ狩り
ユタではないと知っていても
声を掛ける者はいない
腰縄で引かれる女たちを
立ち尽くして見る男たち

白い空を瞬時に切った
何か
群衆の多くの者が
目をこする
二度と見えることはない
火霊なのか

数日後
日暮れの静けさを裂く叫び
女が消えた街
市場がある西町で
男たちは目にした
空が赤く染まるのを


◇◇◇FromBuckNumber◇◇◇
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