LSD《リリーサイド・ディメンション》第65話「黒よりも暗い世界の中心へ」

  *

 ――オレとユリハはリーダンと戦闘をおこなっていた。

 三体の闇のみかどを破壊したときのように、強力な技でオレとユリハはリーダンに対抗している――。

「――百万ひゃくまん百合ひゃくごう波刃はじん

「――百万ひゃくまん薔薇しょうび波刃はじん

 オレとユリハの戦闘力は確実にリーダンを上回ろうとしていた。

 それはオレとユリハが、ふたりで戦っているからこそ、リーダンに対抗できているということだった。

 が――。

「――この世界は完全に、ひとつになろうとしている。分割されていた百合世界リリーワールド薔薇世界ローズワールドと完全に融合して、もとの世界に戻ろうとしている。それは終末の世界ではあるが、そこから俺たちが新たな世界を生み出せば、新人類しんじんるいが、その世界へ行き、地球のような星に生活できる、というわけだ。俺たちは新人類しんじんるいいしずえとなり、その世界で永遠となるのだ」

「そんな、わかりきったことを言って……本音は、どうなんだよ?」

「つまり、この戦いは、もとの薔薇世界ローズワールドの住人である男たちが勝つ、ということだ。女は男に勝つことはできない」

「わかんないだろ、それは……」

 オレは次の技を繰り出す――。

「――百万ひゃくまん百合斬ひゃくごうざん

 対して、リーダンは――。

「――百万ひゃくまん薔薇斬しょうびざん

 百万の剣戟の響きが、オレたちの周りに轟く――。

「――百万ひゃくまん細葉ほそば百合斬ひゃくごうざん

 ユリハはリーダンのふところに技を仕掛けた――。

「――転移てんい

 リーダンはオレたちと戦っている空間から逃げ、上空から技を発動させる――。

「――白薔薇の銃剣ホワイトローズベイオネット。――百万ひゃくまん薔薇しょうび弾斬だんざん

 放出の特性を持つ白薔薇しろばら銃剣じゅうけんを顕現させ、百万ひゃくまん薔薇しょうび弾斬だんざんを発動させる。

 その技はオレとユリハを切り裂いた――。

『――超回復ちょうかいふく

 瞬時にオレたちは傷を回復しようとする。

 が――。

「――……傷の治りが、遅い……?」

 疑問を抱くオレにリーダンは答える。

「それは、この世界の中心が薔薇世界ローズワールド側に傾いているということだ」

 リーダンはオレたちに説明していく。

「俺たちは真・魂の結合トゥルース・ソウルリンケージを発動しているが、それは世界の中心であり、神に等しい俺とチハヤが発動しているからこそ意味を持つ。百合世界リリーワールドでは、その真・魂の結合トゥルース・ソウルリンケージを発動させる中心人物であり神であるチハヤだからこそ百合世界リリーワールドの加護を百合世界リリーワールドの住人に共有できたのだ。逆の立場である俺もチハヤと同じように真・魂の結合トゥルース・ソウルリンケージによって薔薇世界ローズワールドの加護を薔薇世界ローズワールドの住人に共有することができる。……だが、今は……どうだ?」

「今……それは……」

「この世界の中心は俺、リーダン・ロリー・ローズゲートになりつつある。文字通り、本当の意味で融合しているということだ。薔薇世界ローズワールドは融合することで強くなり、百合世界リリーワールドは分解することで強くなる。今、この世界は、どうだ?」

「融合している……この世界の中心は……オレ、じゃない……」

「そういうことだ。つまり、おまえたちに勝ち目など、最初から存在しない」

「そんな……」

 ユリハの顔がゆがんだ。

「なら、どうして、ワタシは……この世界に……」

「それは、おそらくチハヤにあった千道せんどう百合ゆりの魂がリリアのコアを守っていたのだろう。それが転生して千道花ちみちはな百合葉ゆりは――ユリハ・フラワー・サウザンドロードになった。……つまり、次にリリアのコア黒薔薇くろばら心器しんきで吸収するとき……本当の意味でチハヤ・ロード・リリーロードは存在しなくなる、だろうな」

「つまり、オレたちに勝ち目は……」

「ない」

 リーダンは断言する。

「今、五光ごこう指輪ゆびわのひとつである風玉の指輪エア・エメラルド・リング五闇ごあん指輪ゆびわによって汚染されている。風のユリミチ・チハヤであるアリエル・テンペストが五闇ごあん指輪ゆびわの邪気に感染して精神が崩壊してしまった。もとの状態に戻る見込みはないだろうな……」

「アリエルは、ずっと、あのままなのか?」

「でもな、どちらにせよ今のままだと世界は消滅するんだよ? おまえたちが俺たちに屈服しない限り、この戦いは続くし、どうしようもない。だから俺たちはいしずえになるんだ。花は添えるんだよ。花によって世界は美しくなる。花人類かじんるいは、そのために生まれてきたのだから、役目を果たそう? 俺たちで新人類しんじんるいのための新たな世界を創造しよう?」

「オレには、その価値基準が、わからない。新人類しんじんるいはオレたちを利用しているに過ぎない。だからオレは逃げ出したんだ。もう、あの麻薬を飲まされたくなかった。オレたちだって人間なんだよ。喜怒哀楽な感情を持つ、普通の人間なんだ。そんなことなら、オレは、この世界にいたくない。この世界を新人類しんじんるいのためだけにあっていいはずがない」

「でも、おまえたちのやっていることは非生産的だ。交わりもせず、子を残さず、次の代へつながない……その役割を担っているのが俺たち花人類かじんるいなんだよ。新世界創造計画しんせかいそうぞうけいかくいしずえになれるんだ。名誉なことじゃないか」

「それでも、オレは、それがなくても最期まで、なにかに縛られず生きていたいんだっ! 束縛は嫌いなんでねっ!!」

「わからずや、めが……だったら、もう……本当に終わりにしようか。最悪、コアだけでもいい……それさえ手に入れてしまえば、俺たちの勝ちだ――」

 ――リーダンの姿が見えなくなった――。

「――転移てんい

 瞬間的にオレの前に現れる。

 そして――。

「――黒薔薇の銃剣ブラックローズベイオネット

 黒薔薇くろばら銃剣じゅうけんをオレの胸に突き刺す――。

「――超吸収ちょうきゅうしゅう

 吸収の特性を持つ黒薔薇くろばら銃剣じゅうけんでオレのコアを取り出そうとする――。

「――これで、終わりだ……」

 本当に、終わってしまうのか……?

「……アリエル――」

 ――彼女の顔を思い出す。

 オレが救った初めてのヒロイン。

 オレが救えなかった初めてのヒロイン。

 光と闇の両方の顔を持ってしまった彼女の顔を思い出してしまった。

 今、彼女は闇の中をさまよっている。

 もう、なにもできないまま、終わってしまうのか……?

 いやだ。

 オレは、まだ終わらない。

 終われない。

 まだオレは、終わっちゃいけないんだ。

 みんなでハッピーエンドを迎えるまで、オレは終われない。

 だから――。

「――エルフたちっ! オレに力を分けてくれっ!!」

 五光ごこう指輪ゆびわが光る。

 特に、その中の風玉の指輪エア・エメラルド・リングが黒い光をまとって輝き出す。

 オレは風玉の指輪エア・エメラルド・リングに意識が吸い取られそうになる。

 まだ、終われない。

 終わっちゃいけない。

 みんなでハッピーエンドをめざすんだ。

 そのためなら、なんだって、やってやる。

 この、黒よりも暗い世界の中心へ行くために、すべてをハッピーに染めてやる。

 風玉の指輪エア・エメラルド・リングは闇をまとっている。

 オレは、その闇へ……飛び込んだ。

 闇の中を潜るように……そこ・・へ行った――。

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