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夏はエモ

 エモーショナルな気分を満喫するなら夏に限る。何故なら、真夏の熱気が厄介にもなり兼ねないエモーショナルな炎をキレイに相殺してくれるから。秋は物悲し気な風に煽られるし、春はその揺らぎに負けそうになるけど、夏なら後腐れなく存分にエモーショナルを味わえる。そんな『春はあけぼの』ならぬ『夏はエモ』の時期が来た。

 二十歳の頃、真夏の昼下がりにクーラーも入れず、熱い中国茶を飲みならが『コーリングユー』を聴いて涼をとるというエモい習慣があった。『コーリングユー』は1987年制作の西ドイツ映画『バグダッド・カフェ』の主題歌で、後にホリー・コールもカバーしてヒットしたけど、私は圧倒的にジェヴェッタ・スティールの歌声が好きだ。無防備にどこまでも落ちていくような高音がたまらない。普段耳にする楽曲の高音は上昇していくような感覚をおぼえるのに『コーリングユー』の不穏で生々しさもある突き抜けた高音は、逆に沈んでいくような重量感を持っている。程よい水圧を感じながらスーッと冷たい水の底へと落ちていくイメージが浮かび、外界を遮断するような鮮烈な高音に呑み込まれ、声だけを頼りに落ちていく心地良さ。首筋には汗が滲みだし、長い髪がまとわりつくのもそのままに、ジッと聴き入って熱い澄んだ飴色の中国茶をすすると不思議と清涼感を感じる。なんともエモい納涼。

 久しぶりに、同じように中国茶を淹れて『コーリングユー』を聴いた。カップは一目見て「真夏の中国茶にピッタリ!」と即買いしたデッドストックの古い湯飲み。白地に誘うような朱色が夏らしい。

 朝顔にほおずき、セミの鳴き声、かき氷、スイカ、蚊取り線香、線香花火、打ち水、盆踊り、浴衣、縁台、蚊帳、入道雲、雷さま…思い付くままに羅列しても日本の夏はエモで溢れている。
今年もエモい夏を満喫したいと思う。


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