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宮本浩次 I’m just woman Fall in loveという無防備さ

 アルバム『秋の日に』に収録された『恋に落ちて-Fall in love-』は宮本浩次が体現するI’m just woman Fall in love(私は恋に落ちた只の女です)という無防備さに息をのんでしまう。

 原曲が発売されたのは1985年。当時ヒット曲だったこの歌は自然と耳に馴染んでいる。ただ、恋など身に覚えのない子供の私には、繊細なメロディーと歌声、切ない言葉が上滑りしていくだけだった。それから37年も経ち人並みに恋もした。エゴの塊が恋なのか、自分と別れて他の人と一緒になるくらいなら、相手にこの世から消えて欲しいとまで思ったこともある。自分ではなく相手に・・・というのが身勝手にも程がある。こんな情動祭りのような時期を越えて改めて聴く『恋に落ちて』はスッと自分の中に浸透する。歳を重ねてきた恩恵なのかもしれない。どんな事情があれ只々、会いたい。恋に落ちた経験があれば、誰にでも共感できる純粋な想いが切々と伝わる名曲だ。

 宮本浩次の歌う『恋に落ちて』では弾き語りのようなアレンジが臨場感を持たせ、ため息が漏れ聞こえてきそうな気配まで感じる。また、時折入るエレキギターのキュッ、キュッというコードチェンジの際のフィンガーノイズが”痛ッ…”と胸に爪を立てる。さらに『ダイヤル回して手をとめた~』の部分で衝動と自制の葛藤を煽るようなカッティングがカッコイイ。そんな心の機微に寄り添うようなギターも印象的だ。そして、相手に想いを伝えるというより、自身の気持ちを確かめるかのように自分に向けて感情を抑えつつ真っ直ぐに歌うような歌唱が胸に迫る。

 そんな宮本浩次が恋については『恋って何なんすっかねー』とテレビ番組で発言していた。私もこの歳になっても恋などという理不尽なものを分かった気にはなれない。それでも、この『恋に落ちて』には共鳴するように聴き入ってしまう。彼の容易に自我を明け渡してしまう位に歌に対してどこまでも忠実な姿勢がそうさせるのかもしれない。
 それにしても、歌う人だと思っていた宮本浩次がカバー曲を通してすっかり聞かせる人にもなっていたことに驚いた。大人になってこのカバーアルバムを聴けて本当に良かった。

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