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社内の重鎮をアドバイザー的にプロジェクトに参加させるときは慎重に

タイトルそのままなのですが、日本の製造業複数社で長年情報システム部門を担当していると、プロジェクト体制検討の場において、こういう話がよく出ます。

「Aさんはこの分野に詳しいから、アドバイザーとしてプロジェクトに参加してもらおう」

正直言って、この手のアサインメントが功を奏していないケースがけっこう多いです。その理由と、取りうる対策について考察してみたいと思います。もちろん、ちゃんと有効に機能しているケースもあると思います。あしからず。

リーダーとアドバイザーのよくあるプロファイル

リーダーとアドバイザーAさんのよくあるプロファイルとしては下記の通り。

アドバイザーのAさんのプロファイル
・役職者ではない (定年後再雇用の嘱託社員のケースも多い)
・社歴が長く、いわゆる「重鎮」である
・その会社の業務プロセスを熟知している
・暗黙知ノウハウがたっぷりと頭に詰まっている

プロジェクトリーダーのプロファイル
・優秀な若手の抜擢 or 期待大で入社した中途採用者
・ITやプロマネのスキルはそれなりに高く、人望もある
・対象分野の業務知識は少し乏しい

情報システムプロジェクトは、IT知識だけではなく、対象分野の業務知識がある程度必要です。かつ、日本企業の「社内業務知識」は例によって明文化されていないことが多いです。経営者からすると「今回のリーダーはエース人材なんだけど、社内の暗黙知には詳しくないから、サポートする役割としてAさんをつけてあげよう」という親心から、このようなアサインメントがなされるのでしょう。

冒頭で書きましたとおり、この手のアサインメントが功を奏していないケースがけっこう多いです。改めてその理由を考えてみたのですが、大きく2点に集約されるかなと思っています。

うまくいかない理由

(1) 知識はあるけど責任がないゆえの発言をしてしまう

プロジェクトの責任者はリーダーなので、アドバイザーのAさんは「知識はあるけど責任がない」立場になります。本人はアドバイザーとして呼ばれた以上、ただ黙っているわけにもいかないので、プロジェクトの会議・チャット・メールグループ等においてあの手この手でアドバイスしようとします。ただ、この「知識はあるけど責任がない」立場は結構厄介で、「優先順位」「重要度の重み付け」の無いまま、各種発言をしてしまう傾向にあります。言い方は悪いですが「評論家発言」と化してしまいます。

リーダーは、プロジェクトゴールに向けて限りあるリソースをどこに集中させるか決めなければいけないので「どちらを優先させたら良いでしょうか」とAさんにアドバイスを求めるわけですが、Aさんは責任を持てないので
「それはリーダーが決めてください」
「私見ながら XXX と思いますが、あくまで私見なのでご参考までに」
と切り返します。「私見」と「参考までに」が決まり文句で、どうしたものかとリーダーの混乱が深まったりします。

(2) かと言って無視できない存在である

でもAさんのアサインメントにはそれなりの理由があり、「Aさんじゃないと分からない社内業務知識」が存在するケースが多く、これがまた厄介です。おまけに、Aさんは役職者ではないものの、社歴が長く年長者であるケースが多いので、リーダーもなかなか無視したり無下にしたりできない。なのでリーダーは、評論家発言に振り回され混乱しつつも、Aさんしか知らない社内業務知識については教えを請いつつ、なんとかプロジェクトを前に進めていくしかありません。

リーダーによっては、「ええい鬱陶しい」となって、思い切って一旦Aさんを無視したり、プロジェクト会議に呼ぶのを止めたりするかもしれません。こうなると大抵の場合、Aさんはへそを曲げて非協力的な態度になります。しかしAさんには知識があります。リーダーの様子を見ていて
「あー、そういう仕様にしちゃったか…B事業部だけ違うやり方だから、あとで仕様変更になって、追加費用になるだろうな…」
「あー、それで決裁通しちゃったか…先にBさんに話通しておかないと、あとあと揉めるのに…」
などなど、「Aさんしか気づかないこと」に気づきながら、直接言うことはもうしません。失敗する様子を陰から見つめる困った存在となってしまいます。

じゃあどうすればいいのか

こうなってしまわないようにマネージするしかないと思います。
簡単に言うと
(1) アドバイザーの職務定義と評価基準を明確にし、責任をもたせる
(2) リーダーの女房役として、陰でリーダーを支える役割に徹するよう、アドバイザーに指示する
ということではないでしょうか。
でも日本企業は (1) を明確にするのが苦手なので、現実解としては、(2) のマインドセットで行動してくれそうな人をちゃんと選ぶ、ではないでしょうか。自己顕示欲を示さず、自分がもしリーダーだったら…という意識で優先順位をつけながら、陰でリーダーを支える。

私は何度かプロジェクトリーダーを担当しましたが、幸運にも (2) のようなアドバイザーの方をアサインしていただいたことがありました。
・普段はリーダーの意思決定を立てて、本当に穴に落ちそうなときだけアドバイスする
・自分が業務知識を披露するのではなく、その分野に社内で一番詳しい人を紹介してくれる (結果、リーダーの人脈も広がる)
・稟議申請の場に一緒に来てくれて、後ろから援護射撃してくれる
もちろんそのプロジェクトは上手く行きましたし、自分自身大きく成長することができました。自分が将来同じような立場に立つことがあったら、同じ動きをしようと思いました。

そもそもAさんはなぜできあがったのか (次回に続く?)

そもそも、今回例に挙げたAさんのようなプロファイルの方が「できあがってしまった」こと自体が問題だとも思っています。本来であれば「暗黙知ノウハウがたっぷりと頭に詰まっている」こと自体がリスクですし、そうなってしまった理由がいくつかありうると思います。

よくあるパターンとしては、下記です。
・元来器用なので、いろいろな部署で便利に使われてきた
・各種ノウハウはたまっている
・しかし、形式知化したり、部下やメンバーを指導するのが苦手
・部下がつけられないので、万年課長未満に留まったまま年長者になる
・評価されない・昇進させてもらえないので、会社に対して批判的になってくる
・しかしAさんしか知らないことが多すぎて、会社側も辞めさせられない
・会社側からちゃんとノウハウを引き継ぐように言われるが、なんやかんや理由をつけてやらないし、年長者なので強くも言えなくなってくる

こういうAさんを作り出さないためにはどうするか、もしくはできあがってしまったAさんをどうマネージしていくか、については、私の中でもまだ答えがまとまっていないので、別途 note を作りたいと思います。