シンガポール・スリング
続編になります
相変わらず客のいない静かな店内
ジャズの静かな音色だけが響く
今夜は雨だからこのまま終わるかもしれないな
それもいいな
のんびりできるはずだったがドアチャイムがカランと鳴った
「いらっしゃいませ」
「また来ちゃったよ」
「いつもありがとうございます」
「この店はいつも辛気臭い音楽が流れてるよね」
「ジャズっていうんですけどね」
「それぐらい知ってるよ」
「ご存知でしたか それは失礼しました マティーニはご存知なかったのでジャズもご存知ないのかと」
「そうじゃなくてもう少し明るい曲はないのってことなんだけど」
「この店で流れてる曲は全てオーナーの趣味なんですよ だから明るい曲はないかもしれません」
「そうなの?」
「他のお店に行かれますか?」
「じゃあこのままでいいや」
「ではご注文を」
「君のキス」
「お客様 ここ仕事場なんですよ」
「じゃあ春が似合うカクテル」
「これはまた面白いご注文をいただきました」
「ある?」
「いくつもございますがどれになさいます?」
「知らないよ」
「やはりジン・ベースがお好みですか?」
「そうね」
「ではシンガポール・スリングなどはいかがでしょう」
「それプリーズ」
「かしこまりました」
「ねぇそれってどんなお酒?」
「シンガポール・スリングは・・・」
「このカクテルは甘口で飲みやすいのですが、アルコール度数が割と高く、別名レディー・キラーと呼ばれています」
「私を酔わせてどうしようというのよ」
「早めに潰れてくれると静かになって助かりますから」
「なんだよそれ」
「冗談ですよ でも飲み過ぎには注意です」
それから彼女はシンガポール・スリングを手始めにガブガブとカクテルを飲んでいる
少し酔ってきたのだろうか
「ねぇキスしてよ」
「仕事中」
「誰もいないじゃん」
「目の前に一人 灯さんってお客様がいますよ」
「くそー ストレス溜まってんのに」
「そのストレスはお仕事ですか?」
「だけじゃないけどそれが一番かな」
「どんなお仕事を」
「アサシン」
「朝日新聞?」
「違う 殺し屋」
「なるほどそれで納得」
「エッどうして?」
「先日ちょっと血の臭いがしましたから」
「しっかりシャワー浴びたのに」
「割と鼻はいいんですよ 魚市場ですか? それとも牛? 豚? 鶏?」
「人よ」
「はぁ?」
「冗談よ それより今夜はどう?」
「今夜もですか?」
「イヤならいいよ ほか探すから」
「イヤってわけじゃないんですけど」
「歯切れ悪いな」
「あなたの乱れかたがスゴくって」
「恥ずかしいこというなよ」
「すみません でも赤い顔してるのも可愛いっすよ」
「ダメだってば」
「はは」
夜は更けて若い二人は何をする?
物語はここから始まっています
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