LSD《リリーサイド・ディメンション》第66話「過去と未来がつながるとき」

  *

 ――……オレたち・・は、結合する……――。

  *

 遠方に壁が見える。

 とても大きな壁だ。

 あの壁を壊さなければ、世界を変えられない。

 そのための準備をしてきた。

 ゆえに、そのための行動をする。

 すべては、すべてを取り戻すために。

 ――……とある彼オレには、過去がある。

 オレは小説が好きだ。

 オレはライトノベルが好きだ。

 オレは漫画が好きだ。

 オレはアニメが好きだ。

 オレはゲームが好きだ。

 オレが、それらを好む理由は物語が好きだからだ。

 あまたの物語がオレを形作っている。

 だから、オレは自分が主人公であると信じている。

 自分がマイナスの存在だからこそ、プラスな出来事が始まるのだと。

 それが物語を形作る。

 なぜオレが物語を好むのかは、その一点につきるのだ。

 そんな物語をオレは書いていた。

 異世界転生というジャンルの物語を。

 その物語の主人公のようにオレはなりきっている。

 VRMMORPGアプリの仮想現実空間の中で。

 オレは主人公になるために、そこで魔物を倒し、レベルアップする。

 自らの夢を叶えるために……――彼女を手に入れるために。

 オレはオレの中の一部になるために、壁を壊さなければならないのだ。

 オレがオレになるためには。

 それが世界を変える唯一の方法なのだから――。

  *

 ――オレは、あの壁を破壊した。

 東側の「拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》」をだ。

 目の前にはかぜのエルフであるアリエル・テンペストがいた。

 オレは、あのときのアリエルを見て涙が出そうになる。

 けど、今のオレは違った。

 オレは百合道ゆりみち千刃弥ちはやでもなければチハヤ・ロード・リリーロードでもない。

 二十メートルの身長を持つ、あの世界を侵略するために存在する帝王の一体だった――。

『――……百合ひゃくごう……――』

 ――……と口上を唱えて、斬撃を重ね合わせる空想《イメージ》を……彼と彼女たちは放った――。

『――……重斬じゅうざんっ!!』

 百の斬撃をオレに与えた。

 オレは、なにかを発しようと思うが、今の状況が理解できない。

 彼らの斬撃はオレの鎧を傷つける程度で、たいしたダメージにはなっていない。

 オレの精神は彼と、なんらかのつながりを感じさせる――。

 ――そう思った瞬間、オレの脳裏に謎の声が響く――。

 ――トライ・アンド・エラー……ですよ!!

 ――わたくしたちにはチハヤがいます。チハヤとわたくしたちが力を合わせれば攻略できないものはないはずですわ!!

 彼ら四人は心器しんきの鎧の機能を通じて、思考や意識を共有しているのだ――。

 ――リリアさまに選ばれし神託者オラクルネーマーなのですからです!!

 ――無限に宿る力があるのですわ!!

 ――……よし、トライ・アンド・エラーだ!!

 ――斬撃が効かないのであれば、突による攻撃はどうだ?

 ――そういえば……オレの「超回復ちょうかいふく」能力は、魂の結合ソウルリンケージをしている四人全員に効果があるんだよな?

 ――だから――。

『――技の共有だって、できるはずだ!!』

『――……百合ひゃくごう……――』

 ――……精神を研ぎ澄ます。四人同時で、来る……――。

『――……連突れんとつっ!!』

 百の突による連撃を彼らで合わせて放った。

 合計、四百の突による攻撃だ。

 ――さすがに……効いてくれよ、な……?

 オレがまとっていた緑色の鎧がコナゴナに砕け散った。

 裸に近い格好になった……下半身にふんどしらしきものがあるから全裸では、ないはず……だが――。

 オレが裸に近い格好になった瞬間、雷光が走る。

 まるで漫画によく出てくる形態が変わったように感じられる。

『まるで「雷帝らいてい」……なぜだ、なぜこんなことが起きる?』

 オレは今、起こっている、すべての状況を理解してしまった。

「……これはオレの隠された能力である……」

『……しゃ、しゃべった!?』

 ――やはり人語を話せるのか……?

 そう、オレにはできる。オレだから、できる。あの、闇に染まった風玉の指輪エア・エメラルド・リングの黒い光に飲み込まれたから――。

「しゃべれるさ。なぜならオレは、この世界について知っている。薔薇世界ローズワールド百合世界リリーワールドの真実を、な……」

 ――……しゃべるのか、真実を?

 ああ、しゃべってやるさ。

『オレたちの知っている昔話とは、また違うのか?』

「……まあ、そこそこ違うな」

 ――そこそこって、なんかアバウトだな……。

「ただなあ、いずれおまえたちは知ることになる。この世界と、あの世界の真実を、だ」

『というか……なんで世界最大級の最強の敵が、こんなフランクに話しかけてくるんだ!?』

「さあ。それを判断するのは、おまえだ。ユリミチ・チハヤよ……」

 オレは本音を言ったつもりだ。

 過去の自分には到底、理解できるものではない。

 異世界転生の絵物語を、ただただ信じていた、あのころの自分には、決して信じることができないものであるからだ――。

 ――ピシャン、ゴロゴロ……。

 雷鳴がとどろく。

「さて、真面目に勝負を再開するか……今、おまえたちの中でオレは『風帝ふうてい』の第二形態である『雷帝らいてい』になったという認識でいいな?」

『ああ、こっちはそう解釈する』

「では、見せてやろう……先ほどの『風帝ふうてい』形態で使っていた烈風剣れっぷうけんと対になる第二の剣……轟雷剣ごうらいけんだ」

 オレの剣はピシピシと電流が流れている――。

「――轟雷斬ごうらいざん!!」

 電流をまとい、彼ら四人に突撃する。

『かわすぞ!!』

 彼らは、なんとか回避した。

「ほう、今の攻撃をかわすとは」

『オレたちには無限の空想力エーテルフォースを宿せる力がある!!』

「しかし、かわしたことで被害を受けた地域があるようだが」

『なにっ!!』

 エルフの集落であるエルヴィンレッジは完全に崩壊した……けど。

『だが、オレたちには有加利ゆうかりけんがある!!』

 彼らは瞬時に移動し、有加利ゆうかりけんをエルヴィンレッジの土地に刺した。花言葉はなことばである「新生」と「再生」をねじ込み、強引に花言葉はなことばを解釈し、コネコネこねくり回しながら彼らはエルヴィンレッジを復活させる。

「力業だな。もはや人間の領域を超えているのではないか?」

『そうかもしれねえ! オレたちは一心同体だ!!』

「ならば、攻略される前に次の形態へと変化するか……見せてやる。オレの第三形態を――」

 オレはオレの存在をふたつに分けた。

「――第三形態『双帝《そうてい》』だ」

 彼らが驚愕する様子をオレは見ている。けど、それができるオレも驚愕している。なぜなら、それはオレが未来でユリハを生み出したのと同じギミックなのだ。

「まあ、神々の遊び……みたいなものだ」

『神々の遊び……だと?』

「ああ、オレは気まぐれでなあ……気分で行動が変わるんだ」

『そんなので、よく帝《みかど》として務まるよなあ……』

「……いや、正確には神々《かみがみ》の遊《あそ》びならぬ帝々《ていでい》の遊《あそ》びかもしれんな……どうでもいいけど」

『どうでもよくないわ。こっちは世界の危機に立ち向かっているんだ。おまえのような存在は消滅しなければいけないんだ……よっ!!』

 双帝そうていであるオレたちは彼らの攻撃をかわした。

「おまえらさあ、四人がかりだから負けないというスタンスやめようか。本来なら帝《みかど》に対抗できる時点でいろいろ間違っているんだよ。おまえたちは、この世界のバグみたいなものさ。理解できないわけ……じゃ、ないよな?」

『そう言って、オレたちに限界を見せようとしているだろ? いつ隙を見せて、負けないか誘っているだろ!?』

 オレは烈風剣れっぷうけんを、オレは轟雷剣ごうらいけんを構える。

合技ごうぎ……――烈風轟雷斬れっぷうごうらいざんっ!!」

 風と雷を組み合わせた合体技を発動はつどうさせる。

『かわせ! ……いや、しまった!!』

 オレたちは東に位置する「断罪だんざいかべ」の一部を、その技で破壊する。

「どうだ。二体分のみかどの力は……!!」

 二十メートルの巨体からの攻撃は簡単に災害級に至る。

 壁の一部が破壊されることに彼らは絶望に近い感情を抱き始める。

 彼らは携帯端末を利用して、国の中央都市にいる騎士たちに連絡するのであった――。

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