LSD《リリーサイド・ディメンション》第19話「はぐれエルフの運命と里の長の策略について」

  *

 オレたちはアリエルに想いを伝える。

「今の生活が嫌なら、こっちへ来ればいい」

「そうですよ! セントラルシティへ来てくださいよ! 歓迎ですよ!!」

「あたしたちはエルフのような亜人《あじん》の方たちを受け入れる所存です!!」

「騎士学院の騎士たちは魔物からすべてを守りますよ! わたしが保証しますよ!!」

 メロディが言ったあと、残りのふたりもうなずいた。

「オレたちはできることをやる。この世界をよくしたいだけさ」

 オレはオレの本心を告げる。

「だから、アリエルも……納得のできる位置に来てほしい」

 それから望みを。

「世界の危機は、みんなで守ってナンボだから……助け合って生きていこうぜ」

 アリエルは承諾した。

「あなたたちについていきます。よろしくお願いしますね」

  *

「しかし、あたくしがエルフたちにかけた『呪術』を解くことができますかね? そして、あの……はぐれエルフにも」

 ウィンダ・トルネードは家の中で、窓から見える夕焼け空を見ながら言った。

 簡易的に作られた想形空間《イマジナリースペース》に家を空素《エーテル》で組み立て……オレ、マリアン、メロディ、ユーカリ……そして、アリエルは夜空の月を見ながら眠りにつこうとしていた。

 だが、事件は起きる。

 風が騒がしくなり始めた頃だった。

 ――深夜。

 ウィンダ・トルネードは自身の家の中にある、イーストウッドを監視するために作られたディスプレイが配置された部屋にいた。

 ウィンダ・トルネードは基地の監視画面でイーストウッドの全エリア映像を見ながら物思いにふけていた。

「予言の勇者、ユリミチ・チハヤ……ね」

 ウィンダ・トルネードは昔のことを思い出し。

「まさか、アリエルを風《かぜ》のエルフだと見抜くとは……」

 ウィンダ自身がアリエルにしたことを振り返る。

「昔から、この世界はアリエルを中心に回っている」

 里の長は気づいていたのだ。

「あたくしは頑張った。アリエルの環境を根こそぎ奪うよう、必死に心を壊してやった。『結果』が出ないように『自身』が無能であるかのように思い込ませてやった。アリエルの力が覚醒しないように。……アリエルの本当の力を封印するためのものだった。あたくしはかんぺきでなければいけない。だから風《かぜ》のエルフの力を手に入れなければいけないのだ。平等なんてありえない。階級制度? あったほうがいいに決まっているじゃない! そのためにあたくしは最上にいなければいけないのだから。あたくしは権力を手中に収めるため、計画を実行した。あたくしはすごいから、あたくしは常に最上位のエルフでいなければいけないのだよ!!」

 ウィンダ・トルネードは邪気に満ちた表情で、イーストウッドを監視するディスプレイに映った「はぐれエルフ」を見る。

「……アリエルだ。『拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》』を越えようとしている。魔物がいるというのに、本当バカなんだから」

 この「呪術」で、なにもかも終わる。

「……風玉の指輪エア・エメラルド・リングは、あたくしだけの力なんだからっ! たとえ二千年前の風《かぜ》のエルフの生まれ変わりであろうと、その力を使うことは、あたくしが許さないっ!!」

 アリエルがいなくなったら、あたくしは本物になれる。

「あたくしのために死んで……アリエル」

  *

 ――深夜。

 ウィンダ・トルネードがイーストウッド全域を監視する画面を見ている、同じような時間帯にオレは目を覚ます。

「…………いない。アリエルの気を感じない」

 こんな時間なのに、どこへ行ったのだろう。

 オレはマリアン、メロディ、ユーカリの部屋へ行き、アリエルがどこへ行ったのか聞く。

「……まさか、ですわ」

「そんな……ですよ」

「嘘です……です」

 オレたちは頭の中が真っ白になった。

 オレたちの足は、いつの間にか……勝手に動いていた。

  *

 ――深夜。

 アリエルは「拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》」の近くまで来ていた。

 アリエルは漆黒の空を見た。星々が輝いている。

「……まあ、わたし……よかったと思う。最後にチハヤお姉さまたちに出会えてよかった。わたしのことを気にかけてくれて……うれしかった。こんなによくしてくれたのはチハヤお姉さま、マリアン女王さま、メロディさま、ユーカリさま……四人もわたしを気にかけてくれた。うれしすぎて死んでしまいそうです」

 アリエルはオレ――ユリミチ・チハヤを思い出す。

「……チハヤお姉さまたちがいてくれたから本当に楽しかったこともあるし、うれしかったこともあった……本当に、いろいろあったな。そして、わたしは……なんで危険な魔物たちのいる『拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》』にいるのだろう?」

 アリエルは「拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》」に直接、手を触れる。

「これで二千年間もったのか。今にも消えてしまいそう……まるで、膜みたい。エーテルで、できた壁というところでしょうか? 実際に設置された石壁自身はボロボロです。……! 『拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》』の膜が消えた? あれは、なに?」

 見えるようで見えないような、見えないようで見えるような……消えたり、消えなかったり……意思を持った影が、月の明かりに照らされ……キラキラと輝いている。

「あれは……巨人? でも、実際に見えたり見えなかったり……なんなのだろう? ……こっちへ向かってくる?」

 大きな巨人が、アリエルのもとへと近づいていく。

 その巨体は二十メートルを軽くこえているだろう。

 すでにアリエルの周囲には霧のようなものが周りに発生している。

 アリエルは周りがよくわからず、うまく動くことができない。

 アリエルは確信した。

「あれは……巨人だけど、ただの巨人じゃない」

 緑色の鎧を身にまとった巨人が姿をあらわにする。

「……これが『風帝《ふうてい》』……なのですね」

 アリエルは動けなくなり、その場でペタンと膝を震わせる。

  *

 ――深夜。

 ウィンダ・トルネードは嬉々の表情でイーストウッド全エリアを監視するディスプレイを見ながら、アリエルの様子を見守る。

「残念だな、アリエル。あたくしがいなければ風《かぜ》のエルフの生まれ変わりとして活躍できただろうに。だが、貴様はそれを知ることなく死んでいく。そして、あたくしは完全な風玉の指輪エア・エメラルド・リングを手に入れることができる」

 なぜアリエルが下級のエルフとして人生を歩んできたのか……それはエルヴィンレッジの長であるウィンダ・トルネードが仕組んだ罠だったのだ。

「あたくしの開発した呪術道具である『思考《しこう》改変《かいへん》装置《そうち》』は動物の思考に干渉できる能力を持つ。あたくしは、はぐれエルフであるアリエルの精神に鑑賞するため、この装置を使用した。アリエルだけではない。エルヴィンレッジのエルフたちも同じように思考を改変することができる。集団の思考の統一だってできる。『思考《しこう》改変《かいへん》装置《そうち》』による『呪術』をエルヴィンレッジのエルフたちに使えば、誰もがアリエルを下級のエルフであると認識し、下級の扱いをするようになる。あたくしの発明力があれば、階級は当然最上位になる。つまり、あたくしはアリエルが本当の風玉の指輪エア・エメラルド・リングの持ち主であると気づいていながら、嘘をついていたのだ。ははは――」

 ――あとは、アリエルの中に眠った心器《しんき》――風玉の指輪エア・エメラルド・リングをウィンダ・トルネードである、あたくしの心に器を作れば――。

「――あたくしは完全にならなければいけません。だから、あたくしは『思考《しこう》改変《かいへん》装置《そうち》』を使えば、アリエルの思考にアクセスし、アリエルに心器《しんき》である風玉の指輪エア・エメラルド・リングを「ウィンダ・トルネードに譲渡する」という思考をおこなわせられるはず。アリエルは自分の力の使い方を理解していないから、むしろ……それを利用してやったのだ。理解できないようにさせて、アリエル自身が能力のない『はぐれエルフ』であると思わせてやったのである。それがあたくしの狙いだ。それがあたくしの『風《かぜ》のエルフ』になっちゃうよ作戦!!」

 すべては、あたくしが一番になるため。

「あたくしたちは、きっとわかりあえない。だけど、それが定めなのだ。風玉の指輪エア・エメラルド・リングを手に入れて、本当の風《かぜ》のエルフになってみせる」

 里の長は不敵な笑みを浮かべ。

「ふふ。アリエル……朽ち果てるがいい。エルヴィンレッジで、あたくしたちエルフが下級のエルフとして扱ったとき、よく『向こう側の世界に行きたい』と願っていたな。その願いを叶えてやる。壁の向こうは薔薇世界《ローズワールド》の魔物だらけだ。覚悟しろ。ふはははは。呪術に気づかず死ぬ運命か。笑える」

 彼女は勝ち誇った顔で別れを告げる。

「さようなら、アリエル・テンペスト」

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