LSD《リリーサイド・ディメンション》第35話「キャッキャ☆ウフフな湖水浴!」
*
しょうがないさ、しょうがないさ。
でもでも美少女たちに水着姿でキャッキャ☆ウフフされるのは男冥利につきるというか……いやいや間男になってたまるか。
名字が百合道《ゆりみち》なのに百合道《ゆりどう》に反するのはよくない! マジでよくない間男なんて!!
結局、オレは女性用の水着を着せられることになったのだ。
『…………』
オレの水着姿を美少女たちが見る。……なんだか顔が赤いけど、どうしてだ?
「さすが、漆黒の君と呼ばれるだけ……ありますね」
「ケイも、そう思う? ミチルドも……そう思った」
「これが私たちの後宮王《ハーレムキング》の麗しい姿……」
「わたしたちの英雄は、ほんとに美しいですの」
「あたしもメロディと同じ想いですです」
「…………わたくしの負けですわ。唯一、勝っているのが……たわわな果実の部分ですけど」
……ま、男だからOPPAIないけどね。
「それにしても、わたし……思ったんですけど」
アリエルがオレの水着姿を見て言う。
「チハヤお姉さまとわたしたちって、そんなに変わらないですよね。むしろ、どこが違うのですか?」
『…………』
オレを含む美少女たちは黙る。
そりゃそうか。少なくとも一緒に温泉入ったマリアン、メロディ、ユーカリは知っているオレの秘密を教えるべきなのか……いやいや、いきなりゾウサン見せるわけにもいかないし、ってなに考えてんだ間男発言やめろ。
まあ、確かに水着姿のオレは男らしい骨格がないようにも思える。
ゴツゴツしてるというか、男らしさっていうか、そういう要素を感じさせてくれないというか……百合世界に転生した副作用的なものが働いたのだろうか……憶測だけど。
「…………今度、一緒に温泉入りませんこと? ここにいるみんなで?」
「いや、マリアン……温泉は、ひとりで入りたいから、心臓が悪くなりそうなイベント作成はやめてくれマジで」
「チハヤお姉さまの体の違いは下半身にツボミがついていることですの!」
「ですです! それはもう立派な花になりそうでしたです!」
「え、やっぱりなにか違うの? ミチルド、興味津々なんだけど?」
「やめろ百合ップルの片割れ。オレという間男で百合の花が枯れるぞ」
「ケイ的には、なんの問題もない、けど?」
「やーめーて、もう、まじ、やーめーてーくーれー。百合を崩壊させるな」
「つまり、わたしたちとチハヤお姉さまが一緒に温泉に入ればわかることなのですか?」
「そう、だけど……オレはマジで嫌だからな。だから、あきらめてくれ」
『えーっ!?』
「疑問形投げかけてもダメだから」
『ケチ……』
「ケチで結構。じゃ、泳いでくるわ」
オレは美少女たちのそばから離れた。
*
「空想力《エーテルフォース》、解放《かいほう》」
オレはウエストレイクの湖の奥へ行く。体中に空想力《エーテルフォース》の膜を貼り、呼吸できるようにした。詳しい理由はわからないけど、うまくいったから、まあよしとしよう。
「……いっぱい魚がいる」
そりゃそうか。湖の中だもんな。なんかオレの世界でも見たことのあるような魚だな。海の魚じゃなくて、湖の魚だから淡水魚しかいないよな……食べれるのだろうか?
そんなことより、目的を達成しなければ。
「東の森には風のエルフがいた。つまり、西の湖には水のエルフがいるはず」
そう、それが目的だった。でも――。
「――今日は最深部まで行けそうにないな。白百合《しらゆり》の布《ぬの》の機能で痛覚がわかるようになったから限界がわかる。……ここまでにしよう」
今日の湖での探索は終了した。
*
のちに知った話。
「チハヤお姉さまは、わたしと同じエルフを探そうとしているのですね」
アリエルは湖の前にいる水着姿の皆に言う。
「チハヤお姉さまは、一度亡くなってしまっていた。体は限界に近いはず。なのに、この世界を救うための行動をしている。わたしたちは、これでいいのでしょうか?」
「……いいんじゃない?」
ミチルドは言う。
「だって、チハヤは……この世界を救うために召喚された勇者でしょう?」
「そう、ですけど」
「だったら、ミチルドたちにできることは、ただ見守るしかないでしょうよ? ケイも、そう思うでしょう?」
「ケイも、そう思う。ケイのような凡人には特に、ね。ケイにとって、マリアン女帝と神託者《オラクルネーマー》、それに風のエルフであるアリエルちゃんからしたら、できることは、ただ指示に従う、くらいしかできませんよ」
「確かにわたしは風のエルフですけど、それが特別だと思ったことはありません。それにわたしは、そうじゃないと信じ込まされていましたから。だからこそ、できることはやりたいのです」
「じゃあ、アリエル。焦るな」
「アスターさん……」
「まだ、風帝《ふうてい》以外の帝《みかど》は活動状態になっていない。今は、ただ休むことだけを優先するのだ。なったときは、なったときだ。そのときが来るまで準備だけしておけばいい。それにキミはエンプレシア騎士学院の学生だろ? 今はバカンスという名の休暇期間に入っている。ならば、キミにできることはただひとつ……休め」
「チハヤお姉さまが、ほかのエルフを探していてもですか?」
「あの人は真面目なんだ。休む期間中でも体が勝手に動いてしまう『病人』だ。あれは、ああいうものなのだ。だからこそ勇者なのかもしれない」
「…………」
「でもね、私たちには希望が必要なんだ。希望が、ただのんべんだらりしていたら心許ないだろ? だからこそ私たちは後宮王《ハーレムキング》に希望を持っているのだ。あれが正しい勇者そのものであると。そうですよね、みなさん?」
「ですの!」
「ですです!」
メロディとユーカリが口上し、皆がうなずく。
「だから私たちは後宮王《ハーレムキング》を信じればいいのです」
「そう、ですか。……ですよね。そう、します。でも、わたしにできることはしていこうと思います。わたしは風のエルフ、なのですから……」
周りの空気がしんみりとした。
「そう、ですの!」
メロディが思い出したように。
「チハヤお姉さまの探索が終わったら、ちょっと夏らしいことしません?」
「夏らしいこと、ですです?」
「はい! 最近、暑くなりすぎて西の湖までひんやり気分を味わおうとしていますが、別の意味でもひんやり気分しません」
「……と、言いますと?」
「マリアン女王さまっ! みなさま、聞いてくださいっ! ここにいるみなさまで肝試ししましょうっ!!」
『肝試し?』
この会話のあとにオレは湖から出てきた。
そして、オレは知ったのだ。
幽霊が出るという、とある館の話について――。
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