労働法UPDATE Vol.15:労働法改正Catch Up & Remind②~【速報】東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の成立~
2024年9月18日、東京都議会において、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の議案が提出され、同年10月4日、原案のまま可決されました(以下「本条例」といいます。)。本条例は、カスタマー・ハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)の防止を定めた全国初の条例となります。
カスハラとは、おおむね、顧客や取引先等からの著しい迷惑行為を指し、例えば厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月。以下「厚労省マニュアル」といいます。)では、「顧客等(筆者注:顧客や取引先など)からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
カスハラへの対応は近年社会問題化しており、厚生労働省の2020年6月1日付「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(いわゆるパワハラ防止指針)では、顧客等からの著しい迷惑行為により労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主が雇用管理上の配慮として講じるのが望ましい取り組みが示されました。その後、2022年2月に上記厚労省マニュアルが公表されたほか、2023年9月には精神障害の労災認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日基発0901第2号)が改正され、カスハラを受けたことやカスハラに対して企業が適切な対応をせず改善しなかったことが、労災認定の一事情として考慮されるようになりました。
他方で、カスハラの防止等を正面から定めた法律や条例はこれまで存在しなかったところ、上記のとおり東京都において全国初のカスハラ防止条例として本条例が成立し、来年2025年4月1日に施行が予定されています。以下では本条例の概要を確認します。
1. 本条例の構成
本条例は全14条で構成されており、その内容は以下のとおりです。
2. 「カスタマー・ハラスメント」とは
まず、本条例4条は「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」として、主体/場所を問わず、一切のカスハラを禁止する旨を明示しています。
そして、ここでいう「カスタマー・ハラスメント」とは、顧客等(①)から就業者(②)に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為(③)であって、就業環境を害するものと定義されています(本条例2条5号)。このうち、上記①~③の用語についても本条例に定義が設けられており、その内容は以下のとおりです。
上記の定義を厚労省マニュアルの定義と比較すると、①「顧客等」について、厚労省マニュアルでは「顧客と取引先など」(同マニュアル7頁)を指していましたが、本条例では顧客のほか、「就業者の業務に密接に関係する者」をいうと定められています。
この「就業者の業務に密接に関係する者」の範囲は、本条例の規定から必ずしも明らかでなく、後述する指針等を通して今後明確化されることが期待されます。
同様に、③「著しい迷惑行為」についても、厚労省マニュアルでは、上記のとおり要求の内容と手段・態様を踏まえて判断するような定義が示されていましたが、本条例では、一定の例を示しつつ、基本的には「違法な行為」又は「不当な行為」が「著しい迷惑行為」であるというシンプルな規定となっています。そのため、この点についても、今後その範囲や判断基準が指針等によって明確化されることが期待されます。
3. 本条例の成立後に求められる今後の対応と動向
まず、東京都は、今後、①カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項、②顧客等、就業者及び事業者の責務に関する事項、③都の施策に関する事項、④事業者の取組に関する事項、⑤上記①~④のほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な事項を定めた指針を作成することとなります(本条例11条1項・2項)。
また、都内の事業者は、顧客等からのカスハラを防止するための措置として、上記指針に基づき以下の措置を講じる努力義務が課されています(本条例14条)。
本条例の違反に対して罰則は設けられていませんが、都内の事業者は、本条例の内容や本条例に基づき作成される指針を踏まえ、カスハラに対応する体制の整備等を進めていくことが求められます。
なお、本条例における事業者には、都内の非営利目的の活動を行う法人その他の団体、事業を行う個人も含まれますので、その点にも注意が必要です。
Authors
弁護士 菅原 裕人(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2016年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
高井・岡芹法律事務所(~2020年8月)を経て、2020年9月から現職(2023年1月パートナー就任)。経営法曹会議会員(2020年~)。日々の人事労務問題、就業規則等の社内規程の整備、労基署、労働局等の行政対応、労働組合への対応(団体交渉等)、紛争対応(労働審判、訴訟、労働委員会等)、企業再編に伴う人事施策、人事労務に関する研修の実施等、使用者側として人事労務に関する業務を中心に、企業法務全般を取り扱う。
弁護士 岩崎 啓太(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2019年弁護士登録(東京弁護士会所属)
西村あさひ法律事務所を経て、2022年1月から現職。
人事労務を中心に、紛争・事業再生、M&A、スタートアップ支援等、広く企業法務全般を取り扱う。直近では、「ビジネスと人権」を中心にESG/SDGs分野にも注力している。