LSD《リリーサイド・ディメンション》第60話「変化する黒百合」

  *

 ――黒百合の花言葉は「恋」「呪い」「狂おしい恋」「恋の魔術」「ときめき」らしい。

 でも、黒百合くろゆりけんが、それらの花言葉の特性を持っているとは限らない。

 だって、ニセモノだから。

 口上するときの名はブラックリリーソード。

 ホンモノならばチョコレートリリーソードだろう……黒百合の英名はチョコレートリリーが正解なのだ。

 けど、ニセモノであるブラックリリーは百合の形状をした花びらが黒い色をしている。

 ニセモノの黒百合くろゆりけんが、どこまで薔薇世界ローズワールド神託者オラクルネーマーと戦えるのか……それを今、試す――。

「――甘くないだと? それがどうした? 甘くないから、なんだというのだ?」

 リーダンは怒った口調でオレに剣を向ける。

薔薇ばらけんの力を見せてやる――」

 ――リーダンは口上を述べる――。

「――薔薇千本ばらせんぼん

 千本の薔薇ばらけん百合世界リリーワールドの少女たちに向けて放たれる。

 オレは黒百合くろゆりけんを形状変化させ、叫ぶ――。

「――黒百合の短剣ブラックリリーダガーっ!!」

 千本の薔薇ばらけんの攻撃を千本の黒百合くろゆり短剣たんけんで防御して消滅させた――。

「――チハヤさま、すみません。防御は、わたしに任せてください」

 チルダが新たな心器しんきを開錠する――。

「――透百合の障壁クリアリリーバリアっ!!」

 物理攻撃を通さない透明な膜が百合世界リリーワールドの少女たちとオレに形成される――それがチルダの新たな心器しんきである透百合すかしゆり障壁しょうへきだ。

「ありがとう、チルダっ!!」

「いえいえ」

 リーダンは歯を食いしばりながら――。

「――こうなったら……ブルーノっ! 障壁を突破するプログラムを薔薇世界ローズワールド心器しんきに内蔵させろっ!!」

「わかりました」

 ブルーノは思考でプログラムを作成する――。

「――できました」

「よし、俺たちの心器しんきに内蔵させるんだ」

「しました」

「では、もう一度……薔薇千本ばらせんぼん

「ですが、ここでユーカリ・ピース・オーバーヒルの出番ですっ! いきますよっ!!」

 ユーカリも新たな心器しんきを開錠する――。

「――有加利の盾ユーカリプタスシールドっ!!」

 薔薇ばらけんの攻撃をユーカリの新たな心器である有加利ゆうかりたてで、すべてを防ぐ。

「自動追尾する攻撃ですら、すべて防ぐ心器しんきですっ! 願わくば、真剣勝負でお願いしますですっ!!」

「真剣勝負ね……」

 リーダンはオレに視線を送る。

「なら、その黒百合くろゆりけん薔薇ばらけんのどちらが強いのか、試してみようじゃないか」

「ああ、やってみようか。どちらにせよ、オレが勝つと思うけどな」

 オレが台詞を言い終えたのと同時に邪帝じゃてい闇帝あんてい冥帝めいてい家臣かしんを召喚する。

 邪家臣じゃかしん闇家臣あんかしん冥家臣めいかしんが三体ずつ顕現される。

「ほざけ。だったら、この状況をどうにかしてみせるんだな。オレはホンモノの彼女を取り戻すまで攻撃をやめない。いけっ、薔薇ばらけんよっ!!」

 薔薇ばらけんがオレに向かって飛んでくる――。

「――黒百合の障壁ブラックリリーバリアっ!!」

 チルダの透百合すかしゆり障壁しょうへきを模した黒百合くろゆり障壁しょうへき薔薇ばらけんの攻撃を止める。

 むしろ、その黒百合くろゆり障壁しょうへき薔薇ばらけんを消滅させている。

「リーダン……もう、わかっただろ?」

「なにがだ?」

「オレのニセモノの……黒百合の特性を、さ」

「衝突した物体の消失……もしくは吸収か?」

「正解っ! このオレの黒百合くろゆりは、そういう能力がある」

 それはオレがまとっている黒百合くろゆりころもも、そうだった……今は完全にオレと融合しているがな。

 つまり、事象の改変をおこなう能力だ。

 その事象の改変により、本来、存在していた世界線からの消失をおこなうこともできる。

 オレの白百合しらゆりはホワイトホールのように物質を放出する能力を持つが、黒百合くろゆりは対極である。

 オレの黒百合くろゆりはブラックホールだ。

 ブラックホールは物質だけでなく光さえ脱出することができない天体である。

 白百合しらゆりけんは放出、黒百合くろゆりけんは吸収の能力を持つ。

 循環していく能力だ。

 要は、だ――。

薔薇ばらけんをコピーしたっ! これから、その能力を使うっ!!」

 千本の白百合しらゆりけんを顕現し、放出するイメージで――。

「――百合千雨ゆりちさめっ!!」

 薔薇世界ローズワールド神託者オラクルネーマーたち、闇のみかどたち、闇の家臣かしんたち、魔物たち全体に技を発動する。

 魔物たちにはクリティカルヒットをしているようだが、薔薇世界ローズワールド神託者オラクルネーマーたちは、うまい具合に防御した――。

「――薔薇の盾ローズシールド

「――青葵の盾ブルーマロウシールド

「――真竹の盾トゥルースバンブーシールド

「――蜜柑の盾マンダリンオレンジシールド

「――向日葵の盾サンフラワーシールド

「――藍の盾インディゴシールド

「――薫衣草の盾ラベンダーシールド

 さすが薔薇世界ローズワールド神託者オラクルネーマーだ。

 有加利ゆうかりたての真似をしてくるとは――。

心器しんきは心の武器だ。おまえたちが変化できるように俺たちにも変化できないわけがない」

「そりゃあ、そうか」

「それに、もうひとつ、おまえが見落としていることがある」

「えっ?」

「俺たちには心のストックが存在する。だから、あのとき黒百合くろゆり障壁しょうへきに吸収された薔薇ばらけんが消失したとしても、心が破壊されることがなかった。つまり、おまえたちは、ひとつの命で戦っているが、俺たちは複数の命で戦っている、ということだ」

「そうだったのか。なら、おあいこだな」

「なにっ!!」

真・魂の結合トゥルース・ソウルリンケージ、実行っ!!」

紫苑の鎧アスターアーマーっ!!」

聖母黄金花の鎧マリーゴールドアーマーっ!!」

花蘇芳の鎧レッドバッドアーマーっ!!」

有加利の鎧ユーカリプタスアーマーっ!!」

透百合の鎧クリアリリーアーマーっ!!」

女王百合の鎧クイーンリリーアーマーっ!!」

火玉の鎧ファイア・ルビー・アーマーっ!!」

水玉の鎧ウォーター・サファイア・アーマーっ!!」

地玉の鎧アース・トパーズ・アーマーっ!!」

空想の鎧エーテルアーマーっ!!』

 オレ以外の全員が空想の鎧エーテルアーマーを着装した。

「これで、こっちも複数の命を持っている状態になった。オレたちの魂が途切れることはない」

 決意を固めて――。

「――こっからが、本当の本気モードだっ! 覚悟しろっ!!」

 薔薇世界ローズワールドとの因縁の戦いは、もう始まっている。

 世界のすべてを救うため、オレたちは戦う――。

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