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税務UPDATE Vol.3:M&Aと税務~組織再編成に係る行為計算否認(法人税法132条の2)その1~

1. はじめに

新型コロナウイルスの蔓延により企業を取り巻く環境は急速に変化しているところ、不採算部門からの撤退等再編の圧力は強まっており、M&Aを検討する企業は多くなっています。

M&Aや組織再編等を行うに当たっては、課税上のインパクトを検討する必要があり、資産・事業・株式等の譲渡によるのか合併や分割といった組織再編によるのか等、どのような取引形態を採れば課税上有利であるのかの検討が必要になります。その際には、適格の要件の充足、欠損金の引継ぎの可否等を検討します。

しかし、厳密な計画を経て、また場合によっては課税当局への相談も経て、税法上の適格要件、未処理欠損金の引継ぎ要件等を充足していることを確認した上で組織再編行為を行っても、その後の税務調査において、適格・非適格の別や欠損金の引継ぎが否認され、課税されることがあり得ます。

その際の課税根拠となるのが、世にいう伝家の宝刀である行為計算否認規定です。

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今回は、組織再編行為に係る行為計算否認規定である法人税法132条の2について解説します。

2. 法人税法132条の2とは?

(1)導入経緯
法人税法132条の2は、平成13年の税制改正において合併、分割等の組織再編税制が整備された際に組織再編行為を通じた租税回避行為を防止するために導入されました。

平成13年の改正税法のすべて(中尾睦ほか『平成13年版 改正税法のすべて』243-244頁(大蔵財務協会、平成13年))では、「近年の企業組織法制の大幅な緩和に伴って組織再編成の形態や方法は相当に多様となっており、組織再編成を利用する複雑、かつ巧妙な租税回避行為が増加するおそれ」があるとしており、組織再編成を利用した租税回避行為の例として以下のような行為が考えられるとしています。

・繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために組織再編成を行う。

・複数の組織再編成を段階的に組み合わせることなどにより、課税を受けることなく、実質的な法人の資産譲渡や株主の株式譲渡を行う。

・相手先法人の税額控除枠や各種実積率を利用する目的で組織再編成を行う。

・株式の譲渡損を計上したり、株式の評価を下げるために分割等を行う。

なお、上記は例ですので、上記のようなものにとどまらず否認の要件を充足するものはすべからく否認の対象となり得ます。

(2)条文
上記の経緯で制定された法人税法132条の2ですが、条文は以下のとおりとなっています。

第132条の2
税務署長は,①合併,分割,現物出資若しくは現物分配(第2条第12号の5の2(定義)に規定する現物分配をいう。)又は株式交換等若しくは株式移転(以下この条において「合併等」という。)に係る次に掲げる法人の法人税につき更正又は決定をする場合において,②その法人の行為又は計算で,これを容認した場合には,合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加,法人税の額から控除する金額の増加,第1号又は第2号に掲げる法人の株式(出資を含む。第2号において同じ。)の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加,みなし配当金額(第24条第1項(配当等の額とみなす金額)の規定により第23条第1項第1号又は第2号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額をいう。)の減少その他の事由により③法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一 合併等をした法人又は合併等により資産及び負債の移転を受けた法人
二 合併等により交付された株式を発行した法人(前号に掲げる法人を除く。)
三 前2号に掲げる法人の株主等である法人(前2号に掲げる法人を除く。)

まず、対象となる組織再編行為については上記①に記載のとおりです。事業譲渡や株式譲渡は対象外であり、令和2年会社法改正により導入された株式交付についても令和2年税制改正で追加されていません。

(2021年4月23日:以下の一文を追記。)しかし、主税局の見解としては、株式交付については、「現物出資」として法人税法132条の2の否認の対象となり、その旨税制改正の解説で記載される予定とのことです。

次に、否認の対象行為は②「その法人の行為又は計算」とされていますが、ここにいう「その法人」は更正処分の名宛人となる法人に限られず、「次に掲げる法人」つまり、上記1号から3号までに掲げられている法人の行為または計算を意味するものとされています(最判平成28年2月29日(判時2300号29頁)、最判平成28年2月29日(判時2307号46頁)、以下総称して「平成28年判決」といいます。)。

最後に、否認の要件は③「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」であることとなります。この部分の表現は、同じく行為計算否認規定である法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)や、同132条の3(連結法人(令和2年税制改正により通算法人に置き換え)に係る行為又は計算の否認)と全く同じ書きぶりとなっています。しかし、従前の132条の裁判例における「不当性」の判断基準は、132条の2のそれとはやや異なるものとなっており、唯一近時の東京高判令和2年6月24日(公刊物未搭載、未確定)において132条の2の判断基準に近いものが採用されています。また、132条の3については今まで公表されている適用事例がありません。

(3)132条の2の「不当性」の判断基準
132条の2の「不当性」の判断基準については平成28年判決で以下のように判示されており、その後の裁判例でもこの考え方が踏襲されています。

・「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべき。

・その濫用の有無の判断に当たっては、(1)当該法人の行為又は計算が通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど不自然なものであるかどうか(考慮事由①)、(2)税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するか(考慮事由②)等の事情を考慮。

・当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断する。

この「不当性」の判断基準の考え方のポイントは、①組織再編税制の趣旨および目的、つまり税制度がどのような趣旨目的で作られたものであるのかという点を念頭に、否認対象行為が当該趣旨目的から逸脱したものであるのかという点、②否認対象行為の目的について、税負担の減少以外の合理的な理由となる事業目的があるのかという点から判断するとしているところです。

このうち①については、考慮事由①において「不自然なものであるのかどうか」という点が記載されていることから、世間一般によくあるスキームについては否認の対象とならず、よほど特異なスキームを採らない限り否認の対象とならないのではないかという誤解も生じがちです。しかし、否認の対象となるのは必ずしも特異なスキームに限られず、当該行為について組織再編税制の趣旨に照らして不自然なものか、つまり組織再編税制の制定時において、税制の適用対象として想定されていた取引を自然な取引として、これとの対比で不自然かどうかという点が考慮されるものである点に注意が必要です。

3. 組織再編税制の基本的な考え方

上記のとおり132条の2の適用にあたっては、組織再編税制の趣旨に照らして不自然なものであるのかどうかという点がポイントとなります。この点、平成28年判決は組織再編税制の基本的な考え方について以下のとおり述べています。

組織再編税制の基本的な考え方は、実態に合った課税を行うという観点から、原則として、組織再編成により移転する資産及び負債(以下「移転資産等」という。)についてその譲渡損益の計上を求めつつ、移転資産等に対する支配が継続している場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというものである。このような考え方から、組織再編成による資産等の移転が形式と実質のいずれにおいてもその資産等を手放すものであるとき(非適格組織再編成)は、その移転資産等を時価により譲渡したものとされ、譲渡益又は譲渡損が生じた場合、これらを益金の額又は損金の額に算入しなければならないが、他方、その移転が形式のみで実質においてはまだその資産等を保有しているということができるものであるとき(適格組織再編成)は、その移転資産等について帳簿価格による引継ぎをしたものとされ、譲渡損益のいずれも生じないものとされている。

適格・非適格の別が問題となる事案においては、この趣旨に照らして当該再編行為が不自然かどうかということが問題となりますので、実質的にみて移転資産等に対する支配の継続が認められるのかどうかということが判断されることとなります。

4. まとめ

今回は、組織再編成に係る行為計算否認シリーズの第一回ということで、法人税法132条の2の導入経緯、内容について簡単に説明しましたが、次回以降は、具体的にどのような場合に注意が必要となるのかを事例を交えつつご紹介したいと思います。

なお、本稿のうち意見にわたる部分は著者の個人的見解であり、著者の現在所属し、または過去に所属した団体の見解ではないことを申し添えます。


Author

弁護士 山口 亮子(三浦法律事務所 カウンセル)
PROFILE:2005年弁護士登録(2020年再登録、第二東京弁護士会所属)、18年~20年東京国税局調査第一部調査審理課において国際調査審理官(任期付職員)として勤務。20年7月から現職

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