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私たちはカタッポス

私たちは「カタッポス」と呼ばれる。
理由あって片割れを失った靴下たちの総称だ。

私たちが片割れを失うとき、だいたいは予兆がある。
頭のてっぺんやお尻のあたりがうっすらしてきたら要注意。
お別れまでのカウントダウンが始まった証拠だ。
そして薄らから完全に素肌が見えるようになってしまったらお別れのとき。(特に頭のてっぺんの確率が高い。)
悲しいことだけれど、このパターンのときにはお別れまでに心の準備ができる。
うっすらしてきた本人は、そこを気にして一生懸命撫でていて、それはそれで哀愁を感じたりしなくもないのだけれど。
ちなみに、三つ子セットの人たちは、片割れを失っても新しいパートナーを充てがわれることも多い。
その場合は、すぐに出番が回ってきて、片割れを失った悲しみに浸る暇もないのだそう。

けれど、突然の別れというものも存在する。
例えば、強風の日に風に攫われて行ってしまうとき。
「私、もうダメだわ。手から力が抜ける・・・。」
「おい!諦めるんじゃない。あと、あと5分耐え切ったらきっと助けが来る!がんばれ!!」
「あなたは大事にしてもらってね。洗濯バサミさん、彼のこと守ってあげて。」
「俺をカタッポスにするつもりなのか!やめろ、待ってくれ!」
「・・・さよなら。」
「行くなーーーー!!!!」

または、ベビーカーに乗せられてのお散歩中。
「おにいちゃん、なんか少し落ちてきてない?」
「そうか?最初からこのポジションだったと思うけど。」
ぐいっ。
小さな手が彼の頭を掴み、そして放り投げた。
「「・・・え?」」
あっという間の出来事に呆然としている間に、ベビーカーはどんどん進んでいく。
「おにいちゃん!おにいちゃーん!」
とうとうお互いのことが見えなくなった頃、わたしの頭上で声が聞こえた。
『え?また片方しか履いてない・・・。ちょっと〜、どこで脱いだんでちゅか〜?』

私たちカタッポスは別れを経験した者たちだ。
新しいパートナーを得る者もいるけれど、そのほとんどが役目を果たせなくなり、箪笥に仕舞われ、その存在を忘れ去られてしまうのだ。
私たちは今日も、新たな出番を待ち望んでいる。




ミムコさんの楽しそうすぎる企画に乗っかって。
カタッポスたちは、寂しさゆえにたぶんそのうち徒党を組んで、チグハグなコンビで仕事に出かけたりするんでしょうね。きっとね。