見出し画像

19. 夜中の不意打ち


 濡れた指をしっかり石鹸で洗い、鏡に写る自分を見つめる。
 はぁ…
 羞恥心と、まだ紅潮した頬。
 寝よ。
 洗面所をでて、階段へ向かおうとしたその時だった。
 
 「…Mさん」
 なんと、リビングからつながる廊下に、Dが立っていた。
 「ど、うしました?」
 慌てて、髪に手をやる。何だか、乱れている気がして。
 「あの…。トイレ、どちらでしょう。Kさん、寝ちゃって…」
 「え!?」
 飲んで話している間に、夫はソファーで眠ってしまったようだ。
 「あ、こちらです」
 「どうもどうも」
 トイレに向かうDも、真っ直ぐ歩いていない。二人して、飲みすぎだよ。
 
 体重が七十キロもある夫を動かすのは至難の業なので、とりあえず寝室から毛布を引っ張り出してきて、夫の上に掛ける。
 
 「すみません、僕も酔っ払っているようで。お水、頂けますか」
 はいはい。
 わたしが水を用意している間、リビングの床に座って静かに鼻歌を歌うD。その少年のような姿が、何だかいつものシャンとしている彼とはかけ離れていて、かわいい。
 
 「はい、お水どうぞ」
 「あ、どうもどうも」
 どうもどうも、二回目だ。クスッと笑うわたし。
 
 「ん?なんか顔についていますか?」
 「あ、いえいえ。酔っ払っている姿がかわいいなぁと思って」
 あ、かわいいって言ってしまった。
 
 「ははは!かわいい、ですかぁー」
 「すみません、失礼なこと言って」
 「いえいえ。嬉しいですよ、Mさんにそんなこと言われると」
 
 えっ?
 まだ熱いのに、また頬が赤らむわたし。Dがあまり、わたしを見ていませんように…。
 
 「それはそうと、Mさん…」
 「はい?」
 「さっき…洗面所で何かしていたんですか」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?