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【11/19更新】インドネシア最新法令UPDATE Vol.6:オムニバスローの制定②「事業実施のための許認可システム」

※オムニバスロー施行後の当局との議論等を踏まえて、11月19日に一部内容を修正しています。

前回は2020年10月5日に国会で可決されたオムニバスローの概要と外資規制への影響について触れましたが、今回は、事業実施のための許認可システムへの影響について検討します。

なお、前回の記事においては、「オムニバスローは国会で可決されているものの、(デモや暴動もあってか)大統領の署名が未了となっています。」と記載していましたが、先日ついに正式版が公布されました。正式版では、法律番号が付され、オムニバスローの正式名称は、「雇用創設に関する法2020年11号」とされています。

正式版においては、国会可決時に出回っていたドラフトから「文言調整」という名目でさまざまな修正が加えられています(国会で可決された後に文言が変わるというのは日本の感覚からするとかなり違和感があるかと思います)。可決時に出回っていたドラフトは905ページでしたが、正式版では1187ページと大幅に増えています。オムニバスローに関しさまざまな情報が出回っていますが、正式版の内容を参照するよう留意する必要があります。

1. インドネシアにおける許認可の仕組み(これまでの改正の経緯)

インドネシアにおける許認可システムは、2018年のOSSシステムの導入により大きな変動を遂げていました。OSSシステムとは、許認可の申請・発行を一元的に管理する、許認可に関する基幹システムです。OSSシステム導入前は、事業者は事業実施前に投資調整庁から許可を取得する必要がありました。もっとも、OSSシステムの導入により、許認可発行が自動化され、投資調整庁が事前に許可基準を満たしているか否かを確認することなく、システム上自動的に許認可が発行される仕組みとなりました。OSSシステムで発行される許認可には、「コミットメント」と呼ばれる、事業者が満たすべき条件が記載されていました。この「コミットメント」が充足されてはじめて、許認可は有効になるものとされていました。OSSシステムの仕様やバージョンは頻繁にアップデートされ、実務も展開中でした。

2. オムニバスローにおける許認可の仕組み

オムニバスローにおいては、「リスクベースの許認可」というコンセプトが新たに導入されています。「リスクベースの許認可」においては、①リスクの程度、②リスク発生の蓋然性を考慮して、事業を低リスク事業、中リスク事業、高リスク事業の3つのカテゴリ―に分類するものとされています。そして、それぞれの分類ごとに必要となる許認可を種類を定めています。

(1)カテゴリー分け及びその基準

a. 概要
上記のとおり、オムニバスローではリスクの観点から事業を3つのカテゴリーに分類しています。

カテゴリー1:低リスク事業活動
カテゴリー2:中リスク事業活動
カテゴリー3:高リスク事業活動

中リスク事業活動は、更に中~低リスク事業活動と、中~高リスク事業活動に分類されるものとされています。中~低リスク事業活動の例としては、農村観光業、ホテルマネジメントサービスが挙げられています。中~高リスク事業活動の例としては、冷蔵庫の製造や、建物に備え付ける鉄製の重建設設備の製造(英訳は「manufacture of ready to use heavy construction made from steel for building」であり、やや分かりにくい表現となっています。「manufacture of ready to use heavy construction equipment made from steel for building」という趣旨かと推測されます)が挙げられています。

その上で、それぞれの事業がどのカテゴリーに分類されるかは、①リスクの程度及び、②リスク発生の蓋然性の観点から判断されるものとしています。

b. リスクの程度
リスクの程度は、健康、安全、環境、資源利用のそれぞれの側面につき評価するものとされています(オムニバス法7条3項)。そして、それぞれの側面ごとの評価は以下の要素を考慮して行われるものとされています。

• 業種
• 事業のクライテリア
• 事業地
• 資源の希少性
• ボラティリティー

c. リスク発生の蓋然性
実施予定の事業につき、リスク発生の蓋然性がどの程度かにつき評価し、以下のいずれがあてはまるかを判断するものとされています。

• 蓋然性なし
• 蓋然性は低い
• 蓋然性あり
• ほぼ確実に発生する

d. 考察
オムニバスローでは、「リスクベースの許認可」のコンセプトが示されました。しかし、これらはあくまでコンセプトにとどまり、具体的な事業が低リスク事業、中リスク事業、高リスク事業のどれに該当するかを判断できるほどの具体性はないように思われます。原子力発電事業を例に検討してみると、①「リスクの程度」に関しては非常に高いといえますが、②原子力事故は頻発しているとは言えず、「リスク発生の蓋然性は低い」といえるように思います。しかし、結局これが低リスク事業、中リスク事業、高リスク事業のいずれにあてはまるのかを最終的にどのように判断するかは、オムニバスローからは明らかではないように思われます。

「リスクベースの許認可」に関する具体的な事項については、政府規則で定めるものとされています(オムニバスロー12条)。「リスクベースの許認可」が具体的にどのようなものになっていくか、政府規則の制定動向を注視する必要があります。

(2)各カテゴリーごとに必要となる許認可の種類

a. 概要
「リスクベースの許認可」においては、事業がリスクに応じて低リスク事業、中リスク事業、高リスク事業の3つのカテゴリーに分類されることが分かりました。それでは、カテゴリーごとに、どのような許認可を取得することが必要とされているのでしょうか。この点につき、オムニバスローでは以下のように定められています。

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b. 中リスク事業で必要となる「スタンダード証書」について
ⅰ)概要
中リスク事業で必要となる「スタンダード証書」は、中~低リスク事業と中~高リスク事業のいずれについても同じ文言(sertifikat standar)が使われています。しかし、オムニバスローでは、中~低リスク事業で必要となる「スタンダード証書」と、中~高リスク事業で必要になる「スタンダード証書」は異なるものであることが説明されています。

ⅱ)中~低リスク事業で必要となる「スタンダード証書」
中~低リスク事業で必要となる「スタンダード証書」とは、事業の条件を満たすことを説明する事業者の供述書を指すとされています(オムニバス法9条4項)。

ⅲ)中~高リスク事業で必要になる「スタンダード証書」
これに対し、中~高リスク事業で必要になる「スタンダード証書」は事業実施のための条件を満たしていることを確認したうえで、中央政府または地方政府が発行する証明書を指すとされています。

c. 高リスク事業で必要となる「事前の許可」について
高リスク事業で必要となる「事前の許可」とは、中央政府または地方政府が発行する事業実施のための許可(事業活動実施の前に取得される必要あり)であるとされています。

「リスクベースの許認可」の詳細はまだ明らかではなく、その評価についてはインドネシア人弁護士の間でもさまざまな意見があるところです。一つの評価としては、低リスク事業および中~低リスク事業においては、当局が発行する許認可・証明書が不要とされている点で、許認可発行事務の更なる簡易化を図ったものとも評価できるかと思われます。そして当局による事前の許認可・証明書が必要となる事業を中~高リスク事業および高リスク事業に限定することで、許認可事務の効率化と事業活動に対する適切なコントロールのバランスをとっているという評価もあり得るように思われます。

なお、中~低リスク事業で必要となる「スタンダード証書」と高リスク事業で必要となる「事前の許可」とは、いずれも当局による事前審査である点で共通しています。両者がどのように異なるのか、必ずしも明らかではありません(たとえば、「事前の許可」については当局の裁量が働きますが、「スタンダード証書」については条件を満たしていれば必ず発行されなければならず、当局に裁量はないのか、オムニバスロー自体からは明らかでないように思われます)。今後政府規則で明確化されることが期待されます。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『インドネシアビジネス法実務体系』(中央経済社、2020年)など

この記事は、インドネシアの法律事務所であるARMA Lawのインプットを得て作成しています。

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