LSD《リリーサイド・ディメンション》第62話「白百合の玉」

  *

 ――薔薇ばら牢獄ろうごくにより、閉鎖された空間に閉じ込められたオレたちは抵抗する力を失っていた。

 薔薇ばらむちによって手足を拘束されるオレは心器しんきである白百合しらゆり短剣たんけん複数本を使って鞭を切ろうとするが――。

「――薔薇の短剣ローズダガー

 リーダンが開錠する心器しんきである薔薇ばら短剣たんけんにより、白百合しらゆり短剣たんけんの攻撃を防御する。

「そのまま、動くなよ」

 リーダンがオレに近づいてくる。

「チハヤっ! 逃げてっ! チハヤっ!!」

万里奈まりな、おれとの戦いに集中しろ。おれから逃げるな」

「くっ……もう、やるしかないのですの……」

 百合世界リリーワールド神託者オラクルネーマー薔薇世界ローズワールド神託者オラクルネーマーは、それぞれ一対一で薔薇ばら牢獄ろうごくに閉じ込められている。

 オレはリーダンと、アリーシャはブルーノと、マリアンはルイと、ユーカリはマンダリンと、チルダはサニーと、メロディはハートと、アスターはラヴァンと同じ空間に閉じ込められる。

 邪帝じゃてい闇帝あんてい冥帝めいていはミチルドとケイのようなエンプレシアの少女の騎士たちが対応している。

 これは、もう百合世界リリーワールドの住人が不利な状況に追い込まれていることの証左であった。

「もう、おまえたちに勝ち目はない。おとなしく俺……リーダン・ロリー・ローズゲートに従え」

「い、嫌だ。オレは、まだ、あきらめ、ない……」

百合世界リリーワールドの神、リリア……遊里道ゆりみち千早ちはやの核を抽出する」

 リーダンはオレの手足を縛る薔薇ばらむちを使い、強く縛る。

 その状態で、オレの核であるリリアの魂を抽出しようとしているのだ。

「勇者ごっこは楽しかったか? 二千年もの間、あらゆる少女たちから信頼を得てきた体験は宝物だろう……? リリア、エルシー・エルヴンシーズ、ユリミチ・チハヤ、チハヤ・ロード・リリーロード……その、すべての存在が、おまえの糧になっただろう。しかし、それは百合世界リリーワールドでの話だ。俺たちの世界では違う。この、統合されていく世界で、おまえは英雄になれない。反逆者である、おまえは死をもって新世界を創造しなければならない。俺たちとひとつになることで新世界を構築する……それは新人類しんじんるいに選ばれた栄光であるというのに、おまえは……でも、おまえに選択権はない。チハヤ・ロード・リリーロードは死に、そして遊里道ゆりみち千早ちはやの核を取り出す。それが、おまえに残された道だ」

「まだ、わからないじゃないか、そんなの……まだ道は、あるはずだ。オレたちは、まだ、ちゃんと話し合っていない。それに、オレは、まだ、おまえたちの世界にいる新人類しんじんるいと、ちゃんと対話していないじゃないか。オレたちには対話が必要なんだ。お互いに手を取り合おう。それから考えようよ」

「おまえが世界分割心器せかいぶんかつしんき――百合ゆり世界せかいを使った時点で、もう、おまえに対話する意志なんかなかった。おまえのことは、この世界中の人々には信頼されていない。おまえは信頼を放棄したんだ。だから、もう……手段は選んでいられない。悠久の時を、俺たち人類は生きてきた。宇宙がビッグクランチにより消滅するという事実に、俺たちは、どうやって人類を相続できるのか考えなきゃいけなかったんだ。この世には二種の人類が存在するのをわかっているか? 新人類しんじんるい花人類かじんるいだ。新人類しんじんるい花人類かじんるいには上下関係が存在する。新人類しんじんるいが上で、花人類かじんるいが下だ。花人類かじんるいに選択権はない。新人類しんじんるいに従え。従うんだ」

「オレたちだって人類なわけだろ? どうして、そこに上下関係が存在するんだよ?」

「俺たちは新人類しんじんるいによって生み出された存在だからだ。新人類しんじんるいがいなければ花人類かじんるいは存在していない。だから決定的な上下関係が存在する。もう、これは俺たちの運命なんだよ。俺たちは新たな宇宙を形成するためにつくられた存在なんだ。受け入れろよっ!!」

「それでもオレたちにだって選択権があるはずだっ! 探そうよ、みんなでっ!!」

「ねえよっ! マガイモノが一丁前にベラベラとっ! もう死ねよ、とっととっ!!」

 リーダンは心器しんき開錠かいじょうする――。

「――黒薔薇の剣ブラックローズソード

 薔薇ばらけんを黒くした黒薔薇くろばらけんを装備する。

「胸に突き刺すぞっ!!」

 オレの胸が黒薔薇くろばらけんによって貫かれる。

「これは、おまえの黒百合くろゆりけんを参考にさせてもらったっ! 黒薔薇くろばらけんには、あらゆるものを吸収する能力があるっ! これでリリア――遊里道ゆりみち千早ちはやの核を吸収するっ! さよならだ、チハヤ・ロード・リリーロードっ!!」

 薔薇ばらむちの解除ができない。

 もう、オレには抵抗できる手段がない。

 オレは……死ぬんだ。

「俺の彼女を取り戻すっ……!」

 別にリーダン・ロリー・ローズゲート――茨門しもん紅一こういちの彼女になったつもりはないのだが、それでも前世のオレが彼に愛されていたという事実があるということをオレは知らなくてはいけないのかもしれない、と思った。

 ごめんな、みんな……さよならだ。

「チハヤ、ダメっ! いかないでっ!!」

 マリアン・グレース・エンプレシア――向郷こうごう万里奈まりなが叫ぶ。

 だが、彼女の想いとは裏腹にオレの命の輝きは失われようとしていた。

 が――。

「――なんだ、これは?」

 黒薔薇くろばらけんの能力でオレの胸から抽出された玉は白く輝いていた。

「白百合のように眩い玉が、輝いて……」

 心器しんき――薔薇ばら牢獄ろうごくを使って分割されていた空間が白く、あたりを神々しく光ろうとしている。

 オレをまとう心器しんき黒百合くろゆりころもならば、対照的に白百合しらゆりたまと呼ばれるであろう、その白い玉は人間の少女の姿に変貌する。

 それは、かつてオレが恋していた千道せんどう百合ゆりと同じ姿をしていた。

百合ゆり……ちゃん?」

 オレの命は白百合しらゆりたまの光に包まれて、胸の傷が消え、なんとかなった。

 でも、そんなことより、目の前に百合ゆりちゃんがいるという事実に惹かれていく。

「いいえ、ワタシは百合ゆりちゃんではありません。でも、百合ゆりちゃんとも言えるかもしれませんね」

「どういうこと?」

「ワタシは、あなたの中で生まれた架空の少女……千道花ちみちはな百合葉ゆりは。この世界での名前はユリハ・フラワー・サウザンドロードとでも言いましょうか? よろしくお願いいたしますね」

 新たなる少女が誕生し、これからも、この戦いは続いていく――。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,778件

#SF小説が好き

3,095件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?