中国最新法令UPDATE Vol.5:中国輸出管理法
越境ECビジネスの発展や中国国内の技術水準・ブランド力の向上も相まって、中国国内から海外への物資の輸出や技術移転は引き続き活発に行われています。そのような中、中国政府は、「輸出管理法」(以下「本法」といいます。)を制定し、2020年12月1日より施行しました。さらに翌2021年4月28日には、本法の下位規則である「デュアルユース品目輸出管理内部コンプライアンスガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)およびその指導意見(以下「本意見」といいます。)が公表されました。
その後、大きな動きもなく約一年が経過しました。しかし、2021年12月29日に国務院新聞弁公室は、「中国の輸出管制」の白書を発表し、中国輸出管理の基本立場や輸出管理の法規制度、実践等を紹介しました。さらに、同年12月30日にポータルサイトである「中国輸出管理情報サイト」を開設し、法令の周知に向けて動いています。今後、法令の具体化や法執行にさらなる進展が出てくる可能性もあり、ここで、本法とその関連規制の概要を改めて整理して説明します。中国に現地法人を有する日本企業や中国からの輸入取引を行っている事業者の皆さまにとって、これから中国の輸出関連規制に対応する際の一助になれば幸いです。
1. 中国輸出管理法
本法は、管理品目、輸入業者およびエンドユーザーについて規制リストを作成し、当該リストに該当する輸出行為を禁止・制限することで、中国からの輸出の管理を行う法律です。
概要は下表のとおりです。
本法の特徴として、①みなし輸出規制と②再輸出規制の2つの制度が挙げられます。
①みなし輸出規制とは、中国企業から同じく中国国内に存する外資系企業や外国籍の者に対し貨物や技術、サービスを提供する際も、輸出管理制度が適用され中国政府の許可が必要になる可能性があることをいいます。本法2条では、「中華人民共和国の公民、法人と非法人組織が外国の組織と個人に管理品目を提供すること」に対して輸出管理制度が適用されると規定されているため、国外への輸出だけでなく上記のような国内取引をも対象としているように読み取れ、日欧米から条文の明確化を求められましたが、結局明確にならないまま本法が成立しました。そこで、現地法人を有する日本企業は、中国国内における中国企業との間の取引においても本法が適用される可能性があることを前提に、現地法人内部のコンプライアンス体制も整備していく必要があると思われます。
また、②再輸出規制とは、中国からの管理品目について許可を得た上で海外に輸出し、海外で当該品目を組み込んで製造された製品をさらに第三国に輸出する場合にも、輸出管理規制が適用され中国政府の許可が必要になる可能性があることをいいます。本法45条は「管理品目の国境通過、中継輸送、通し輸送、再輸出・・・は、本法の関連規程に基づいて実行する。」とのみ規定しており、これについても日欧米より規定内容の明確化が求められましたが、結局明確化されないまま本法が成立しました。
以上のとおり、現状、本法を直接の根拠法とする管理品目リストおよび禁輸先リストのいずれも作成されておらず(※5)、また、不明瞭な規定内容を補足する下位規則についても未制定となっていますので、今後の執行・運用方法について予測できないところも多いといえます。ただし、本法に基づくガイドラインや指導意見は公表されていますので、リストや下位規則が制定されるのも時間の問題と思われ、あらかじめ内部体制を整備し対策を講じておく必要性は高いと思われます。
2. 関連規制
本法の施行後も、既存の輸出管理規制は有効に存続しており、本法の施行を受けて輸出管理体制強化の観点から既存の輸出管理規制も一部改定されていますので、これらの関連規制の内容を理解し、遵守することも重要です。
そこで、本稿では、特に重要な関連規制についていくつか紹介します。
(1)対外貿易法
1994年に貿易に関する基本法として制定され、2001年のWTO加盟を受けてWTOの規則に従うべく改正が行われました。
対外貿易法では、貿易の公平性と透明性の実現のため、輸出入の原則自由化について定めている一方、輸出入が制限・禁止される貨物・技術の原則についても規定しており(16条)、貨物輸出入管理条例や技術輸出入管理条例、貨物輸出許可証管理規則等の下位規則において、規制品目の詳細が定められています。
(2)輸出禁止・輸出制限技術リスト
対外貿易法の下位規則である技術輸出入管理条例に基づくリストです。同リストにより輸出が禁止される技術品目は輸出が禁止され、輸出が制限される技術品目は、省レベルの商務主管部門から許可を得なければ技術移転に係る交渉や契約締結をすることができません(技術輸出入管理条例31条・33条)。
近年、安全保障の観点からリストの大幅な改訂が行われ、2020年8月28日より改訂版のリストが実施されました。ドローン関連技術や情報セキュリティ関連技術、暗号や基盤ソフトウェアの安全に関する技術等が新たに規制品目に加わりましたが、その改訂内容は本法に基づく管理品目リストにも反映されていくのではないかと考えられています。
(3)信頼できないエンティティ・リスト
対外貿易法の下位規則として2020年9月19日に新たに施行されました。同リストは、中国企業に危害を及ぼす、信頼できない外国エンティティをリスト化し、輸出入を禁止・制限する等の制裁措置を講じることを目的としたものであり、概要は以下のとおりです。
なお、同リストと本法の禁輸先リストの関係は明確ではありません。下記の規制対象の②が輸出管理法の規制対象範囲に含まれていない点に鑑みると、同リストの方がより広範となる可能性があるものの、同リストに掲載された外国エンティティが禁輸先リストにも反映されていく可能性はあると思われます。
3. デュアルユース品目輸出管理内部コンプライアンスガイドラインおよびその指導意見
2021年4月28日、本法5条に基づくデュアルユース品目輸出管理内部コンプライアンスガイドラインおよびその指導意見が公表されました。本ガイドラインおよび本意見は、輸出者が輸出管理の内部コンプライアンス体制を構築する際の指針が示されております。
本ガイドラインは、良好なコンプライアンス体制の構築のために必要な9つの要素を掲げており、概要は以下のとおりです。なお、本意見はこれら9つの要素のポイントをまとめています。
本ガイドラインおよび本意見は、法的強制力を有するものではありませんが、輸出管理規制の違反リスクを低減するため、輸出者となる日本企業の現地法人では、上記9つの要素を参照しながらコンプライアンス体制を構築していくのが望ましいと思われます。
4. まとめ
上記のとおり、本法によれば、エンドユーザーまたは最終用途の管理要求事項に違反した輸入業者・エンドユーザーは、禁輸先リストに掲載され輸出が禁止されるほか、中国国外の組織・個人も本法に違反した場合には法的責任を追求されるおそれがあるため、現地法人のみならず、現地法人その他の中国企業との間で取引を行う日本企業自身も、輸出管理規制に配慮したコンプライアンス体制を構築していくことが求められます。
具体的には、最新情報のチェック体制、内部コンプライアンスルールの確立、既存の取引や新規取引・プロジェクトの実態審査・リスク評価、現地法人との連携・親企業主導によるコンプライアンス体制の整備等が課題になると考えられます。
なお、多様化・複雑化している法規制分野であるため、自社のビジネスも規制を受けるか否かの確認、また、具体的な制度構築の方法については専門家に相談することをお勧めします。
Authors
弁護士 湯浅 紀佳(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2003年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。中国の法律事務所で経験を積み、2005~2018年森・濱田松本事務所。2013~2016年同北京オフィス一般代表。2019年から現職。
弁護士 趙 唯佳(三浦法律事務所 カウンセル)
PROFILE:2007年中国律師資格取得。2007~2019年森・濱田松本法律事務所。2019年4月から現職。
弁護士 大滝 晴香(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2017~2020年3月北浜法律事務所。2020年4月から現職。
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