14歳、サディストに憧れた冬
秋の頃にメールを送ったその方からのお返事はとても紳士的で、絵文字や顔文字で文面を飾ることはせず、私との距離感を保ったままのお返事を下さいました。
私は明言こそしなかったのです、自分も縛られてみたいだとか虐められたいだとか、見ず知らずの、しかも親子ほどに年の離れた男性に自分から求めることなんて、はしたない人間だと思われてしまうから。
でも彼は、きっとそれを見透かしていたんです。
その方(これ以降はご主人様とお呼びします) は、何よりも先に「主従関係はお互いに信頼がないと成立しないもの」だと教えて下さいました。
正直、拍子抜けでした。
だって私が夏休みの間に読んでいた小説の中では信頼関係なんて築かれてはいませんでしたし、女性がただ一方的に罵られ、蔑まれ、屈辱を味わいながら犯されるような、そんなイメージをもっていたのですから。
でもご主人様が、「貴女とも信頼関係をゆっくり時間をかけてでもいいから築いていきたい、その上で私に会いたいと思ったその時は、私が今まで調教してきた女性たちのように」と言ったとき、迷いは既になくなっていました。
何度も何度も、夜毎読み返したブログの中で調教を受けている女性のように、私もなれるのだと想像をしてしまったから。
それからほぼ毎日のようにメールのやり取りをしました、本当にゆっくり、少しずつ。
顔写真があった方が貴女も安心できるでしょう、とご主人様の方からお写真を送って下さいました。 年齢や身長、日々の他愛のない話を、いつもご主人様の方からして下さいました。
私には「見てもらいたい、知ってほしいと思った時に教えてくれればいいよ」と言って、無理に要求されることはありませんでした。
最初は紳士的な方だと思っていましたが、そうではなかったのです、思えばその時からもう調教は始まっていたんでしょう。
私はネットリテラシーはそれなりに持ち合わせていた方だったと思います。
だからご主人様にも最初は、年齢と性別くらいしかお話しはしていませんでした。
でも段々と、ご主人様からいただく情報が増えていき人となりがわかってきた頃になってようやく、私のことも見て、知ってほしいと思うようになりました。何が由来の感情かはわかりません、ただ、知ってほしいと、そう思ったのです。
その感情に浮かされて、最初は自分の顔写真を撮り、ご主人様にメールで送りました。その頃からあまり自分の見た目に自信のあるタイプではなかったので、好みでなかったらごめんなさい、なんて言葉を添えて。
拒絶されてしまったらどうしようか、そもそも返事など返ってこなくて私の写真が流出でもされたらどうしようか、なんて心配は全くの杞憂で、そのメールの返信には私の見た目に関する感想などではなく、
「貴女が『私に見て欲しい』という気持ちを自覚して、勇気を出して実行にうつしてくれたそのことがとても嬉しい」
といった旨の言葉が綴られ、文末には「よくできました」と。
体温が1度、上昇したような感覚でした。
嬉しさと、恥ずかしさと、それだけではない複雑な感情が入り混じった不思議な感覚。
愛だとか恋だとかそんな優しいものではなくて、私の中の、満たされない器の縁を指先でつうっとなぞられるような、くすぐったさと、満たされるかもしれないという期待に手を伸ばしてしまうような、そんな感覚。
それからはそれなりの頻度で、自分のことを話すようになりました。
住んでいる都道府県、家族構成、気に入っている本、学校であったこと、成り行きで彼氏ができたこと、文化祭があったこと、美術の授業で褒められたこと、夏よりも冬の方が好きだってこと。
本当に何でも話しました、些細なことにもご主人様は丁寧な返事を下さいましたが、そのやり取りの中に卑猥な言葉が紛れ込んでくることは一切無いまま、私は高校生になりました。
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