「東京」

祖父母の家に行った。
久しぶりに訪れた祖父母の家は、洗面所に手すりが付いていたりピアノが無くなっていたりした。仏壇には花や水の他におせち料理が供えてあったが、三が日も過ぎていたのでいろいろと心配になった。
成人式の前撮りのアルバムを見せたら想像以上に喜んでくれて、テンションが上がったのか母と祖母の写真も出して来てくれた。祖母は日本橋にある百貨店を何軒も回って振袖を選んだと懐かしそうに語ってくれた。母になる以前の母は、私と同じようにぎこちなく微笑んで写っていた。
大学に入学してから「地元」と「東京」の二つの場所を持つ同級生を羨ましく思っていたけれど、この街は私にとっての「東京」ではないかとふと思った。漠然と憧れていて、荷造りが必要で、地元にはないものがあって、ふと故郷が恋しくなる場所が「東京」ならこの街はまさしくそうである。私が生まれた東京と同級生が選んだ「東京」は重なり合いながら別々の場所として存在している。きっと東京は大きなベン図だ。
帰りの車内でこの文章を書いている。磁石のように私は日常へ引き戻されてゆく。車窓から見える景色はいつの間にかマンションばかりになっていて、それに安心している自分がいる。