23.引き抜き!?
「早速なんですが…」
いつものカフェで、いつも頼むブレンドコーヒーを前にDが口を開いた。
「はい…」
なに、この緊張感。
「Mさん、ウチに来ませんか?」
「え!?ウチって…。Dさんのお宅ですか?」
「あ、いやいや。すみません。ウチって、デザイン部のことです。会社です」
「ああ。…えっ!?」
「いや、あの、色々と僕も考えていたのですが、いい機会かなと思いまして。Mさんの、本当にしたいことが出来るんじゃないかなって」
たしかに、今の部署のことで相談に乗ってもらうにあたって、Dにはわたしのデザインへの思いを伝えたことがあった。
「同じ部署内でしたら僕からもMさんのこと、色々とフォローもできるので。それに…そうすれば、毎日会えますし…」
え?
「上にはそれとなく話してあるんです。もし良かったら、考えてみてください。決定は、まだ急ぎませんので、何かありましたらいつでもご連絡ください」
「…はい。あの、突然のことで驚いてしまって…。すみません、はい、またご連絡します」
「はい、いつでも。あ、そろそろ戻らないと…。こないだのこともありますし、ここはお会計させて下さいね」
席を立ったDは涼しい顔で会計を済ませて、じゃ、と右手を挙げて去って行った。
毎日会えますし…
毎日会えますし…?
その言い回しにどんな意味が含まれているのか、わたしの頭の中では、Dの気持ちへの憶測がますます膨らんでいくばかりだった。
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