招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.2:招集許可決定から招集通知の発送まで
第2回は、株主として株主総会の招集許可決定を取得した後、招集通知の発送前までについて説明します。
1. 基準日の設定および公告
上場会社においては日々株主が変動するため、臨時株主総会を開催する際、当該株主総会において議決権を行使できる株主を確定するために、基準日を設定し、基準日の2週間前までに基準日等の公告を行うことが必要となります(会社法124条1項、3項)。
なお、既に基準日が設定されている場合には、その基準日の前後7営業日は新たな基準日を設定することはできません(※)。通常、この点が問題となることはありませんが、会社が定時株主総会や別の臨時株主総会(株主開催総会が予定されている場合に、会社経営陣がこれに対抗して会社開催の臨時株主総会を招集することがあります)のために既に基準日が設定されていないかを確認しておくことが必要となります。
株主開催総会における基準日の設定および公告は、会社が行う場合もありますが、招集株主は裁判所の招集許可決定により、自ら基準日の設定および公告を実施する権限を付与されたものと考えられています。このため実務上、少数株主が自身の名義で基準日公告を実施する事例もみられます。
会社は通常、定款において公告方法(会社法上、官報に掲載する方法、日刊新聞紙に掲載する方法および電子公告の3種類の方法が認められています(会社法939条1項))を定めていますので、招集株主が公告する場合も、まずは定款上会社が採用している方法を検討することが必要となります。
電子公告で掲載する場合、電子公告調査のために実務上、公告開始まで4営業日の期間が必要となります(会社法941条、電子公告規則3条1項、同6条2項)。
日刊新聞紙に掲載する場合、掲載新聞社の公告を取り扱う代理店に掲載を依頼し、新聞社と調整してもらうこととなります。依頼から掲載までの期間としては、掲載時期の新聞の公告枠の空き状況にもよりますが、およそ3日から1週間程度を要する場合が多いと思われます。掲載費用は代理店と公告枠の大きさ等にもよりますが、臨時株主総会招集のための基準日設定公告に必要な文字数(筆者らが携わった案件では、約20文字×約10行の枠に掲載しました。)であれば、50万円程度かかる場合が多いと思われます。
2. 株主名簿の入手
裁判所から株主総会の招集を許可する決定を得た株主は、株主総会招集権が付与されている当然の効果として、総会に招集すべき株主を確知する権利を有し、株主名簿その他の基準日株主を確知するために必要な書類を閲覧・謄写することができるとされています(※)。したがって、会社は株主総会招集許可決定を得た株主に対し、株主名簿の開示の義務を負います。このようにして入手した株主名簿を元に招集株主は他の株主に招集通知を送付することとなります。
3. 株主名簿のテキストデータへの変換
株主数が多い上場企業においては、株主総会の招集通知を発送するにあたり、株主名簿の電子データを元に封筒等に株主の氏名、住所等を印字する作業が必要となります。株主名簿の閲覧謄写請求によって招集株主が株主名簿を閲覧謄写する場合、謄写した紙媒体や写真データ等の記載を招集株主がテキストデータへと変換することとなりますが、その過程で変換等のミスが生じれば招集通知の発送漏れや誤発送が発生し、株主総会の招集手続の法令違反(会社法831条1項1号)として総会決議の取消事由に該当する可能性があります。
4. 総株主通知の実施
総株主通知(振替法151条1項1号)とは、振替機構が会社に対して行う株主情報(住所、氏名、所有株式数)の通知をいいます。
上場会社が採用する振替株式については、株式の譲渡のたびに株主名簿の名義書換が行われることはなく、会社の振替機構による通知に基づいて株主の権利行使が処理され、上場会社が株主総会を開催する際の基準日株主確定のためには、振替機構が会社に対して総株主通知を行う必要があります。
総株主通知は、通常、以下のプロセスを取ります。
5. 株主総会検査役
総会検査役選任についての申立書を裁判所が受理した後、数日内で裁判所から予納金納付の指示があります。予納金額は申立て前において正確な金額は分かないため、裁判所が会社の規模や株主数等を踏まえて判断します。ある程度の余裕をもって事前に一定の資金を用意しておく必要があります(※)。
通常、総会検査役選任申立手続の第1回目の期日において、総会検査役候補者も出席します。そこで打合せの日程や資料の共有方法を調整することが良いと思われます。総会検査役が出席していない場合でも速やかに連絡をとり、打合せの日程や資料の共有方法を調整することとなります。
総会検査役との打ち合わせでは、委任状の有効性の判断基準や集計方法会社側との対立点や紛争となりそうな事項をしっかりと共有することが大事となります。なお、総会検査役の報告書の提出期限は裁判所が定めますが(会社非訟事件等手続規則10条)、実務上、総会終了後40日後とされる場合が多いようです。
【バックナンバー】
Authors
弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。
弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。
弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。
弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。
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