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織姫様はおんなのこ

「ね、今年もお天気微妙だよ。」


空を見上げて、どうなってんのと腹立たしげに呟く彼女は裾の長い服をひらひらと靡かせながら、ドスドスと屋敷の廊下を進んでいく。


「また会えないなんて約束と違うじゃない。いや違わないけど!でもこんなに毎年毎年、飽きもせず雨ばっかりだとは思わないじゃない、聞いてないじゃない!あまりに話が違うんだから訴えたら勝てると思うのよ。訴えてやろうかしらあのオヤジ!」


収まらない怒りをぶちまけながら勢いよく障子を開け、辿り着いた機織り部屋で今にも仕事道具を蹴り飛ばしそうな勢いの背中に冷たい声がかかる。


「恐れながら姫様、どなたを訴えても勝てません。彦星様とお会いになれないのは雨が降ると雨の川の水かさが増して姫様がお渡りになれなくなるからで、当初に提示された『真面目に働けば1年に1回会うことを許す。』という条件自体は覆されておりません。そして、この時期に雨が多いのも、時代が流れ7月7日がこの時期になってしまったのも誰のせいでもございません。」


買い換えると高くつくので機織機を蹴るのもお止めくださいますようと最後に続いたトドメの一言まで放った織姫付きの侍女は今日も冷静だった。


「そんなこと分かってるわよ。でも言わずにいられないの!それから蹴っ飛ばすのを止めるならせめて建前でも私を心配して止めなさい!」


「姫様のお怪我が心配ですので機織機を蹴るのはお止めください。」

「もう遅いわよ!」


主人の八つ当たりを慣れたように無視して、侍女は廊下を振り返り空を見上げる。


「恐れながら姫様。」

「なによ。」


不貞腐れた主人を見つめて淡々と続ける。


「今日は竜神様にはお出かけの予定はないと伺っております。」

「え?」

「恐らく、本日は雨ではございません。」


一瞬の沈黙の後、慌ただしく織姫が身を翻した。


「着替えなくちゃ。何色の着物がいいと思う?あとお化粧も。髪も直したほうがいいかしら。時間がないわ!」

「姫様、廊下を走るのははしたのうございます。」

「んもう!そんなこと今はいいのよ!それより一緒に着物を選んでちょうだい。それに合わせてお化粧もやり直したほうがいいと思うのよ。お願いね。」


侍女の手を引き、先程までのことがなかったように上機嫌に自室に向かって走り出した主人を手のかかる妹を見る目で見つめる侍女の口元には笑みが浮かんでいた。




お久しぶりです。
今日七夕だと急に思い出したので殴り書きの物語。
みなさま願い事はされましたか?