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税務UPDATE Vol.5:納税管理人制度の拡充~令和3年度税制改正~

1. はじめに

納税管理人とは、日本国内に住所や居所等を有しない納税者によって選任され、申告書の提出、税務当局が発する書類の受領、国税の納付等を行う者をいいます。

海外に居住する個人(非居住者)や恒久的施設(PE)を有しない外国法人が、納税申告書の提出その他国税に関する事項、つまり、国内税法上必要とされる各種の申告、申請、請求、届出、書類の受領その他の事項を処理するため必要があるときには、国内に住所または居所を有する者で当該事項の処理につき便宜を有する者のうちから納税管理人を定めなければならないとされています(国税通則法117条)。

例えば、外国法人が国内の消費者向けにゲームの配信事業を行っていた場合、当該外国法人は消費税の申告納税を行わなければならないことがありますが、当該外国法人が日本国内に拠点等を有しない場合、納税管理人(典型的には税理士)を選出して消費税の申告・納付の手続を行わせることとなります。

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この納税管理人の制度について、令和3年度税制改正で拡充が予定されていますので、今回はその内容についてご説明いたします。

2. 改正の背景

外国法人については、日本国内にコンタクトポイントが全くない場合が往々にして存在し、このような法人に税務当局が税務調査を行う場合、海外に向けた送達等が必要となり、非常に手間と時間がかかるケースが存在します。外国法人が自主的に納税管理人を選任すれば、当該納税管理人を通じて一定の手続ができるものの、外国法人が納税管理人を選任しない場合には、実際上税務調査を行うことができないケースもあり得るのであって、逃げ得となってしまい、課税の公平性を害することとなります。

このような事情を背景に、一定の場合に税務当局から外国法人等と一定の関係を有する者を納税管理人として指定することができる枠組みを導入するというのが今回の改正です。

3. 改正内容

(1)納税者に対する納税管理人の届出をすべきことの求め

納税管理人を定めるべき納税者が納税管理人の届出をしなかったときは、所轄税務署長等は、その納税者に対し、納税管理人に処理させる必要があると認められる事項(以下「特定事項」という。)を明示して、60日を超えない範囲内においてその準備に通常要する日数を勘案して定める日(以下「指定日」という。)までに、納税管理人の届出をすべきことを求めることができることとされます(国税通則法117条3項)。

(2)国内便宜者に対する納税者の納税管理人となることの求め

納税管理人を定めるべき納税者が納税管理人の届出をしなかったときは、所轄税務署長等は、特定事項の処理につき便宜を有する者(国内に住所または居所を有する者に限る。以下「国内便宜者」という。)に対し、その納税者の納税管理人となることを求めることができることとされます(国税通則法177条4項)。

(3)税務当局による特定納税管理人の指定

所轄税務署長等は、上記(1)の求めを受けた納税者(以下「特定納税者」という。)が指定日までに納税管理人の届出をしなかったときは、上記(2)により納税管理人を求めた国内便宜者のうち一定の国内関連者を特定事項を処理させる納税管理人(以下「特定納税管理人」という。)として指定することができることとされます(国税通則法117条5項)。

なお、上記の「一定の国内関連者」とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める者をいいます。

① 特定納税者が個人である場合 次に掲げる者

イ その特定納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で成年に達した者

ロ その特定納税者の国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実についてその特定納税者との間の契約により密接な関係を有する者
⇒例えば、外国法人が不動産を譲渡した場合の不動産管理会社、非居住者である個人と共同で事業を営んでいる者などがこれに該当すると考えられています。

ハ 電子情報処理組織を使用して行われる取引その他の取引をその特定納税者が継続的に行う場を提供する事業者
⇒例えばいわゆるプラットフォーマーがこれに該当すると考えられています。

② 特定納税者が法人である場合 次に掲げる者

イ その特定納税者との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の50%以上を保有する関係その他の特殊の関係のある法人

ロ その特定納税者の役員又はその役員と生計を一にする配偶者その他の親族で成年に達した者

ハ 上記①ロ又はハに掲げる者

(4)不服申立て等

上記(3)の特定納税管理人の指定については、特定納税者および特定納税管理人に対して書面により通知を行い、これらの者による不服申立てまたは訴訟を可能とするほか、所要の措置を講ずることとされています。

*上記の改正は令和4年1月1日以後に行う上記(1)から(3)までの求めについて適用されます。

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4. 改正への疑問

海外法人への税務調査の困難性という改正の背景については理解できますが、一定の手続を経た後であるとはいえ、最終的に税務当局が納税管理人を指定できるという制度の合理性には疑問が残ると言わざるを得ません。

特に、税務当局が納税管理人として指定できる者の中には上記3(3)①ロおよびハに記載のとおり、単に契約の相手方に過ぎない者が含まれており、実際上上記3(1)の求めによっても納税管理人を指定しない外国法人について、単なる契約の相手方が納税管理人として指定されたとしても、できうる事項は限られると思われます。そもそも、納税管理人は冒頭に述べたとおり通常税理士等が対価を得て行う業務であると考えられるところ、一方的に指定された契約の相手方がそのような業務を行わなければならない合理性は見出し難いように思われます。

本改正については、指定された特定納税管理人が行うべき特定事項の内容が財務省令で定められることとなっており、上記3(4)にいう「所要の措置」がどのようなものとなるのか現時点では明らかではありませんが、令和4年1月1日から施行されることとなっており、今後の運用等を注視する必要があります。

なお、本稿のうち意見にわたる部分は著者の個人的見解であり、著者の現在所属し、又は過去に所属した団体の見解ではないことを申し添えます。


Author

弁護士 山口 亮子(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2005年弁護士登録(2020年再登録、第二東京弁護士会所属)、18年~20年東京国税局調査第一部調査審理課において国際調査審理官(任期付職員)として勤務。20年7月に三浦法律事務所参画、21年1月から現職


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