税務UPDATE Vol.21:生前贈与の加算期間の延長 2024年1月1日以後の贈与が対象に
1. はじめに
税制改正大綱が話題となる時期になりました。令和6年度税制改正大綱では、資産課税について、法人版事業承継税制(特例措置)に係る特例承継計画の提出期限の2年間の延長(なお、特例制度の適用期限は延長されていません。)、直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の3年間の延長等が盛り込まれたものの、全体的に小粒な改正にとどまっています。
これに対し、令和5年度税制改正では、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」として、
① 相続時精算課税制度の使い勝手を向上するための見直し
② 暦年課税における相続前贈与の加算期間の見直し
という大きな改正が行われ、注目を集めました。
このうち、本稿で取り上げるのは、②暦年課税における相続前贈与の加算期間の見直しについてです。以下で述べるとおり、令和6(2024)年1月1日以後に行う贈与が対象となりますので、本年以降に行う相続税対策としての生前贈与に関して注意が必要となります。
2. 暦年課税における相続前贈与の加算期間の見直し
(1)改正の概要
相続税の課税価格の計算に当たっては、民法上の相続財産や生命保険金等のみなし相続財産の価額等のほか、被相続人の生前に贈与を受けた財産も加算の対象となります(*1)。
ここで加算対象となる贈与の期間が、図表1中の(*2)にあるとおり、改正前は相続開始前3年以内とされていたのが、令和5年度税制改正によって、相続開始前7年以内に延長されました(相続税法19条)。
そして、この7年への延長については、ある年から突然7年になるのではなく、徐々に延長されることが決まっています。具体的には、加算期間の延長は、令和6(2024)年1月以降に行われた贈与について適用することとされているため、図表2のとおりに、徐々に加算対象期間が延長され、令和13(2031)年開始以降の相続から、7年の期間が適用されることになります。
この点、本年すなわち令和6(2024)年についてみると、本年中に開始した相続に関しては、従前どおり相続開始前3年の贈与が対象となりますが、再来年の令和8(2026)年中に開始した相続については、相続開始前3年以内の贈与に限らず、令和6(2024)年1月1日に行った贈与までさかのぼられることになっています。つまり、本年中に行った贈与が、令和8(2026)年またはそれ以降に発生する相続に影響する可能性があるわけです。
なお、加算対象となる贈与財産のうち、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産(図表2中の黄色の期間内に行われた贈与)については、総額100万円(*4)まで相続税の課税価格に加算することを要しないとされています(相続税法19条)。
(2)事例の検討
以上が改正の概要ですが、これを具体例にあてはめて確認していきましょう。
まず①の贈与についてですが、相続開始前3年以内の贈与に含まれず、また、令和6年1月1日以後の贈与にも当たりませんので、母Bの相続に係る相続税の計算に当たって、課税価格に加算されることはありません。
次に、②の贈与についても見てみましょう。ここが、改正の影響を受ける部分です。相続開始前3年以内の贈与にあたらないため、改正前であれば、生前贈与加算の対象にはなりませんでしたが、令和6年1月1日以後の贈与であるため、改正後は加算の対象となります。ただし、3年以内に取得した財産以外の財産(図表2中の黄色の部分)については、前述のとおり、100万円の控除があります。本件では、3年以内に取得した財産以外の財産は②の50万円のみであり、上記100万円の控除額を下回りますので、結論として、生前贈与に加算される分は無いことになります。
続いて、③と④の贈与についても確認します。これらは、相続開始前3年以内の贈与であり、改正前から生前贈与加算の対象とされるものでした。したがって、改正後においても、これらは、生前贈与加算の対象となりますので、本件では、③と④の合計額250万円が、相続税の課税価格に加算されることになります(ただし、暦年課税の贈与税額分は、相続税額から控除されます。)。
これらをまとめると、以下のとおりになります。
3. 早めの贈与の意義と注意点
ここまで述べたとおり、生前贈与の加算期間が延長されますので、相続税対策として相続人への生前贈与を行う場合、以前に比べ、より早い段階で贈与を始めることが必要になってきます。
そして、そのような早めの生前贈与は、遺留分対策としても有効です。相続法改正により、従前は無期限に遺留分算定の基礎財産に加えられていた相続人の特別受益が、相続開始前10年以内のものに限定されることとなりました(民法1044条3項1項)。つまり、それより前に行われた贈与であれば遺留分算定の基礎財産に加算されませんので(*5)、結果として、遺留分権者の遺留分額を減らすことが可能となります。
したがって、早い段階からの贈与が推奨されるという結論に達し得るわけですが、ただ、それはあくまで、相続税を支払い、かつ、遺留分侵害額請求を受けることとなる受贈者たる相続人側から見た視点です。贈与者の側からすると、あまりに多額の贈与をしてしまうと、手元の資金が枯渇するリスクが増加しますし、また、長い年月の間には、たとえ身内であっても、関係性が変わることはあり得ますので、早い段階での贈与が良いとも限りません。実際、後継者にと思っていた親族との関係がその後悪化し、他の者を後継者に据えることにした等という話は珍しくありません。
ご高齢の方にとって、相続税対策や遺留分対策以上に大切なのは、ご自身や配偶者の方の生活を守ることです。相続対策を考えるに当たっても、是非その視点を失わないでいただきたいと思うところです。
Author
弁護士 間瀬 まゆ子(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:慶應義塾大学法学部法律学科卒、2000年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。鳥飼総合法律事務所からの独立を経て、2023年9月より現職。これまで多数の税務訴訟を取り扱ってきたほか、2016年より東京家庭裁判所にて、家事調停委員として、専ら遺産分割・遺留分等の相続に係る調停を担当している。近著に、『税理士が知っておきたい民法相続編 実務詳解』(大蔵財務協会、2023年)。
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