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登山のペースを決める要因

同じルートを登っているのに、人と比べた時に“きつさ”が違うことってありますよね?Aさんは息も切れずにスタスタ登っているのに、自分は大汗をかきながらゼーゼー言いながら登っている。「あ〜、体力がないな・・・」と感じることがあると思います。登山中のトラブルを聞いたアンケートでも「のぼりでの息切れ」は回答の上位にありました。

そもそも、「体力」とか「持久力」とはどういうことなのでしょうか。今日は登山のペースを決める要因の一つである「持久力」についてお伝えします。

1.持久力ってなに?

登山を行う際、少なくとも一日に数時間歩き続けなければなりません。長いコースでは8〜9時間におよぶ場合もあります。何日もかけて山を歩く、縦走もありますね。長時間もの間、身体を動かし続けるために、人間は、自分の体内でエネルギーを作り続けることができます。ただし、車の場合はガソリンを給油してエネルギーに変えるように、人の場合も外から補給(食事)を行わなくては、エネルギーを長時間作り出すことができません。

さらに、食事からエネルギーを作り出す際に、酸素が重要な働きをします。いかに酸素を効率よく取り入れ、素早くエネルギーを作り出すことができるか。これが「持久力」で、その能力が人によって違うのです。

2.持久力を決める要因

持久力を決める構造は大きく分けて3つあります。一つ目は「酸素運搬能力」と言われ、酸素をどれだけ多く取り込むことができるか、という能力です(図1のA)。二つ目は「酸素利用能力」で、取り入れた酸素をどれだけ効率よく利用できるか、という能力です(図1のB)。例えば、たくさん酸素を取り入れることができても、無駄に消費してしまうと一気に疲労してしまいますが、取り入れた酸素を少しずつ使うことができる(省エネですね)と、疲労度合いも違う、ということです。三つ目は「エンジン機構を支える諸器官の耐久力」です(図1のC)。これは内臓の強さや睡眠での疲労回復度合い、など多くの要因が関係しています。

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このように、「持久力」といっても、それを決める要因は一つではないことがわかりますね。図1のAとBをわかりやすくしたものが図2です。どれだけ酸素をたくさん取り込むことができるか(図2の赤色点線)、同じ運動でどれくらいの酸素を使うか(図2の青色点線)、この二つが持久力の差にもなるのです。

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【持久力についてもっと詳しく・・・】

図1のAにある、「酸素運搬能力」のことを、運動生理学では最大酸素摂取量(VO2max)と呼んでいます。運動によっては、最大酸素摂取量くらいの強度で行うものもあります。(※ 最大酸素摂取量の強度を100%VO2max強度と言います。)このような強度の運動は短時間で疲労困憊となり、長時間続けることができません。登山の場合は、長時間歩き続ける運動なので、最大酸素摂取量よりも最大下での運動を持続できる持久力が必要です。登山は、運動強度は最大酸素摂取量の75%以下の強度(75%VO2max強度)で行うことが望ましいとされます。それ以上の強度になると、心拍数が上昇しすぎたり、呼吸がきつくなったり、乳酸が溜まりやすくなってしまうからです。75%VO2max強度を換気性作業閾値(Ventilation Threshold=VT)または、乳酸性作業閾値(Lactate Threshold=LT)とも言います。登山を楽に行うためには、VTやLTを上げるための持久力トレーニングが必要です。そのために重要なことは、トレーニング強度です。トレーニングの原理「過負荷の原理」に従って、最大酸素摂取量の65〜85%の強度で運動を行いましょう。

3.アスリートと登山家の持久力

持久力には個人差があると記載しましたが、どのくらいの差があるのでしょうか。持久力の指標の一つ「最大酸素摂取量」。この値を測定した研究はたくさんありますが。競技別にまとめられたものの一部を紹介します。

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一般的に、最大酸素摂取量は短距離種目の選手よりも、長距離種目の選手の方が高いと言われています。また、登山家の最大酸素摂取量は一般人よりも高いですが、他のスポーツ選手と比べるとそれほど高くないこともわかります。

4.まとめ

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※こちらは、5月4日配信の期間限定記事となります。5月は限定記事のみ無料で配信いたします!!

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