冒頭挿絵

漫画で都市と建築 「ぐるぐるてくてく」より「ダンジョン」という魅力的な言葉

どーも、おっちーです。
不定期で漫画から建築や都市を考えてみようという題目で、記事を書いています。
3回目の今回はTV番組の「ブラタモリ」の様な、またいわゆる「日常系」と呼ばれる様な女子高生のほのぼのとした日常を描く漫画から建築の事、建築に魅力的な言葉を見つけたので書いていきたいと思います。
今回紹介する漫画は「ぐるぐるてくてく」という漫画です。

●漫画の紹介

「散歩部」に所属する二人の女子高生が、放課後に街角を散歩して、時に道に迷いながら、美味しいものを見つけたり、不思議なもの、面白いものを見つけたり、のんびりする。そんな漫画です。
町歩きが大好きな部長の「相生葵」と散歩よりはゲームする方が好きなインドア派の「小道歩」の二人が都内のいろんな場所を散歩し、楽しい発見や出会いをしていきます。


散歩をするのは、主に池袋をはじめとした東京都の豊島区、新宿区といった山手線沿線が多いのですが、駅前を少し離れると昔ながらの路地があり、ちょっとした冒険が楽しめる地域でもあります。
その中で魅力的なスポットや時に奇妙な建築を見つけていく。町歩きの醍醐味を丁寧に、そして、散歩する二人の女の子を可愛く、魅力的に描いている漫画です。

●歩が伝える建築の魅力「ダンジョン」

この漫画では度々道中で変わった建築を見つけることがあるのですが、建築を見つけた時の感想として登場人物の小道歩同様に、ゲームが大好きな人なら誰もが共感できる言葉を発しています。

それが「ダンジョン」という言葉です。

ダンジョンというのはいわゆるRPGにおける「迷宮」を意味し、先もわからない洞窟、や不思議が隠されているかもしれない遺跡や建築物をさす言葉です。この「ダンジョン」の様な未知の世界を冒険する。それがRPGというジャンルのゲームの最大の魅力であったりもします。ゲーム好きの歩は部長の「ダンジョンがある」という言葉に惹かれ、重い腰を動かし、散歩についていくのですが、町歩きの途中変わった建築を見た時その姿、雰囲気から

「ダンジョンみたい」

という言葉を度々口にします。


それは日常生活では体験できない不思議で面白い体験ができる。まさにゲームの世界の入り込んだ様な体験ができたから、思わず口にしているのだと思います。
普段何気なく暮らしている街でもちょっと出歩いていると不思議な体験ができる。そして、何よりも「ちょっと変、だけど面白い建物」を見たとき、まるでゲームに出てくるダンジョンに入り込んだようなワクワク感がある。
そういったことを改めて感じさせてくれる言葉だと思いました。

●ぶっちゃけよくわからない建築の言葉

建築というものはその姿や空間、表現として芸術的な面も強く、また建築の表現、歴史が学問として確立されていることもあり、建築を魅力を表す言葉は難解、抽象的なものが多く、初めて聞く人は首をかしげるものが多いです。
例を挙げると

●ファサード(建築の正面の姿)
●シークエンス(連続性、移動したりする中でデザインが変化することを建築用語では指す。)
●パースペクティブ(本来は「視点」という意味ですが、建築では図面を描く方法として使われます。しかし一方で設計しない評論家の人たちは建築と景観という意味でも使います。)
●ヴォイド(空地という意味ですが、吹き抜けとして使います。)
●地域性(意味が使う人ごとに変わるのでもはや意味がわかりません)

こんな感じです。他にもまだまだ学術論文や建築家が述べる新しいコンセプトなど聞いたことも無い、聞いただけでは全く意味がわからない用語がたくさんあるのが建築の世界です。

もしこれらの言葉の意味も知らない、建築に関心も興味が無い人が建築の魅力を訪ねた時にこれらの言葉を並べて説明したらどうでしょう?

多分わけがわからないと思います。
そして「ちょっと、付いていけないなあ」
といった具合でちょっと距離を置いてしまうかもしれません。

実はこのコミュニケーションの不全は「建築の専門家、また建築が好きで専門家の言説を追ったりしている人」と「普段建築に関心を持たない多くの一般の人」との間に頻繁に起こっています。
そして心無い建築好きな人や専門家の中には、このコミュニケーションブレイクダンスに対して
「建築の文化、魅力を理解してない」
さらには
「建築を理解する素養が無い」
とまで言う人もいます。
こうして、建築は非常にカルトでマニアックなものとして閉鎖的になっていく。
そして建築に対する関心が失われ、忘れ去られてしまう。
そして専門家達は「名建築の文化的価値、芸術的価値を理解せずに放棄し、取り壊そうとしている。何ともけしからん」と嘆いたりしています。
(中には心無い言葉を投げかける人もいます。)

実はこうした悪循環は近年、特に戦後間もなく建てられた数多くの建築に対して起こっている問題でもあります。
建築とは何なのか?それをあらゆる人に普遍的に伝える言葉や手段が不足している。そして建築の魅力を伝える方法がとても少ない、常々感じていることです。

(ちなみに私は「建築は人の生活の器」という言葉を文章だったり、動画であったりで使用しています。これは特に引用元も無く、とっさに思いついた言葉ですが、生活を守り、そして見守る、人の生活を安心で安全なものするものという意味を込めています。)

しかし、この漫画の中では、多くの人がその魅力に共感できる言葉で建築を表現しています。
それが「(RPGに出てくる)ダンジョンみたい」です。

この漫画で歩が言葉にする「ダンジョンみたい」と言う言葉。これはゲームをやっている人、またそれほどゲームに詳しい人で無くても、ワクワクする、魅力がある建物であるということが即座に伝わる。素敵な言葉だと思います。
(実際部長の葵はこの言葉で歩を散歩へと誘っています。)


また、子供の様に可愛く無邪気にはしゃぐ姿も楽しさ、魅力を存分に伝えてくれる要素です。


専門用語を並べなくても「面白そう」という感覚や魅力がまっすぐに伝わってくる。それがこの漫画の素敵なところだと思います。

●等身大の魅力が一番大切という事

この漫画の中で私が特に感じたのは
建築の魅力というのは専門用語、学術的に語られるものが全てでは無い。
「ダンジョンみたい」と言ったシンプルだけど馴染みのある等身大の魅力が一番大切なのでは?と言う事です。

そしてそう言った魅力を引き出して生み出していく事が建築にとって大切な事であると思いました。
絵画であったり、音楽と言ったいわゆる芸術表現も建築と同様で学術的に分析、研究されています。
しかし多くの人はその研究、分析結果や用語による解説は不要で「良いものが良い」と感じ、その時発した言葉や雰囲気で魅力を伝えることがきます。

建築に関しても同じ事で、歩が口にする言葉、リアクションは建築の魅力を多くの人たちに十分に伝えるものではないでしょうか?


建築の評論家、もしくは所謂建築オタクの人から見たら
「文化的価値、芸術的価値も知らない高校生が何を言ってるんだ。けしからん」
と思うような言葉や感想こそが、何よりも魅力的で多くの人に訴求力のある魅力なのでは無いか?
そう感じました。つまりかわいい女子高生は正義なんですねw
ではでは


動画も含め、建築を「伝える」「教える」コンテンツ、場を作る事を目標としております。よろしくお願いします。