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イノベーション法務 Vol.1:スタートアップ育成5か年計画の進展

2024年に入り、政府が2022年11月28日に公表した「スタートアップ育成5か年計画」(以下「5か年計画」といいます。)は、2年目を迎えることになります。

5か年計画では、2027年度にスタートアップへの投資額を10兆円規模(計画策定当時の8,000 億円規模の10倍以上)とすることを目標に、以下の3本柱の取組を一体として推進することを打ち出しました。

① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
③ オープンイノベーションの推進

そして、昨年2023年6月16日に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」(以下「2023年実行計画」といいます。)では、上記目標の実現には、5か年計画の初期に法律・税制等の制度面の整備が急務である旨が指摘され、これをうけ、2023年から現在に至るまで、様々な施策が検討・具体化されています。

以下では上記①~③の3本柱に関する施策をいくつか取り上げつつ、5か年計画の進展状況を簡単に確認したいと思います。


1. スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築

日本は、起業を望ましい職業選択と考える人の割合が先進国・主要国の中で最も低い水準にあり、スタートアップの起業を志す人材の育成を進める必要があるとされており、2023年実行計画では、以下のような施策が示されました(2023年実行計画 V.2.(4))。

このうち、上記⑫スタートアップ・大学における知的財産戦略については、大学知財の社会実装機会の最大化と大学の資金の好循環の実現を図るべく、2023年3月29日に内閣府・文部科学省・経済産業省から「大学知財ガバナンスガイドライン」が公表され、2023年実行計画においても、このガイドラインを踏まえて大学の知財のガバナンス改革を推進すること等が述べられています。とりわけ、5か年計画において次世代の産業の核となり得る旨が指摘されるディープテック分野においては、従前より公表されてきた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」やその追補版と併せて、注目すべきガイドラインといえます。

また、上記①ストックオプションの環境整備に関しては、2023年12月14日に与党から令和6年度税制改正大綱が公表され、スタートアップ・エコシステムの抜本的な強化に資するよう、税制適格ストック・オプションの要件を緩和することが示されました(詳細については、弊所note「税務UPDATE Vol.20:令和6年度税制改正大綱による税制適格ストック・オプションの要件緩和」をご参照ください。)。

2. スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

2023年実行計画では、スタートアップへの資金供給の強化と出口戦略の多様化に向けた具体策として、以下のような取組を推進する旨が述べられています(2023年実行計画 V.2.(5))。

上記㉒有価証券届出書・会社登記等における個人情報の取扱いに関しては、金融庁・法務省がそれぞれ法令の改正を進めており、前者については2024年4月1日付(「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について)、後者については、同年6月3日付(法務省:商業登記規則等の一部を改正する省令案の概要)で施行される予定です。

また、上記⑩⑬⑭等のスタートアップへの資金供給の強化全般については、経済産業省が2023年11月よりスタートアップ・ファイナンス研究会を設置し、未上場・上場の国内スタートアップのファイナンス環境を改善するための課題や施策について議論が開始されています。

第1回研究会では、主に以下のような未上場株式市場に関する論点が示され(経済産業政策局 産業資金課:「スタートアップ・ファイナンス研究会(事務局説明資料)」)、その他の論点も含め様々な議論がなされました。

・株式投資型クラウドファンディングの募集上限や開示負担
・未上場株式の特定投資家私募における証券会社の関与の在り方や特定投資家の範囲の拡大
・法定開示が不要となる少人数私募に該当する基準
・PTSによる未上場株式の流通(スタートアップ企業の情報提供やPTS事業者の許認可取得等)
・日本証券業協会自主規制(証券会社による未上場株式の投資勧誘禁止原則)

出席委員からは、各論点についておおむね以下のような意見が挙げられ(第1回スタートアップ・ファイナンス研究会 議事録)、スタートアップへの資金供給の強化と適切な規制に基づく株式市場の健全性担保のバランスが重要であることが再確認されました。同研究会では今後も議論を重ね、2024年3月頃に中間とりまとめを行う予定です。

併せて、スタートアップへの成長資金への供給については、2023年12月12日に公表された「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース 報告書」でも言及されており、スタートアップ企業への資金供給の活性化や5か年計画における目標の達成に関しては、例えば以下のような指摘がなされています。

3. オープンイノベーションの推進

2023年実行計画では、オープンイノベーションを推進するため、以下の取組を実施する旨が述べられています(2023年実行計画 V.2.(6))。

このうち、②スタートアップの労働環境整備に関し、成長分野への労働移動を図る端緒として、副業・兼業を奨励することが指摘されていますが、副業の意向がある労働者に比して実際に副業をしている労働者数が増えていない現状も指摘されており、これを踏まえ、2023年12月26日の「規制改革推進に関する中間答申」では、副業・兼業の円滑化に向けた施策立案に向けた措置を講じるものとされました。

とりわけ、割増賃金の支払いに係る労働時間の通算管理の在り方については、2024年1月23日に開催された労働基準関係法制研究会でも課題として取り上げられており、今後労働基準法等の改正も視野にいれた議論がなされる予定です(詳細については弊所note「労働法UPDATE Vol.8:新しい働き方とこれからの時代の労働法~労働基準関係法制研究会の開催~」をご参照ください。)。


弁護士 岩崎 啓太(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2019年弁護士登録(東京弁護士会所属)
西村あさひ法律事務所を経て、2022年1月から現職。
人事労務に関わる企業の法律相談や紛争対応に取り組む一方、スタートアップ支援にも携わり、関連する企業法務全般を取り扱う。直近では、「ビジネスと人権」などESG/SDGs分野のほか、地方創生領域にも注力している。

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