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ベトナム最新法令UPDATE Vol.1:ベトナムの外国投資法制~投資法改正を踏まえて~

日本企業がベトナムに新会社を設立したり、ベトナム企業をM&Aによって買収する場合に最も重要な法律の一つが投資法です。この投資法が2020年6月に改正され、2021年1月1日から施行されています。ベトナムでの事業に関心のある皆さまにおかれましては、新投資法による改正内容を把握することが重要であると考えられます。そこで本記事では、ベトナム新投資法について、①事業実施可否の検討(外資規制及び条件付投資分野)、②新規設立の場合、③M&Aの場合の3つのケースについて説明します。

1. 事業実施可否の検討

ベトナムでの事業実施の可否を確認するには、「外資規制」と「条件付投資分野」を確認する必要があります。これら2つのコンセプトは、旧投資法下から存在しましたが、旧投資法上これらの異同が必ずしも明確にされておらず、混乱が生じることもありました。

以下では、①「外資規制」と「条件付投資分野」とは何かという点を整理したうえで、②新投資法による外資規制への変更と、②条件付投資分野への変更につき解説します。

(1)「外資規制」と「条件付投資分野」

これらの違いは、一言でいうと外資規制は外資のみに適用され、条件付投資分野は内資と外資の両方に適用されるという点にあります。

a. 外資規制
外資規制というのは、外国投資家にのみ適用される制限です(新投資法22条1B、9条2項)。外国投資家が保有できる持分割合等について事業ごとに制限を課すものです。内資投資家には適用されません。

b. 条件付投資分野
条件付投資分野というのは、内資・外資に共通して適用される制限です(新投資法7状1項)。条件付き投資分野の意義は、内資投資家が事業を実施する場合を念頭において考えると分かりやすく、ベトナムでは内資投資家が事業を行うためには、①原則として企業登録証明書を取得して会社を設立すれれば足り、特別な許認可を取得せずに定款に記載されている事業を行うことができますが、②条件付投資分野については当局からの許認可を取得する必要があります。このように、「条件付投資分野」は、会社設立だけでは事業を実施できず、事業実施のための許認可を取得しなければならない事業の範囲を画する意義があります。

c. 外国投資家からみた「外資規制」と「条件付投資分野」の関係
新投資法においては、外国投資家は、①内資投資家に適用される条件付投資分野に関する規制と、②外資規制の両方の適用を受けるという整理が示されています(新投資法9条1項、2項)。

外国投資家は、事業内容にかかわらず、投資に先立ち「投資登録証明書」を取得する必要があります(後記2(1)参照)。外資規制を遵守しているかについては、「投資登録証明書」発行審査において確認されます。実施予定の事業が「条件付投資分野」に該当する場合には、投資登録証明書の取得とは別に、条件付投資分野につき必要となる許認可を取得する必要があることになります。

このように、外国投資家がベトナムで事業を行う際には、①外資規制と、②条件付投資分野の両方に目を配ることが重要となります。

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(2)外資規制に関する投資法による変更

a. 旧投資法(統一的ネガティブリストの欠如)
新投資法では、外資規制のフォーマットに関して変更が加えられています。

旧投資法においては、ベトナム政府は外資規制をまとめたネガティブリストを発行していませんでした。外資規制は①ベトナムの個別法、②ベトナムが当事者となっている条約に基づき決せられるものとされていました。「ベトナムが当事者となっている条約」のうち、日本の投資家に関係するものには、WTOコミットメント、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)、日本・ベトナム経済連携協定、日・ベトナム投資協定等があります。このように、旧投資法下においてはベトナム政府が公表している統一的なネガティブリストが存在しなかったことから、外資規制を確定するには複数の個別法や条約を確認する必要があり煩雑でした。

b. 新投資法(いわゆるネガティブリスト制定義務)
新投資法の下では、政府は外資規制(外資による実施が禁止される事業および、外資による実施が条件付きである事業)をまとめたリストを定めなければならないものとされました(新投資法9条2項)。いわゆるネガティブリストの制定により、外資規制の確認が明確・簡易となることが期待されます。

(3)条件付投資分野

新投資法では条件付投資分野について変更が加えられています。上記の通り条件付投資分野は、内資・外資のいずれに対しても適用されるものであり、条件付投資分野への変更は外資規制の変更ではありません

• 債権回収事業
旧投資法において、債権回収事業は条件付投資分野とされていました。新投資法では条件付投資分野から除外され、投資禁止分野(内資・外資共に投資が禁止される分野)とされました。その背景としては、違法な債権回収業者が増えていることが挙げられます。

• フランチャイズ、物流サービス等
これらは旧投資法下では条件付投資分野とされていましたが、新投資法では条件付投資分野から除外されています。

• データセンター、E-KYC(電子的に行う本人確認)等
これらは旧投資法下では条件付投資分野に含まれていませんでしたが、新投資法では新たに条件付投資分野に追加されています。

2. 新規設立の場合

ベトナムにおいて外国投資家が会社を新たに設立する場合、大きく分けて①投資登録証の取得*、②企業登録証の取得という手続を踏むことになります。新投資法ではこれらのうち、投資登録証に関して変更が加えられています。簡単にいうと、投資登録証は外国投資が投資を行ってよいか否かに関する許可であり、企業登録証は会社の設立証書のようなものになります。企業登録証が取得された時点で会社が設立された(法人格が取得された)ことになります。

* 一定の重要なプロジェクトについては、投資登録証の取得に先立つ許可(In principle approval)が必要となります(新投資法29条以下)。

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(1)投資登録証とは

投資登録証明書は当局に対して投資プロジェクトの内容を説明し、その投資プロジェクトの実行を許可してもらうために必要です。ベトナム投資家には要求されておらず、「外国投資家」が投資プロジェクトを実施する際にのみ要求されています(新投資法22条1項c)。

(2)「外国投資家」の範囲

では、「外国投資家」とはどのような範囲を指すのでしょうか。

a. 外国人・外国投資家
外国人や外国企業は、「外国投資家」に含まれます(新投資法1条19号)。

b. 外資の入ったベトナム法人
外国人・外国企業だけでなく、ベトナム法人であっても一定の場合には「外国投資家」とみなされます。どのようなベトナム法人が「外国投資家」とみなされるかという点については、新投資法で、以下のような改正がなされています(新投資法23条1項)。

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基本的な構造は変わっていませんが、基準となる数値が旧投資法の「51%以上」から、新投資法では「50%超」に変更されています。なお、上記①~③は、それぞれ以下のような場面を指しています。

① 外国投資家の出資比率が50%超

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② 上記①のベトナム法人の出資比率が50%超

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③ 外国投資家及び上記①のベトナム法人の出資比率が50%超

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つまり新投資法の下では、上記のようなベトナム法人は「外国投資家」と扱われることになります。したがって、このような外資ベトナム法人が行うプロジェクトについても、投資登録証明書が必要となります。

(3)創設的スタートアップ中小企業、投資ファンドに関する例外の新設

新投資法における注目すべき変更点として、創設的スタートアップ中小企業や投資ファンドを設立する場合につき、投資登録証の取得が免除されている点があります(新投資法22条1項c)。ベトナムにおいてもフィンテック等のイノベーションが成長戦略上重要となっており、そこに外資を取り込んでいく方針が伺えます。

3. M&Aによる場合

外国投資家がM&Aによりベトナム法人を買収する場合には、投資登録証明書は不要とされています(新投資法37条2項c)。もっとも、一定の場合にはM&Aに関する「登録手続」が必要であるとされています(新投資法26条2項)。登録手続が要求されている趣旨は、外国投資家が重要業種に属する企業を買収することや、ベトナム企業のマジョリティーを取得することに対し、政府のコントロールを及ぼす点にあると考えられます。どのような場合にM&Aの登録手続が必要になるかについては、新投資法による改正が行われています。

(1)旧投資法

旧投資法では、以下の場合にM&Aの登録手続が必要とされていました。

• 対象会社の業種に外資規制がある場合
• 外国投資家の持分比率が51%超となる場合

(2)新投資法

新投資法では、M&Aの登録手続が必要となる場面が、以下のように改正されています(新投資法26条項)。

• 対象会社の業種について外資規制があり、M&Aの結果、外国投資家の出資比率が増える場合

• M&Aの結果、外国投資家の持分比率が50%以下から50%超となる場合、または50%超からさらに増える場合

• 対象会社が国防や国家安全に影響する地域の土地使用権利証を有する場合

一点目については、外国投資家が外資規制の対象である対象会社を買収する場合であっても、ほかの外国投資家から株式譲渡を受ける場合のように、外国投資家の持分比率が増えないような場合には、登録手続が不要になると考えられます。例えば、以下のような場面について旧投資法ではM&A登録手続が必要でしたが、新投資法においては登録手続が不要となると考えらます。

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二点目についてはM&Aの登録手続が必要となる基準が、51%超から50%超に変更されています。

4. おわりに

新投資法は、ベトナムで投資・事業を行う日本企業にとって重要な内容を含むものであり、その把握が重要になると考えられます。


Author

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。

この記事は、ベトナムの法律事務所であるVenture North Lawに所属するHa Thi Dung弁護士の協力を得て作成しています。

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