招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.3:招集通知等の作成および委任状勧誘
1. 招集通知の作成・発送
株主総会の招集許可決定を得た株主は、自己の名義および責任において、株主に対し、招集通知の送付と株主総会参考書類および議決権行使書面の交付等を行わなければなりません(会社法298条1項括弧書き、301条。これらについて会社や会社の株式代行事務機関の協力義務はないとされています)。
2. 議決権行使書面の準備
上場会社は、原則として書面投票制度の採用が義務付けられ(上場規程435条)、招集通知とともに議決権行使書面を送付する必要があります。
議決権行使書面には、以下の点を記載します(施行規則66条1項)。
① 各議案の賛否欄
招集株主が株主総会を開催する際は、裁判所が許可した目的事項を各議案として記載し、これに対する賛否欄を設ける必要があります。
取締役の選任・解任議案において複数の候補者が含まれる場合には、候補ごとに別議案となると考えられているため、株主が候補者ごとに賛否を表示できるようにする必要があります。もっとも、必ずしも候補者ごとに賛否欄を設けなくとも、取締役の選任議案に対する賛否欄に「候補者のうち、○○を除く」として、株主が候補者ごとに賛否を表明できるような記載とすることも可能です。
また、①に関連して、議決権行使書面の賛否欄に何も記載せずに返送された場合の取り扱い(②)を定めておくこと(会社法298条1項5号、施行規則63条3号二、66条1項2号)ができますが、この点は極めて重要となります。すなわち、会社側と株主側の集計結果に争いが生じる事案では、賛否欄に何も記載せずに空欄のまま返送される議決権行使書面による議決権行使の結果によって決議の成立・不成立の結論が変わる場合も考えられます。招集株主としてはあらかじめ取り扱いを定めておくことで、記載のない議決権行使書面について自身の提案に賛成する票としてカウントすることが可能になります。
③ 議決権の行使の期限
書面による議決権行使の期限は原則として、株主総会の日時の直前の営業時間終了時とされていますが(施行規則69条)、これ以外の「特定の時」までと定めることもできます(※)。この場合、「特定の時」を議決権行使書面に記載します。
法令上は、②および③については招集通知に記載した場合には議決権行使書面に記載する必要はないとされていますが(施行規則66条1項2号・4号、同条5項) 、②については議決権行使書面に記載することが一般的であり、③については議決権行使に係る重要事項であるため、招集通知に記載することが望ましいと考えられています(中村直人編著『株主総会ハンドブック(第4版)』(商事法務、2016)304頁)。
3. 委任状勧誘
株主が株主総会を招集する場合には、会社が株主提出議案について反対し、会社、招集株主の間で委任状勧誘(自分を代理人として議決権の代理行使をするように他の株主に働きかけること)をし合うこと(いわゆる「プロキシー・ファイト」です)が一般的です。
上場企業の株式について、この議決権の代理行使について勧誘を行う場合には、委任状勧誘に係る金商法、金施令、勧誘府令により、委任状の用紙・参考書類の被勧誘者への交付(金施令36条の2)および金融庁長官(所管の財務局)への届出規制に服することとなります(金施令36条の3。三浦亮太ほか『株主提案と委任状勧誘(第2版)』(商事法務、2015)61頁。なお、同書の36頁に委任状勧誘規制の構成について整理されています。)。
4. 委任状および委任状参考書類
(1)委任状
委任状には、議決権行使書面と同様、各議案の賛否欄を設けること(金施令36条の2第5項、勧誘府令43条)が必要です。
賛否欄に記載がない場合の議決権の行使や、動議(手続的動議全般および原案に対する修正提案)への対応を代理人に白紙委任することも認められていますので、これらの点についての対応が生じうる事案では、開催株主は当該記載を委任状に盛り込むことが重要となります(※)。
(2)委任状参考資料
委任状の参考資料については、勧誘府令において記載事項が定められています(勧誘府令1条~41条)。ただし、会社が勧誘者である場合と比較して株主が勧誘者となる場合には、参考書類の記載事項が簡略化されています(一松旬「委任状勧誘制度の整備の概要」商事法務1662号57頁(2003))。
委任状の用紙および参考書類の写し等を所管する財務局に届け出ておく必要があります(金施令36条の3、金施令43条の11)。この際、届出書表紙をコピーして持参すると受付印を押してもらえます。
なお、議決権を行使できる株主のすべてに対し、株主総会参考書類および議決権行使書面を交付する場合に該当し(勧誘府令44条)、所管する財務局への届出が不要ではないかとも考えられますが、財務局の運用はそのように解されていないようであるため、疑義を避けるためにも届出をしておく必要があります(松山遙『敵対的株主提案とプロキシーファイト(第3版)』(商事法務、2021)78頁)。
Authors
弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。
弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。
弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。
弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。
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