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完璧なボケ味を実現させたNIKKOR Z 50mm f/1.2 S レビュー

Zマウントの三本目の50mmレンズ。
Nikonが持ち合わせた技術を集結させた三本目の50mmである「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」が2020年末に発売されました。

今回はこの「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」をNikon様からお借りしてレビューさせていただく機会をいただきました。
重量が1kgあるので常用レンズとは言えませんが、写りは一線を凌駕しておりこれまでお借りしたレンズで一番返却したくなかったです。(ちゃんと返しました)

Nikon Zマウントの50mm

Zマウントの最初の一本といえば「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」
光学性能、価格のバランスが非常に優れたレンズで、とりあえず買っておけば間違いありません。

シャープでボケが綺麗で線が濃く表現され被写体が自然と浮き上がってきます。私の常用レンズとなっています。

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「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S 」「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S 」
上が私の常用レンズの2本です。


そして、Zマウントで一番ハイスペックな50mm域のレンズは「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct 」

重量2000g、お値段は100万円超え、といったモンスター高級レンズです。F0.95から映る被写界深度は一線を凌駕する写りとなります。(特別過ぎて見たことも触ったことも無いけど…お借りする機会があればレビューをしてみたいと思います。)

ちなみにNikonから100万円を超えるレンズは望遠域ではいくつもあります…
クラブハウスで動物カメラマンの方とお話をしましたが、ほとんどの動物カメラマンの方が100万超えの望遠レンズを振り回していました。

努力も装備も…それを運ぶ筋肉もすごすぎる…買う前に筋トレからはじめたらきっと安心。
もし考えているなら重量のシミュレーションをしときましょう。

30キロも持てるようになればきっと三脚も含めて余裕で担げるはず。


脱線しましたが…「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct 」はNikonの最高技術と最高品質の塊であり、憧れのレンズですが、100万円という価格では一般人の手に届くとは言えません。


そして今回レビューのためにお借りした新発売のハイスペックレンズ…

2020年の最後にニコンの最高技術と品質を盛り込みながらギリギリ手の届く価格でF1.8とF0.95というレンズの間の中でF1.4をすっ飛ばして「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」が発売されました。
Zマウント渾身の3本目の50mm領域の単焦点レンズです。

Zマウントを使う人全てに使って欲しい神レンズでした。


NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sはベルテレ博士の宿題

ヨドバシの開発インタビューが非常に面白いです。特に光学本部 第三設計部の原田さんのお話が好きで色んな人にも読んでもらいたい。
このレンズの「ベルテレ博士が後世に与えた宿題」が最高にキャッチーでプロダクトを本業とする私にグサッと刺さりました。

http://photo.yodobashi.com/live/interview_nikon2020/

読み応えのあるレビュー記事なので、ぜひ時間があるとき読んでみてください。情熱を感じてレンズが欲しくなると思います。

レンズの公式HPには具体的なコンセプトは提示されていませんが、インタビューなどを読み解くとこのような特徴だと読み取れます設計されています。
・静止画と動画での最高の光学性能
・F1.2で美しく滑らかなボケ
・ビオゴン(対照型)を突き詰めたレンズ構成
・徹底した静音化とブリージング低減による動画性能

最高の光学性能については誰もが使用をはじめてすぐに実感できるはずです。

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レンズ一枚目の写真に何だこの写りは…となりました。
(試写一枚目がまり子の寝顔…)

空気と一緒に浮かぶ立体感とボケ味

このレンズの魅力はなんといってもF1.2でしょう。
F1.4よりも明るく、F1.8を使用してきた人には別世界の違いを感じます。

これまでNikonの50mm f1.2といえば「AI Nikkor 50mm f/1.2S」でした。

このレンズは1981年に発売されて2020年まで生産されており、非常に長い期間の間にNikonユーザーから愛されていたレンズです。
私もフィルムで使用していましたが、写りはフワッとクラシカル。残像のようにピント面が滲むクセ球でした。
柔らかい描写のオールドレンズの写りを楽しむレンズです。

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(ピンぼけ…)

今回の「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は最新技術でF1.2とピント面前後のボケが楽しめるレンズです。

F1.2の魔力。今回の写真は殆ど開放で撮影しました。

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Twitterでも沢山の方に見ていただきました。本当に中判カメラのような余裕のある写りをするレンズです。

強い逆光に対してもエッジが残り、フレアは最小限となっています。
輪郭の起毛部分の光を捉えて被写体に立体感を与えています。
シャープだけど柔らかい。センサーサイズが拡大されたような感覚になります。


10mぐらい離れた場所にいるまり子。
それなのにこの立体感。

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F1.2のボケとピントのグラデーション。背景に溶けていく景色。
ピントはシャープなのに柔らかく感じる不思議な線の表現、レンズの光学技術が新次元に達したことを感じました。

本来は絞って背景も全て写すのが普通ですが、私が一番好きな表現です。
ピントの操作もシビアですし、カメラのAFも迷いやすい写し方なので成功率は低いですし、カメラの液晶じゃどこにピントが合っているのかもわかりにくいほどです。

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開放で遠景の四隅の木の枝。ほぼ確実に色収差がでてしまいますが非常に小さい色収差だけでした。

遠景なのに前後がボケる、距離感とその時の思い出す記憶のような曖昧な景色が写真に現れたような写真になります。
遠景を開放で撮るとピント面が眠くなったり、ボケが汚くなったりするのですが、このレンズはどのように撮っても本当にボケが美しい。

このようにF1.2のシャープなピントとボケ表現ができる50mmはこのレンズだけだと思います。


すべてが特別のもののように見えるレンズ

ビオゴンは対照型広角レンズの構成のことです。
「ベルテレ博士の最後の宿題」とヨドバシのインタビューで表現されていました。100年近く前の技術を発展させて成し得たボケ表現です。

F1.2の開放で撮影するとなると、ピント面以外はボケ。つまりほとんどボケる写真においてボケの美しさは絶対条件です。

うるさいボケ、二重ボケ、硬いボケ、ぐるぐるボケ、バブルボケ…といろいろありますが…
最高の光学性能のこのレンズ、絶対にボケがスッと馴染んで写真が美しくなります。

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鞄をひっくり返して散らかった荷物の立体感。なんで撮ったかも覚えてない。
それなのに特別なもののように見えてしまいます。

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ふとした景色を残したくなるレンズ。

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ボケがうるさくなりやすい描写もこのように

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スタンリー・キューブリック監督がバリー・リンドンで蝋燭の光だけで撮影するためにカール・ツァイス社がNASAに向けて開発した「プラナー50mmF0.7」を入手して撮影した話は映画好きでは有名なお話です。

今となってはデジタルが主流となり、ノイズ処理や高感度技術が発達したためF0.7 のようなレンズは必要なくなりました。

まり子がオイルランプだけの火の光一つで撮ってみました。

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「プラナー50mmF0.7」はフランジバックが非常に短かったそうです。
レンズを明るくするためにはフランジバックを短くするほど設計に自由度があがるそうです。
Zマウントはミラーレス機の中でも最も短い16mmというフランジバックだからこのようなレンズの設計ができたのかもしれません。

今後35mmや85mmのF1.2に期待ですが、大三元を襲名するようなF2通しの広角〜標準ズームレンズも欲しいですね。


シャープな景色が撮れるF1.2

本来は景色を撮るときにF5.6〜F11ぐらいに絞ります。

通常は開放で撮影する場合は通常はシャープに撮れずに眠い景色となってしまいます。
でもこの「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は別物で日没から30分近く経過した うっすらと見える空でもF1.2で景色を写すことが可能です。

F1.2でもシャープに撮れてしまいます。

Z6IIはISO感度も強く。F1.2と組み合わせると夜景でも連射して撮影が可能でした。

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Z6IIはRAW連写秒速10枚撮れます。
薄明かりのでジャンプが止まるように
F1.2 ISO4500 SS1/500
上記の設定で撮影しました。
(SS1/500なら大体止まる)

この暗さでSS1/500は楽しい。

光に余裕があるなら絞った方がよりシャープになります。

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桜とF1.2

3月中旬、早咲きの河津桜を見に行きました。関西にも意外と色んな所に生えてるんですよ。

桜の前ボケもこの通り。
すべてがとろけるように曖昧な表現と、ピント面とのギャップがF1.2ならではの表現です。

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通常は望遠レンズを使用して前ボケが大きく表現するのですがF1.2なら手軽に表現できます。
前ボケも美しく自然と馴染んでいく前ボケでフワッとした光を作ることが可能でした。

前ボケとハイトーンでフワリと仕上げても良し
すこしアンダーに撮ってしめても良し

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ピントが合っているところに自然と目が誘導されていく表現をしてくれます。


「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」まとめ

今回は動画ではテストしていないのでスチルメインのレビューとなりますが、AFの動作音などかなり静かでスムーズでした。真剣に動画市場を意識したレンズ設計となっていると感じました。

今回のレビュー中に撮影した一番のお気に入りの写真はこの写真です。
拡大して手元や掲示板の描写を見てほしい。

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引き戸の奥は綺麗にボケてまり子が浮き立っています。
直射日光は強く表現されるものですが、シャープで優しい光を撮ることができました。

なんとなく撮った景色ですが幻想的な光で写し込む事ができたと感じます。


私自身50mmが好きなので、オールドレンズを含めて様々なマウントの50mmレンズを使用してきました。

現代のレンズではシャープでキレキレなレンズはいくらでもあります。

50mmは標準レンズと呼ばれて、人間の目に近いレンズだとと言います。ボケ、キレ、ヌケ、どれをとっても違和感が無い「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」のこの自然な違和感の無さが、人間の目に近い50mmだと思いました。

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このレンズは新しい次元の写りをするレンズでNikonの技術が集結されて完成したレンズでした。サードパーティレンズを一切寄せ付けない、このレンズだけの表現だと感じました。

褒めちぎりっぱなしですが、短所を強いて言うなら望遠レンズ並みのサイズと1090gという望遠レンズ並の重量ということ。
ミラーレス機が主流となった今ではやはり重たく感じます。

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50mm F1.8(右)は常に装着しているほどに使いやすくコンパクト。


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絞らないとモヤッとするのに開放からすごくシャープで主役が浮き立つ感覚が気持ちいい…

1090gは登山や旅には不向きかもしれません。しかし、山で使ったらどんな表現ができるだろうか、旅で使ったなら…?と好奇心を刺激します。

これほど開放が楽しいと思ったのは初めて買ったフルサイズD750の大きなボケの表現以来です。


レンズ提供:㈱ニコンイメージングジャパン


過去のレビュー


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