サイゼでこんなこと考えてるの私だけ

 ランチタイムはとっくに過ぎているのに、サイゼリヤは混んでいた。買い物をしている間に冷房で身体が冷えてしまったので温かいポタージュでも飲もうと思ったのだが、順番を待っている間に限界を迎えてしまいそうだ。と、ここまで書いたところで一名でお待ちの三浦様と呼ばれ、無事に席に着いた。お冷やを飲むためにずらしたマスクの隙間から、ハンバーグやパスタやピザの匂いが入り込んでくる。朝から食べたものといえばフルーツグラノーラだけだと気付き、結局アラビアータとティラミスを注文した。隣の席では女子高生たちがチキンやエスカルゴや参考書で机を埋めている。自分が女子高生だった頃は全くそんなこと思わなかったのに、きらきらしているな、と感じる。週六日の授業、掛け持ちしていた部活、遅くまである予備校、毎日の小テスト、休日の模試、足りないお小遣い、あっという間の門限。今よりも窮屈だったはずなのに、思い返したい記憶がいくつもある。それかどうしてなのか、二十二歳の私にはまだよくわからない。

 アラビアータが運ばれてきた。やや辛めのトマトソースをベースにアンチョビやオリーブで味付けがされている(と思う)。美味しい、と思うと同時に安心する。就活中は外に出る気力がなくて家にいることが多かった。外に出て買い物をして外食を楽しむ余裕が戻ってきたことに私は安堵していた。誰かと一緒にいるのと同じくらい、一人でいることが好きだし、他者と同じくらい自分のことを大切にしたい。ティラミスが運ばれてきた。お皿の上で土砂崩れを起こしているけれど、結局美味しい。300円渡されても私はティラミスを作れないし、テーブルも椅子もカトラリーも用意出来ない。手作りのティラミスもスイーツ店のティラミスもそれぞれ好きだけど、いまこの気分の自分にはサイゼリヤのティラミスが合っている気がする。

 隣の席の女子高生たちは延々と話している。伝票を持ってレジに向かい、会計を済ませて外に出る。少し疲れが取れた身体で新たな目的地へ向かう。欲しいと思っていたものを買いに行こう。アイシャドウ。歌集。チョコレート。自分を肯定することを助けてくれるものたち。一人でいるときも、自分のことを好きでいられるように。一人でいるときも、自分のことを励ませるように。サイゼリヤのアラビアータが美味しく食べられる日を、私はずっと続けたい。