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M&P弁護士図鑑 Vol.3:弁護士に家庭と仕事の両立は難しいのか? インハウスから三浦法律事務所参画の決め手は「互いを尊重するカルチャー」(小松 慶子弁護士)

2019年1月に30人の弁護士でスタートした三浦法律事務所(M&P)も、今や約100名の弁護士を抱える法律事務所にまで成長しました。この成長の裏には、ユニークなキャリアと強い志を持った弁護士一人ひとりの思いが存在します。そこで本連載では、M&Pの個性的な弁護士たちに個別取材を決行。普段はなかなか語られない、弁護士たちの素顔を掘り下げてご紹介します。

小松 慶子(こまつ・けいこ)PROFILE:2004年弁護士登録(57期)。03年同志社大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。04~15年西村あさひ法律事務所。15~16年オムロン株式会社。16~21年株式会社デンソー。21年9月に三浦法律事務所参画、弁護士法人三浦法律事務所 名古屋オフィス所属


――本連載、第三回は57期の小松慶子弁護士です。小松弁護士は四大事務所でキャリアをスタートさせた後、長くインハウスロイヤーとして勤めて、再びプライベートプラクティスに戻ってきていますね。キャリアを順に聞いていきたいと思います。まず、新卒で四大事務所に入所した理由は?

小松 慶子弁護士(以下、小松):父が裁判官だったので、裁判官の仕事もやりがいがありそうだと思ったのですが、将来家庭を持ちたいと考えたときに転勤がある裁判官の仕事は続けるのが難しいかなと思い、弁護士を志しました。事務所訪問で聞いた企業法務の話はすごくワクワクしましたし、大手事務所は最先端の案件を扱っていて、かつたくさんの弁護士が所属しているので、自分もそういう仕事や環境の中で成長していきたいと思い、四大に入りました。

――やはり転勤はネックですか?

小松:私自身は小学校を3つ転校しているんです。秋田で入学して、京都に転校して、卒業は沖縄でした。環境が変化する生活はすごく楽しかったですし、なんとなく今も自分を形作っている要素として残っている気がします。なので、自分のことだけを考えたら転勤は決してマイナスな要素ではないのですが、家庭をもった時のことを考えると、現実問題、難しいかなと思ってしまいました。

――四大事務所である西村あさひ法律事務所(当時は西村ときわ法律事務所)に入って、どんな仕事をしましたか?

小松:指導担当の弁護士がファイナンスの弁護士だったので、必然的に私もストラクチャード・ファイナンスや買収ファイナンスの業務が中心になりました。

――ファイナンス志望ではなかった?

小松:入所時に希望調査があるんですが、当時は何も分からなかったので、ほぼ全部にチェックを入れたらファイナンスに配属になりました(笑)。でも、自分には割と合っていたと思います。

――留学後は、西村あさひ法律事務所の名古屋オフィスに戻ったんですね。

小松:家庭の関係で名古屋での勤務を希望し、名古屋の企業に1年ほど出向させてもらったところ、ちょうどその間に名古屋に拠点を出すことになり、立ち上げメンバーとして名古屋オフィスに勤務することになりました。

――名古屋オフィスに約3年勤めた後、インハウスの道を選んだ理由は?

小松:企業に出向していたときに、出向先での仕事にすごくやりがいを感じ楽しかったことと、子どもが産まれたことが大きいです。法律事務所勤務の弁護士は、プロジェクト単位でしか企業の方と関わることができませんが、インハウスの場合は法務部だけではなく、コーポレートや事業部と一緒に仕事をするので関わる人や業務の範囲が一気に広がります。色々な部署と関わりながら、より事業に近い現場で仕事をすることがすごく楽しいなという思いがずっと頭の片隅にある中で、子どもが産まれたこともあって働き方を見直したいと考え、インハウスになることを選びました。

――やはり弁護士業と出産・子育ては両立が難しいですか?

小松:外部の弁護士として仕事を依頼される以上、しっかりコミットしたいと思うのですが、産後6か月で復帰したものの、やはり子どもがいると予測不可能で(笑)。もちろん子育てを助けてもらう態勢は整えていましたが、それでも両立はなかなか難しいなと思い、インハウスに転向しました。

――M&Pに参画するまで所属していた株式会社デンソーには、5年ほど勤めていたかと思いますが、そこではどのような仕事をしていましたか?

小松:プレイングマネージャー的にチームをマネージしつつ、私自身は事業法務という担当だったので、担当する事業部の法務全般をみていました。

――企業の法務部って、あらゆる質問が色々な部署から来るので、幅広い知識が求められますよね。

小松:自社の事業を理解しないといけないですし、守備範囲が広いですね。全てを外部の弁護士に相談できるわけでもなく、法務だけで解決しなければいけないこともあるので、法律事務所の弁護士業とはまた違った大変さがありました。それこそデンソーに入ったときは、手元に自動車部品の図鑑のような本を置いていましたね。また、事業を理解することも大切ですが、情報があればあるほど、法務的な観点から将来的なリスクに気付いたり、先を読み戦略的な観点から法務支援をすることもできるので、いかに情報を収集して、高い感度を持っておくかという点も重要でした。

――小松弁護士がインハウスとして在籍していた企業は、理系色の強い企業なので技術的なことを理解するのが難しい分野ではないですか?その中で努力したことはありますか?

小松:私の場合は、事業部の人と仲良くなって、日ごろから色々なことを教えてもらったり、法務の相談を受けるときは実際の部品を持ってきてもらって、その部品を見ながら話をしたりといったこともありました。

――2021年9月、M&Pの名古屋オフィスができるタイミングで参画したわけですが、6年ぶりにプライベートプラクティスに戻ってきた理由は?

小松:インハウス5年目を過ぎた辺りで、今後インハウスとしてのキャリアをどのように深めていこうかと考えていました。そんなときに越直美弁護士からM&Pの名古屋オフィス設立の話を聞きました。越弁護士は西村あさひ時代の2つ上の先輩で、その当時から親しかったんです。ですが、インハウスとして5年以上勤めてきた自分がまた法律事務所で働くという選択肢があるとも思っていなかったので、考えてもみませんでした(笑)。

――その考えが変わった理由は?

小松:その後、三浦亮太弁護士と会うことになりました。そのときに三浦弁護士の「インハウス経験があるからこそ、クライアントにとって“中に一番近い外”という存在になれる」という話を聞いて、プライベートプラクティスに復帰して新たな形で企業に寄り添うという道もあるのかもしれないと少しだけ思い始めました。それでも、このときはまだ決断するには至りませんでした。

――何か他に懸念点があったのでしょうか。

小松:5年以上ブランクがある点も心配でしたし、やはり仕事と家庭を両立できるかが心配でした。外部の弁護士として、クライアントからご依頼いただくからには、自分としても納得のいくクオリティ、スピード感で仕事をしたいので、子どもを産んだ当初のことを思い出して、やはり両立は難しいのではないかと思ったんです。それを正直に話したら、「じゃあM&Pの女性弁護士とも話をしましょう」ということになり、数人の女性弁護士の話を聞いたら、全員がすごくイキイキと仕事も家庭も両立していたので、M&Pへの参画を決めました。

――実際入ってみてどうでしたか?

小松:入ってみたら何とかなっていますね(笑)。M&Pの弁護士は、家庭と仕事の両立に対する理解がある人が多いです。家庭のことだけではなくて、個人がどういうことをやりたいかとか、どういうキャリアを築いていきたいかとか、そういった点を互いに尊重していると思いますし、私のようにインハウス歴が5年以上あって、そこからまた法律事務所に戻るようなケースも受け入れてくれていて、「この案件だと、インハウスの経験が活かせるんじゃないか」と言って案件を振ってもらったりとかもします。東京の弁護士ともたくさん仕事をしますし、多様性への理解が非常に深い事務所だと思いますし、M&Pは、仕事に“楽しい”がある事務所だなと感じています。

――「仕事に“楽しい”がある事務所」とは?

小松:今振り返ると、若手の頃は眉間に皺を寄せて仕事している瞬間もなくはなかったように思います。個人的には、法律事務所の使命はクライアントにとって質の高いサービスを提供することである以上、いい仕事をするためには時には苦しいこともあり、それを乗り越えて成長していくものだと思っており、若手の頃のそうした瞬間も貴重な経験だったように感じます。一方で、M&Pで三浦弁護士からよく「仕事を楽しみましょ!」と声を掛けられるなかで、楽しんで仕事をするということもより意識するようになりました。また、周りの弁護士も決してラクをしているわけではないですが、チャレンジングな仕事を楽しむマインドがある人たちが多いと思います。楽しむマインドを持った弁護士のアウトプットの方が、プロアクティブで質の高いものに繋がる側面があるように思うので、そのマインドは大切にしたいと思います。

――女性弁護士にとって家庭と仕事の両立が難しいという問題は、改善されつつありますが、依然として業界全体の課題だと思います。この課題について、実際に子育てをして家庭と仕事を両立している女性弁護士としてどう思いますか。

小松:弁護士である以上、どうしてもクライアントのスケジュールに合わせていかないといけない部分はありますし、こちらでコントロールできないことも多いですが、例えば、最近はリーガルテックの進化がめざましいので、過去事例や文献のリサーチといった、非常に時間がかかる作業を劇的に短縮できるようになって、両立しやすくなってきていると思います。

――地方拠点にいても、東京の弁護士と仕事をすることも多いと思います。距離は気になりませんか?

小松:Teamsのようなコミュニケーションツールやオンライン会議システムなども浸透しているので、「名古屋だから」「東京だから」といった意識はなく、自然体で一緒に仕事ができていると思います。東海地域の案件を東京の弁護士と一緒にやることもありますが、M&Pの弁護士はみんなフットワークが軽いですし、クライアントにとって最適なメンバーでのチームアップが機動的にできるなと常々感じています。

――そうすると、地方に拠点を置く意味はどこにあるのでしょうか?

小松:東海圏に拠点を置くことで、その地域独自のカルチャーや慣習、事業の特性などを理解した上でアドバイスできるため、拠点を置くことは重要だと考えていますし、クライアントからもその点を評価いただいています。例えば、東海圏はなんといっても自動車産業が大きいですが、その自動車産業も大きな変革期にあって、これまでの枠組みを飛び越えて変革していこうとしています。日常的に東海圏にいるからこそ、そういうことも肌で感じますし、色々な会社さんと直接お話することで情報も入ってくるので、アンテナを張るためにはやはり現地に拠点を置くことは重要ですね。

――名古屋オフィスとしての課題はありますか?

小松:名古屋オフィスの体制を拡充することで、仕事の幅も広がっていくと思うので、採用を強化したいですね。現在、名古屋オフィスは7人の弁護士が在籍していますが、特にアソシエイトを増やしたいです。名古屋のアソシエイトも東京の弁護士と仕事ができますので、幅広い案件を経験できる良い環境を提供できると思います。

――名古屋オフィスは開設当初からずっと男女比率のバランスが良いですよね。現在も半々ですし。

小松:男女比率もそうですが、名古屋オフィスの中だけでも、元裁判官や留学経験者、官公庁での勤務経験者など、多様なバックグラウンドを持った弁護士が集まっているので、そういった意味でも非常に多様性にあふれ、バランスの良いチームだと思います。


【おまけコーナー:あの人の“B面”】

――岐阜にお住まいと聞いていますが、岐阜の良いところを教えてください。

小松:岐阜と名古屋って実は近くて、電車に乗っている時間は20分程度なので、岐阜から名古屋市内に通勤する人も多いです。岐阜は自然が多くて、公園などもいっぱいあり、子育てしやすいと思います。あと、子どもをすごく大事にする地域ですね。日本の未来は、今の子どもたちが将来支えていくわけなので、子どもを大事にしてくれる地域で子育てしたいと思いますし、子どもたちのために豊かな社会を残すために、企業に貢献していきたいというモチベーションで仕事をしています。

――子育てに仕事に忙しいとは思いますが、マイブームはありますか?

小松:最近、韓国料理が好きで、仲の良い韓国人の友人から韓国の家庭料理を定期的に習っています。習いに行って、その場で食べて、まだ自宅で再現してないのですが(笑)。

小松弁護士が最近習ったという韓国の家庭料理「きゅうりキムチ」と「もやしビビンバ」

INTERVIEW & TEXT:YU HIRAKAWA
PHOTO:SHUHEI SHINE

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