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感想:テンポラリーアーキテクチャー 仮設建築と社会実験(馬場正尊・加藤優一・瀧下まり・菊池純平・木下まりこ著)

はじめに

本書は、近年注目されて久しい仮設建築とその社会実験について、国内外の様々な事例を紹介した一冊です。主著者である馬場正尊さんは公共R不動産のディレクターとして公共空間の再生や地方都市の再生などに尽力されている方で、本書から馬場さんの実務の様子も感じとることができます。
新型コロナウイルスにより仮設的な空間の重要性がさらに高まっている現在、非常に参考になる内容でした。今回はそのような本書から興味深い事例をピックアップし、いくつかレビューしたいと思います。
注)
本書では事例を以下の5つのスケールに分けて紹介しています。私の感想の中でも本書の定義に倣いますので、以下をご参照ください。
①ファニチャー:家具や屋台など持ち運びできるもので構成された空間
②モバイル:自転車や車など車輪がついたもので構成された空間
③パラサイト:高架下など元ある空間に寄生する形で構成された空間
④ポップアップ:ある目的のために期間限定で建設された空間
⑤シティ:①〜④が集まり、都市的スケールが形成された空間

事例①:BUS HOUSE(宮崎県 日南市)【モバイル】

「BUS HOUSE(バスハウス)」はEXx社が提供する、マイクロバスを改造した「動くシェアリングスペース」。キャンピングカーより大きく、ちょうどワンルームマンションに近い馴染みあるスケールで、会議、滞在など多様なニーズに応える。(p.79より引用)

本事例の興味深い使用例の1つに、プロ野球春季キャンプ(2020年2月・日南市)の来訪者向けホテルがあります。毎年春季キャンプが行われる日南市では、市内の宿泊不足により。せっかくキャンプに訪れるファンが市外に流出してしまう課題を抱えていました。その解決策の1つとして挙がったのがこのBUS HOUSEです。キャンプ用品のレンタルを行うCAMPOとも連携することで、動くホテルという新たな滞在所の導入を実現させました。「期間限定の宿泊需要に対応する」というまさに「仮設」だからこそ実現できるビジネスモデルを構築することで、来訪者の流出を防いだのです。もしこの問題を市内にホテルを建設することで解決しようとした場合、キャンプ以外の時期に経営難に陥るのは想像に難くありません。宿泊施設というのは基本的に稼働率が命と言うので、そこを逆手に取ったBUS HOUSEは非常に興味深く感じます。今回の事例のように「人を呼び寄せるのではなく、人のいるところにホテルを移動させれば良い」という逆転の発想は今後も活用できそうな気がします。

事例②:THE FARM TOKYO(東京都中央区)【ポップアップ】

東京駅八重洲口から徒歩1分の都心一等地に立つビアガーデン「THE FARM TOKYO」は農機具の大手メーカーであるヤンマーが東京支社ビルの跡地に手がけた屋外型飲食施設。ビアガーデン、ベーカリー、さらに本格的なバーベキューが楽しめるこの空間は、2022年には新オフィスが入る複合ビルがどう敷地に竣工予定となっており、建て替えまでの暫定利用として7ヶ月間運営された。(p.139から抜粋)

本事例の興味深い点は「建て替えまでの間の暫定利用」に着目した点です。通常、こんな一等地に低層の、ましてや仮設建築物が建つなど、経済的に考えてありえないでしょう。しかし、本事例は建て替え前という暫定期間を使うことで、ビジネス街に豊かな憩いの場を作り上げているのです。持論ですが、これからの時代の大規模開発では、建築物単体はもちろん、工事が着手されるまでの空地や工事着工後の周辺空間も含めてデザインしていく必要があると思います。このような暫定的な利用というのはまさに「仮設建築」の領分であり、これを体現した本事例はポストコロナの時代にも通じる事例の1つとなるでしょう。
追記:蛇足にはなりますが、農機具を手がける会社の本社ビル予定地で、このような食の豊かさを提供する空間を作るのは、企業のブランディングに繋がるのかなと思い、その点も興味深く感じました。

書誌情報

About me

都内で、建築・都市計画を学ぶ大学院生。前回からだいぶ期間が空いてしまいましたが、2冊目アップしました。もしかしたら、追記するかもしれません。


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