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ライオンのおやつ/小川糸

余命宣告された主人公・雫が最後の地として選んだのはホスピス『ライオンの家』。
そこに集まった、同じく残りわずかな命を懸命に生きる人々との、穏やかで繊細な日々を綴った物語。


小川糸さんの優しい文章が心に沁みます。


以下、ネタバレを含みます。






主人公は33歳の女性、雫。幼い頃に両親を事故で亡くし、母親の弟を「お父さん」として育ちます。

そのお父さんが再婚することになり、それ以来一人暮らしをはじめ、病気のことは何も告げずに『ライオンの家』に入ります。


余命宣告された状態から始まっているので、そこから逆転していくお話ではないのだと思い、興味を持ちました。亡くなる瞬間や、亡くなった後がどのように描かれるのかな?と。

亡くなった本人が語ることはできないから、おそらく周囲の人の後日談みたいな感じになると予想して読みましたが(実際そうでした)、とても優しく、思っていたより発展的なラストだったので、良かったです。


雫が日に日に弱っていく中、病気のことを知らないはずのお父さんがライオンの家にやってきて、最期に会えたのがとにかく嬉しかった。亡くなっているので、嬉しかったと言う表現は正しくないかもしれないけれど、娘の最期を知らずに生き続けるなんて可哀想すぎると思っていたので、その点についてほっとしたのでした。

そして、知らない間に誕生していたお父さんと再婚相手の娘・梢ちゃんと会えたのも良かった。終わる命があれば、受け継がれていく命もある。それなりに救いのある終わり方だったように思います。


島の青年・タヒチくんとの、恋のような友情のような微妙な関係性も良かったですね。それ以上発展しなかったのも、個人的には◎でした。そのほうがリアリティがあるというか、自然かな、と。タヒチくんは素敵な人でしたね。


その昔、私も家族を癌で亡くしており、痛みを取り除くことを優先する治療...このお話の中では徐々にモルヒネワインを飲むようになりますが...医療用麻薬を使った患者がどうなるのかを、間近で見てきた経験があります。

だいぶ前のことではありますが、少しでも安らかだったのであればいいな...と今でも思うので、いち癌患者の遺族として、このライオンの家の暖かさ、こういった場所の役割に感謝したいと思いました。



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