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税務UPDATE Vol.8:重加算税の実務②「過少申告と隠蔽・仮装」

1. はじめに

前回は、重加算税の概要のご紹介、そして隠蔽・仮装行為に関して、その意義、主観的要素の問題を取り上げました。

今回は、前回に引き続き、隠蔽・仮装行為とは何かを掘り下げるべく、いわゆる二重帳簿の作成や帳簿書類の隠匿、虚偽記載等といった積極的な隠蔽・仮装行為はないものの、所得金額を少なく申告した場合(過少申告書の提出)においてどのような場合であれば重加算税の対象となるのかを、事案をご紹介しながら解説します。

2. 過少申告書の提出と隠蔽・仮装行為

前回、重加算税の課税要件として以下の4つを挙げました。

① 過少申告加算税が課される要件を充足していること
② 国税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装したこと
③ ②が納税者の行為であること
④ ②の隠蔽又は仮装に基づき申告書を提出したこと

例えば、実際には多額の収入があり、当該収入金額を把握しているにもかかわらず、故意に一部の収入を所得金額として記載せず、実際の収入金額よりも少ない所得金額を記載した申告書(過少申告書)を提出することは、それ自体が一部の収入を隠すものであり、当該申告書の提出自体が直ちに「隠蔽」に当たり、重加算税が賦課されるようにも思われます。

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しかしながら、上記④の課税要件のとおり、重加算税の賦課要件としては、②の隠蔽・仮装行為に基づき申告書を提出したことが必要とされているため、隠蔽・仮装行為と申告書の提出は別のものとして区別されています。したがって、単に過少申告を行ったのみで重加算税が賦課されることはなく、過少申告書の提出とは別に隠蔽・仮装行為が必要と解されます。

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判例(最判平成7年4月28日民集49巻4号1193頁)も、「重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである」として、申告書の提出そのものとは別個の何らかの隠蔽・仮装行為があり、申告書の提出がこれに基づくものであるといえることが必要とされています。

3. 積極的な隠蔽・仮装行為がない場合

それでは、証拠書類の廃棄や架空契約書の作成といった積極的な隠蔽・仮装行為がない場合、いくら意図的に所得金額を少なく申告していたとしても重加算税を課されることはないのでしょうか?

このように理解すると、帳簿その他の書類を作成しない者については重加算税を課すことが困難となってしまい、書類を作成しないことがむしろ有利になってしまいます。また、意図的な過少申告行為については脱税にも該当するところ、悪質な納税者に対して重加算税を課すことができなくなってしまっておかしいのではないかという疑問が生じます。

この点、判例は過少申告書とは別途の隠蔽・仮装行為が必要としつつも、納税者が真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠蔽しようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠蔽のための具体的工作を行うことも予定しつつ、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したような場合には、殊更の過少申告として重加算税の賦課要件が満たされると考えて来ました(最判平成6年11月22日民集48巻7号1379頁)。

例えば、上記の判例(最判平成7年4月28日民集49巻4号1193頁)の事案は、納税者が株式等の売買に係る所得を申告しなかった事案ですが、取引の名義を架空にしたり、隠れた預金口座を設けたりといった典型的な隠蔽・仮装行為は行っていなかったものの、顧問税理士や証券会社の担当者から注意を受けており、株式等の売買により所得があった場合の申告義務を熟知していたにもかかわらず、3年にわたり株式等の売買による所得を申告せず、顧問税理士の質問に対しても課税要件を満たす所得はない旨回答し、株式等の取引に関する資料を全く示さず、確定的な脱税の意思に基づき、同税理士に過少な所得を記載した申告書を作成させて提出した事案でした。

この事案では、「殊更の過少申告」と認められる場合を敷衍して、「重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである」とし、結果として、当該納税者は、「当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて上告人のした本件の過少申告行為は、国税通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。」として重加算税の賦課を認めています。

上記の判例から、隠蔽・仮装行為に該当する積極的な行為がない場合でも、過少申告の意図を実現するための特段の行動があり、その行動によってその意図を外部からもうかがい得ることができ、その意図に基づく過少申告をした場合には、重加算税の賦課要件を充足することになります。

上記の「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」とは、どのような場合を指すのかについては、「過少申告をした年数、顧問税理士の質問に対して虚偽の答弁をし、同税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させてこれを提出したのではないか、そのような所得を得た納税者が通常であれば保管しておくと考えられる原始資料をあえて散逸するにまかせていないか、税務調査に対して協力せず、虚偽の答弁をしたり、虚偽資料を提出するなどしていないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して判断すべき」とされています(大阪地判平成12年7月27日税務訴訟資料248号523頁)。

4. 隠蔽・仮装行為の時期

上記の裁判例(大阪地判平成12年7月27日税務訴訟資料248号523頁)で「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」として例示した事情の中には、税務調査における虚偽答弁等の過少申告後の行為も含まれています。

しかしながら、重加算税の課税要件では、隠蔽・仮装行為に基づき申告書を提出したことが必要とされているため、隠蔽・仮装行為は、申告書の提出よりも先に行われる必要があるのではないでしょうか?あるいは、重加算税の納付義務の成立時期は法定申告期限の経過の時(国税通則法第15条第2項第14号)とされていることから、法定申告期限の時までに行われていることが必要でしょうか?

この点、「つまみ申告」の事案であって、申告前には過少申告の意図が明らかになるような外形的な行為は行っていないものの、3年間にわたり実際の所得金額に比して極めて少額の所得金額を記載した申告書を提出し続け、その後の税務調査に際しても過少の店舗数等を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応を行った事案(最判平成6年11月22日民集48巻7号1379頁)において、判例は「殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである」として重加算税の賦課を適法としています。当該判例の調査官解説においては、「隠ぺい、仮装行為は、必ずしも申告書の提出に先立ってされていることまでは要せず、少なくとも、その一要素が申告書の提出と並行して同時にされる場合であってもよいものと考えられる」として、真実の所得金額を隠蔽する「意図に基づく行為が全体として『隠ぺい』に当たると解されるならば、『隠ぺいしたところに基づき』納税申告書を提出していたときに当たるということもでき」るとしています。

その他の裁判例(大阪地判平成28年2月26日税務訴訟資料266号順号12809)においても、隠蔽・仮装と評価すべき行為が納税申告書の提出または法定申告期限より前のものに限られるとすることは、重加算税制度の趣旨に反する結果になることは明らかであり、「『過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動』が納税申告書の提出又は法定申告期限より前のものに限られるということはできない」と判示されています。

そうすると、隠蔽・仮装行為の少なくとも一要素は、過少申告書の提出と同時にされることが必要ですが、申告前に外形的に過少申告の意図を示す行為がない場合であっても、申告後の行為も含む事実関係全体からみて、過少申告が課税を免れることを意図して作為的に行われていたときは、隠蔽・仮装行為(*1)が認定でき、重加算税の課税要件が満たされると考えられます。

【イメージ図】

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*1 この場合の隠蔽・仮装行為が何なのかという点については、過少申告書の作成・提出行為であるとする説と、特段の行動と過少申告行為を含む全体が隠蔽・仮装に該当するという説があります。

5. まとめ

今回は前回に引き続き隠蔽・仮装行為に関する問題を取り上げました。隠蔽・仮装行為の該当性については重加算税賦課におけるメインの論点であり、これが問題となる事案も複数あるところですので、今後も引き続きご紹介していきます。

次回は、同じく隠蔽・仮装行為に関連して、隠蔽・仮装行為の行為者の問題(担当者等の行為が納税者の行為と認められるかという問題)をご紹介します。


Author

弁護士 迫野 馨恵(弁護士法人三浦法律事務所 名古屋オフィス 法人カウンセル)
PROFILE:2007年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)、11年~16年東海財務局理財部において金融証券検査官、16年~21年名古屋国税局調査部調査審理課において国際調査審理官として勤務(いずれも特定任期付職員)。21年9月から現職。

弁護士 山口 亮子(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2005年弁護士登録(2020年再登録、第二東京弁護士会所属)、18年~20年東京国税局調査第一部調査審理課において国際調査審理官(特定任期付職員)として勤務。20年7月から現職。

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