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13. 錯覚の行き先


 「おー、サンキュ。」
 妻が用意した紅茶を運んでくると、Dは立ち上がり、お盆を受け取り、ティーカップを一つひとつテーブルに置いた。
 そして、何事もなかったかのように、皆は紅茶を飲み始める。
 そしてわたしも、何事もなかったかのように、カップに口をつけ、カステラを飲み込んだ。
 たまに、右手で右膝を触って感触を確認しているわたしが今ここにいる以外に、きっと、何事も、なかったんだ。
 でもそこに確実に残る、温かな、感触。

 たしかにあのとき、当っていた、よね?
 もしかするとそれはわたしの欲求だったの?
 錯覚、だったのかな?
 だとしたらちょっと、重症じゃない?
 なになに、恋してるわけではないでしょ?
 
 ああ、うるさい、頭の中の声!

 その晩、わたしは久しぶりに夫の布団に潜り込んで、夫がとても喜ぶ仕方でたくさん口を使った。しがみつくカラダがもしDだったら、と、一瞬の錯覚を脳に許したとき、潤いが溢れてくるのを感じた。
 夫は、そんなわたしに満足して、わたしのお腹の上に、たくさん射精した。

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