14歳、サディストに憧れた秋


秋という季節が好きでした。

私が通っていた中学校はあまり図書室に力を注いでいる風ではなく、窓からの景色はとても殺風景なもので、簡素な長机とパイプ椅子がいくつか置いてあるだけの、あまり居心地の良い図書室ではありませんでした。
でも秋になると、窓枠の内は紅葉に彩られてそれを少し開けると埃のかぶった様なその図書室に、するりとはいってくるあの風が心地良かったのを覚えています。

放課後、友人たちの目を掻い潜りその誰もいない図書室に行って、夏に買ったあの淫靡な小説を読むのが、その年の秋はほとんど日課になっていました、だってクラスメイトが残る教室の中でなんて読めませんもの。

そしてはじめのプロローグを何度目か読んだ頃、ふと、考えてしまったのです、こんな人間は実際にいるのか、と。

中学生、14歳といえど、性に関しての好奇心が少なくともあった私はSやらMやらそんな言葉があることと意味は何となく知っていて、でもそんな言葉をあてがわれるのは大抵がアニメや漫画のキャラクターばかりでしたから、実際にそんな人がいるものなのかと、ふと気になってしまったのです。

女性の、男性と比べて皮下脂肪の多い、肉感のある体躯を縛り、虐げ、罵ることに性的な快感を覚える男性が、空想やファンタジーなんかではなく本当に存在して、今この瞬間も何処かでそんな行為をしているのかと。
そんなことを、ついうっかり、考えてしまったのです。

一度思考を巡らせてしまったことを、頭から消し去ることなんてできませんでした。

思春期特有の想像力の豊かさで、私はその本を通じていろいろな妄想をしました。
登場人物に自分を投影したり、他人を当て嵌めてみたり、同級生の男の子や教師の手を見ては、こんな手が私をいたぶるのかしらと考えてみたり。

教室や図書室の片隅で大人しく本を読む、ただの普通の女子生徒の筈が、そんないやらしい妄想をしているだなんて誰が思ったでしょう。

日々繰り返す妄想は段々と、しかしゆっくり確実に欲へと変わり、私はすっかり、男性に虐げられてみたいと思うようになってしまったのです。

でも、学校の同級生にそうされてみたいだなんて、そんなことは微塵も思いませんでしたし、そもそも当時の私は若干の男性恐怖症で、そんなお願いができる様な人間ではありませんでした。

そこで私は、親から買い与えられていた携帯電話を使い、よく出入りしていたSNSで探してみました。
そして見つけてしまったのです、私が後にご主人様と呼ぶその人を。

その方が綴るブログの中では、さまざまな女性が縛られ、犬のような扱いを受けている様子が、少しの写真と一緒にこと細かに描写されていました。

興奮、と一言で表すのには不足が過ぎるほど、心臓の音が五月蝿く鳴り、身体中を熱い血液が走るのを感じ、肌寒い晩秋にも関わらず携帯電話を持つ手はじっとりと汗をかいていました。

はじめは、その文章を読むだけで私の欲は満たされていたのです。ほんの数日は。

全てのブログを読み、気に入ったものを何度も読み返しては夜毎に自慰に耽っていると、不思議なことにまた沸々と欲が湧いて出てくるのです。
私も縛られてみたい、と。

前述した通り、私は男性恐怖症があったし、インターネットで知り合った人と実際に会うなんてことは、当時はタブー視されていましたから、少し戸惑いはありました、けれど好奇心を抑えきれずに私は、勇気を出してその方にメールを送ったのです。

ブログを全部読んだこと、自分は地方に住む14歳の中学生であること、少し前からSMというものに興味をもっているので、教えてほしいなどと、随分と長いメールを送った覚えがあります。

返事は来ないものと思っていました。
見ず知らずの14歳の女子中学生を名乗る人間からメールが来るだなんて、イタズラか迷惑メールの類と思われても仕方ありませんもの。

でも数日後、お返事が返ってきたのです。


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