三浦法律事務所/Miura & Partners
危機管理INSIGHTS Vol.1:外国公務員贈賄規制の勘所①-なぜ外国公務員に贈賄してはならないのか?-
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危機管理INSIGHTS Vol.1:外国公務員贈賄規制の勘所①-なぜ外国公務員に贈賄してはならないのか?-

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1. はじめに

2021年5月、経済産業省は「外国公務員贈賄防止指針」(以下「本指針」といいます。)の改訂版、および「外国公務員贈賄防止指針のてびき」(以下「てびき」といいます。)を公表しました(各々の内容については、下記経済産業省のウェブサイトをご参照ください)。

【関連リンク】
経済産業省「外国公務員贈賄防止指針(平成16年5月26日(最終改訂:令和3年5月))

経済産業省「外国公務員贈賄防止指針のてびき―知らないでは済まない贈賄リスク―

本指針は文字どおり外国の公務員に対して賄賂を贈ることを防止するための指針であり、海外に進出してグローバルでの商取引を行う企業にとって重要性の高いテーマを取り扱っています。

今回は、本指針の改訂版を読み解く上で押さえておくべき基本事項を解説していきます。

2. 外国公務員贈賄規制に関する基礎知識

(1)なぜ外国公務員に賄賂を贈ってはならないのか?

まず大前提として、なぜ外国公務員に賄賂を贈ってはならないのでしょうか?

経済産業省の「外国公務員贈賄罪Q&A」というウェブサイトでは、「外国公務員等に対する贈賄を禁止する趣旨は何ですか?」という質問がQ1として冒頭に掲げられています。

これに対する回答は、「1997年12月にパリのOECD本部において、我が国を含む33ヶ国により『国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(以下『外国公務員贈賄防止条約』という。)』が署名されました(1999年2月発効)。この条約は、国際商取引における外国公務員への不正な利益供与が、国際的な競争条件を歪めているとの認識のもと、これを防止することにより、国際的な商取引における公正な競争を確保することを目的としています。これが我が国においても、外国公務員等に対する贈賄を禁止する趣旨です。」というものです。

ここで引用されている外国公務員贈賄防止条約の前文では、「贈賄が国際商取引(貿易及び投資を含む。)において広範にみられる現象であり、深刻な道義的及び政治的問題を引き起こし、良い統治及び経済発展を阻害し並びに国際的な競争条件を歪めている」と記載されています(外国公務員贈賄防止条約の本文については、下記外務省のウェブサイトをご参照ください)。

【関連リンク】
外務省「外国公務員贈賄防止条約

賄賂が国際的な競争条件を歪めるとは、どういうことでしょうか?

例えば、X国での国家的な建設プロジェクトの入札案件において、他国籍の企業(A国企業、B国企業、C国企業)が入札に参加したケースを考えてみてください。

本来であれば、各国企業の提案をX国の公務員が吟味し、条件を満たす提案のうち、最も低い落札額を提示した企業を選ぶのが公正な入札プロセスと言えます。

しかし、C国企業が、X国の公務員に対して、入札プロセスに手心を加えてもらうために賄賂を贈ったらどうなるでしょうか?例えば、最低落札額を聞き出す目的でX国の権限ある公務員に賄賂を贈ったらどうなるでしょうか?

賄賂を贈ったC国企業が事前に聞き出した最低落札額を提示することでC国企業がプロジェクトを落札し、収賄をしたX国公務員は私腹を肥やすことになります。これが公正な競争ではないことは一目瞭然です。

また、X国では賄賂を多く贈った企業が案件を落札できるという評判が広まると、他の案件でも各企業による賄賂合戦が繰り広げられかねず、公正な競争はおよそ期待できなくなってしまいます。

図1

(2)現地法による贈賄防止規制では足りないのか?

外国公務員に対する贈賄が、国際的な商取引における公正な競争を歪める悪しきものであるとして、それを当該外国の法令のみならず、日本の法令でも規制するのはなぜでしょうか?

非政府組織であるTransparency Internationalは、毎年各国の公的機関における汚職件数等をベースにした腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)のランキングを発表しています。

2020年版ランキングにおいても、新興国ではいまだにHighly Corruptと評価されている国が少なくないことが分かります(下記地図の赤色が濃いほどHighly Corruptとされています)。

そのような国の現地法のみに頼っていては、贈賄行為を抑止することは現実的に困難と考えざるを得ません。

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出典:Transparency International CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2020 Maps

(3)日本で外国公務員贈賄規制を定めるに至った経緯は?

歴史的経緯についてごく簡単にご説明すると、アメリカにおいて、ウォーターゲート事件等を契機に、アメリカの企業による外国公務員への贈賄行為が国内で問題視され、1977年にFCPA(Foreign Corrupt Practices Act、米国海外腐敗行為防止法)が制定されました。

その後、FCPAでアメリカの企業だけが外国公務員への贈賄につき規制を受けるのは公正ではなく、アメリカの国際競争力が不当に削がれるとの意見がアメリカ国内で出されるようになりました。

そのようなアメリカの動きや他国への働きかけもあり、1997年にOECD(経済協力開発機構)において条約交渉の開始が勧告され、1999年2月15日に外国公務員贈賄防止条約が発効しました(詳細な経緯については、経済産業省の下記ウェブサイトをご参照ください。)。

【関連リンク】
経済産業省「2. 条約策定の経緯

外国公務員贈賄防止条約第1条では、以下の定めを置き、締約国に「外国公務員に対する贈賄」を犯罪として国内法で定めることを求めています。

外国公務員贈賄防止条約
第1条(外国公務員に対する贈賄)
1.締約国は、ある者が故意に、国際商取引において商取引又は他の不当な利益を取得し又は維持するために、外国公務員に対し、当該外国公務員が公務の遂行に関して行動し又は行動を差し控えることを目的として、当該外国公務員又は第三者のために金銭上又はその他の不当な利益を直接に又は仲介者を通じて申し出、約束し又は供与することを、自国の法令の下で犯罪とするために必要な措置をとる。

2.締約国は、外国公務員に対する贈賄行為の共犯(教唆、ほう助又は承認を含む。)を犯罪とするために必要な措置をとる。外国公務員に対する贈賄の未遂及び共謀については、自国の公務員に対する贈賄の未遂及び共謀と同一の程度まで、犯罪とする。

3.1及び2に定める犯罪を、以下「外国公務員に対する贈賄」という。

日本も外国公務員贈賄防止条約の当初からの締結国として、1998年に国内法である不正競争防止法において外国公務員贈賄罪を定めるに至りました。

不正競争防止法
第18条(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)
1.何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。

2.前項において「外国公務員等」とは、次に掲げる者をいう。
(略)

その後、2004年5月に、日本国民が海外で賄賂の申込みや供与などを行った場合についても処罰対象とする旨(国民の国外犯処罰の導入)の不正競争防止法改正がなされました。

そして、経済産業省は「外国公務員贈賄罪に関し、国際商取引に関連する企業における自主的・予防的アプローチを支援するという目的」で、2004年5月26日に本指針を策定しました。

なお、現在、外国公務員贈賄罪に対しては、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又はこれらの併科)、法人重課として3億円以下の罰金が科せられることと定められています。

(4)日本ではどのような外国公務員贈賄罪の適用事例があるのか?

本指針39~41頁において、以下の訴追事例が紹介されています。

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3. 本指針の改訂とてびき作成の経緯

(1)なぜ今回の本指針が改訂されたのか?

外国公務員贈賄防止条約を踏まえて、条約の実施の監視・促進を担うOECD贈賄作業部会(Working Group on Bribery。以下「WGB」といいます。)が条約締結国間の相互審査(ピア・レビュー)を実施しています。WGBは、日本に対しても、これまで4回にわたり審査を行い、その結果を「審査報告書」の形で公表し、日本に対する勧告を行っています。

2019年にOECD贈賄作業部会は日本の外国公務員贈賄防止条約の履行状況の審査を行い(フェーズ4審査)、同年6月27日に「第4期対日審査報告書」を公表し、勧告を行いました(「フェーズ4審査報告書」と訳されることもあります。第4期対日審査報告書の原文については下記OECDのウェブサイト、エグゼクティブ・サマリーおよび勧告の仮訳等については下記外務省のウェブサイトをご参照ください)。

【関連リンク】
OECD「Japan-OECD Anti-Bribery Convention

外務省「OECD贈賄作業部会による第4期対日審査報告書の公表

第4期対日審査報告書では、「条約の発効から20年が経過したが、WGBは日本が未だに外国公務員贈賄罪を十分に実施していないことを引き続き懸念する。全体として、日本は46件しか外国公務員贈賄の疑いのある事案を探知しておらず、その半分はWGBが日本に知らせたものである。知らされた46件の事案のうち、日本は30件を捜査し、5件の外国公務員贈賄事案で12個人及び2法人の起訴に至った。これは、日本の経済規模並びに日本企業がリスクの高い地域及び分野で活動していることに鑑みれば著しく低い。」と指摘されています。

また、勧告では①外国公務員贈賄の探知に関する勧告、②外国公務員贈賄罪の執行に関する勧告、③法人の責任及び法人への関与に関する勧告、④条約の履行に影響するその他の措置に関する勧告という表題の下、17にわたる勧告がなされました。

この勧告内容については、「外国公務員贈賄防止に関する研究会」において議論がなされ、当該議論を踏まえて、2021年5月12日に「外国公務員贈賄防止に関する研究会報告書」が公表されました。

そして、この研究会での議論やパブリック・コメント手続で寄せられた意見を踏まえて、冒頭でご紹介した本指針の改訂とてびきの作成がなされました。

(2)なぜてびきが作成されたのか?

OECD贈賄作業部会は、第4期対日審査報告書(原文80頁)において、経済産業省が中小企業向けのガイドラインを策定し、相談や周知活動に用いることを勧告しています。

これを受け、経済産業省は、外国公務員贈賄防止指針とパンフレットの間の位置づけとなる中小企業向け資料として、てびきを作成し、公表しました。

ちなみに2頁で簡潔にまとめられたパンフレットは、経済産業省の下記ウェブサイトからダウンロードできます。

【関連リンク】
経済産業省「外国公務員贈賄防止に関するパンフレット『海外進出する企業必見 外国公務員贈賄罪を知っていますか?』

4. まとめ

外国公務員贈賄規制は、海外進出を考える企業が避けては通れない、知らないでは済まされない非常に重要な法規制です。世界各国で贈賄等の汚職を撲滅すべく様々な法改正や取組がなされており、贈賄が発覚した企業は多額の罰金刑を受けるのみならず、甚大なレピュテーション・ダメージを被る可能性があります。

今回は、外国公務員贈賄規制の基礎を解説しましたが、次回はこれを前提として、本指針の内容を解説していきたいと思います。

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Author

弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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