遠隔での講義・演習科目のやり方について考えたこと

これまでの遠隔授業の準備や進め方についてまとめたツイートを連投したので、こちらにもまとめておきます。

状況

私が勤務している学部は、1学年が100名程度のこじんまりとした学部です。看護師・保健師・助産師の国家試験受験資格を得るための指定規則があり、ほとんどの科目が必修科目で、グループワークや少人数グループでの臨床実習など、いろいろな意味で「密度の濃い」学習環境です。私は1年生の情報系必修科目(講義科目・演習科目)を担当していますが、学生たちは入学してからまだ一度もお互いに顔を合わせたことがないという環境の中で、例年と同じ前提条件での授業進行が出来ないことも多く、手探りで進めています。

大学としてサポートしているのは、会議サービスとしてWebEx, Zoom。クラウドサービスとしてGoogle for Education, Dropbox, Box。環境的にはかなり恵まれている部類。学生は、大学のアカウントからこれらのサービスを使えるので、各学生にいちいちサービス利用のためのアカウント取得をさせる必要がないのは授業計画上とても楽でした。

1. 講義科目

情報と社会について学ぶ講義科目は、動画視聴とリアルタイムフィードバックを組み合わせた。動画は1コマあたり2本〜3本(各動画は10〜15分程度)に分割して、1動画につき5分程度のミニ課題を出す。課題はPC入力ではなく、紙に手書きしてもらう←ここ大事。動画を短めにしたのは、何を隠そう、私自身が90分のWexExトレーニングセッションを受講中に寝てしまったから。短い動画の後に手を動かす作業を入れることで学生の集中力を保たせてあげたい。つい3月までずっと50分授業だった大学1年生はなおさら。

動画は、最初は音声付きPowerPointを検討したけれど却下。スライドを表示した画面にOBSで自分を映し込む方法も却下。最終的には、A3に印刷したスライドをカードケースに入れて「紙芝居」風に講義する自分を動画に撮る、という方法に落ち着いた。一発撮りで編集はなし。収録時には、ホワイトボードマーカーを使って、スライドに(ケースの上から)書き込んだり、キーワードに線を引いたりしている。

これは、遠隔講義でメディアがより間接的になった分、コンテンツに「親密さ」を持たせることが重要と考えたから。私の顔が背景と一緒にチラチラ見えること、私の手が動いて、実在するペンが線を引くこと、こういったことがコンテンツを立体的な、奥行きのあるものにするのではないかという直感。OBSでスライドに顔が映り込むだけでは話者とコンテンツの一体感が生まれない。

課題を「紙にペンで」書いてもらうのも同様。デジタルコンテンツだけで完結させずに、「身体性」を加えることが理解への刺激になるように思う。書いてもらったコンテンツは、各自写メ(死語)して大学のオンラインレポートボックスから提出。それぞれ個性のある手書きコメントを見るのは楽しい。

動画視聴+ミニ課題で約1時間を使い、その後zoomに集合し、ブレイクアウトルームでカメラオンにしながら学生同士で課題のフィードバック。直接会ったことのない1年生同士が自己紹介をしたりお互いの意見を交換しながら、同級生がここにいる、という感覚を持ってもらいたい。教員からのフィードバックの時間をあまり取れていないのが悩ましいところ。

オンライン講義をWebExではなくzoomにしたのは、WebEx (training)ではブレイクアウトルームで学生がお互いの顔を見ることができないから。WebExは親密性を必要としないカンファレンスには向いているが、1学年100人ほどの小さな学部で相互にコミュニケーションを取りながら学んでいくやり方にはフィットしないように思われる。

この授業では、例年グループワークでポスターを作っているが、今年は個人ワークに変更。ポスターは手書きからPowerPointに変更。PowerPointの使い方演習を兼ねることでコマ数削減。グルワ→個人ワークに変えたのは、Microsoft365の共同作業を授業で教えていないので、いきなりグルワで使うのは難しいと判断したため。個人ワークではあるけれど、みんなで会話しながらできるよう適当にグループを設定してブレイクアウトで作業してもらった。結果、内容は似ていても、それぞれ個性的な、内容も充実したワークが提出された。

グルワの発表は、提出されたポスターを写真共有サービスFlickrにアップロードし、学生に見てもらう形式とした。ポスターのアップロードは私の個人アカウントから行い、URLを学生と共有。学生は、アカウントを作ればコメントやfavができるが、アカウントの作成は必須としなかった。これは、様々なサービスのアカウント作成を要求されることでIT系が苦手な学生の負担が大きくなるのを避けるため。非情報系の学生にはこういった配慮も必要となる。また、作りっぱなしのアカウントからパスワードが漏洩するリスクもある。学期末には、今後Flickrを使う予定がないのであれば一旦アカウントを削除するよう勧告するつもり。大学が提供している教育IT支援環境では、教員→学生の一方向のコミュニケーションはできるが、学生の成果を履修者で共有してコメントし合うような機能は提供されていない。アクティブラーニングには必要な機能なので今後実装されていって欲しい。

2. 演習科目

PCやoffice系ソフトウエアの基本操作、レポートやプレゼンテーション作成技法を学ぶ演習科目は、まだ試行錯誤中。基本、リアルタイムのオンライン講義。ソフトウェアの機能と操作を覚える単元では、動画付き授業資料をWeb上に用意して、独学できる環境を整備。

クラスを、私の説明を聴きながら演習を進めたい人と自分で授業資料を見ながら進めたい人に分け、後者はzoom上にブレイクアウトルーム(通称「もくもく部屋」)を用意しそちらに放り込む。もくもく部屋に入りたい人は、名前の頭に(も)をつけてもらうことで識別。実際には、もくもく部屋は結構わいわいしている。それで結構、結構。Step by stepで習いたい人はそのままオンライン受講。課題が出来たら大学のオンラインレポートボックスに提出しておしまい。

授業中の学生からの質問はzoomのチャットで受け付けるが、個別に見た方がよさそうな場合は、学生にSAを1名アサインして、もくもく部屋とは別のブレイクアウトルームに送り込んで個別サポートを行っている。これはちょっとしたコツなのだが、zoomは一旦ブレイクアウトルームを開くと、あとから新しいルームを追加することが出来ないので、もくもく部屋を作るときに、教員+SAの人数分の予備ブレイクアウトルームを作っておく。

ソフトウエア操作を説明する動画は、Windowsの「ゲームバー」という、ゲーム録画のために作られた機能を使って作った。この機能を使うためにはPCのビデオカードなどある程度のスペックが必要らしい。

独学用にも使える授業資料は、2011年東日本大震災で授業開始が1ヶ月遅れたときに、学生の授業出席負担を軽減するために作ったコンテンツを手直しして作成した。当時はFlashで苦労して作ったことを思うと隔世の感。

演習系授業は、これからグループワークに入る。グループワークのフォロー用に、授業ごとに公式LINEアカウントを開設。こうすることで学生からの質問をSAとも共有でき、授業時間外の質問にも対応可能にしている。が、正直どうなるかわからない。

演習科目では、例年、早稲田大学向後研究室で開発された「大福帳」と呼ばれる交換日記型出席カードを使っている。例年は紙に書いてもらっているが、今年はgoogle drive上に大福帳スプレッドシートを学生の数だけ作って各学生と共有し、記入してもらうようにした。学生からのメッセージには、授業の感想だけでなく「雑談」も多く含まれており、教員、SAと学生の距離感を縮めるのに役立っているように感じている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?