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宮本浩次 Birthday Concert 2023.6.12 at ぴあアリーナMM 「my room」で気付いてしまった…

 すっかり「独演会形式」というキャッチコピーに心奪われていたけど、そもそもコンサートタイトルに「my room」との文字がある時点で気付くべきだった。昔から「私の部屋」とか「自部屋公開」はスターかアイドルの専売特許と決まっている。そして、このバースデーコンサートは、スター宮本浩次をしっかりと魅せていく場だったのかもしれない。

 登場時の、皮パンにベルベットのシャツ姿は息を吞むほどにカッコよく、全身に身にまとう空気感はスターそのものだった。不謹慎ながら平たく言えば「ビジュアル最高―!」自部屋を思わせるようなセットも、バルセロナチェアに赤い薔薇とか、スターの部屋以外にないでしょう…。また、大きな会場内にコンパクトに納まったステージ上の部屋を模した空間は、弾き語りを一層引き立ててくれるし、弾き語りは彼の声の魅力を一層引き立ててくれる。そして、ヘッドセットを使用するなんて新鮮過ぎて目を疑った。こうして細部にわたって宮本浩次を魅せる演出が施されていたのが印象的だった。

 ひとつの光を際立たせるために緻密に計算された演出のその裏にはどれだけの労力が隠れているのだろう。そして、独りきりでステージに立つからこそ、スタッフとどれだけのチームワークが組まれているのだろう。そんな、輝かせることに懸命になり、輝くことに懸命になる美しさを感じ取ることも出来た。

 5回目のバースデーコンサートとなり、ソロ活動を始めてから、いつのまにか5年も経っていた。ソロ活動当初はエレカシ宮本浩次の延長線上に居るように思えたけれど、1年、2年と経ち、少しずつエレカシ宮本浩次では無いことを実感するようになった。そして、今回のコンサートでは完全に1人のエンターテイナーとしての宮本浩次が居ることに気が付いてしまった。ひとり浴びるスポットライトも、紙吹雪も、バラの花も、ミラーボールも、花道も全て彼のものになっていた。そう思えた時、嬉しいのか悲しいのか喉の奥がギュッと締め付けられた。

 肝心な歌声も、相変わらずシッカリと閉めているはずの胸の奥に易々と手を伸ばしてくる触覚を持っていて、この声を生で聴ける幸せはこの上ない。そして、真っ赤なライトを浴びながら歌った「赤い薔薇」は20年以上前のエレカシの曲だけど、彼の歩んできた年月に裏打ちされた

僕はひた走る どんな悲しい思い出も 全て後ろにして

の歌詞には何とも言えない重量感を感じ、真っ赤な照明の奥に、咥え煙草に、ガニ股、猫背で歩く若い頃の宮本浩次の後ろ姿がボンヤリと浮かんで見えた。

 また、今回はエレカシ、ソロ、カバー曲と多彩な楽曲が見事にインクルージョンされていて違和感無く楽しむことが出来た驚きもあった。こうして、サービス精神旺盛なステージを満喫して2時間半にわたるバースデーコンサートは終了した。

 最後に、サービス精神といえばインスタのストーリーにも上がっていたけど、アンコールを歌い終えてステージを降り、楽屋に戻るまでのバックヤードの様子をステージ上のスクリーンにBGM(いつもの顔で)と共に映し出すサプライズがあった。そして、カメラに向かってお道化ながら軽やかに楽屋に向かう姿を会場の皆が拍手をしながら見守るという、なんとも微笑ましい光景となった。途中、カメラに向かって薔薇の花を差し出した時に片頬を上げて笑う『悪だなぁ』って顔も見逃さなかったし、『惚れてんなっ』としか思えない程に宮本浩次の最高の姿を写真におさめるカメラマンの岡田さんの姿も見逃さなかった。なんだか、愛溢れるキラキラした光景はまるでフィクションのようで、唯一リアルを感じたのは楽屋に戻った時に映った氷嚢だけだった。あれだけのパフォーマンスがどれだけ身体に厳しいものか見当がつく。

 エンターテイメントの世界などという獣道を35年も歩んできて、更に50歳を過ぎて、生け贄感が否めないスターを本気で目指し、それをやってのけるなんて、恐れ入りました…としか言いようがない。とあるインタビューでは、「何があっても絶対に売れたい」と語り、また、別のインタビューでは「恥をかいてでもソロをやっていく」と希望と覚悟が首尾一貫している強さは計り知れない。恐るべし宮本浩次、57歳のバースデーコンサートだった。


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