LSD《リリーサイド・ディメンション》第23話「融合する風帝」

  *

 ミチルドとケイたちは、いや……騎士学院の騎士たちは壁に打ち付けられた轟音によって目を覚ますことになる。

「なに、なんなの……地震!?」

「いいえ、ミチルド! あれは、おそらく帝《みかど》の攻撃だわ。予言の『風帝《ふうてい》』で間違いないかと……」

「そうかもね、ケイ! ミチルドは、どうすればいい!?」

「ミチルドは、ケイと一緒に……起きていない騎士たちを起こしに行く、ってのはどう!?」

 ミチルドとケイは行動を開始した。

 一方、青紫色の髪をした紫苑《しおん》の騎士《きし》も目を覚ますことになった――。

  *

 オレたちは空想力《エーテルフォース》でメロディの花蘇芳《はなずおう》の剣《けん》を複製し、むき出しの「雷帝《らいてい》」を斬りつけた(四人分)。

 すると……「雷帝《らいてい》」は「風帝《ふうてい》」に攻撃し始めた。

「くっ……オレもそのことを忘れていた。そういえば、そんな花言葉《はなことば》があったな、『裏切り』というな……。ならば……第四形態『合帝《ごうてい》』に変化する!!」

 二体の化物は融合した。

『「風帝《ふうてい》」と「雷帝《らいてい》」が融合しただと!?』

「ああ、これですべてを終わらせる」

「双帝《そうてい》」の二体による融合……それは想定外だった。

 オレたちは、この戦闘を終わらせられるのだろうか?

「なあに、安心せい……これが最後だ」

『ホントだな!? 本当なんだな!? 男に二言はないよな!? 嘘ついたら百合《ゆり》の短剣《たんけん》千本飲ますぞゴラ!!』

「だんだん口調が荒く、悪くなっていくな……本当に、ここまでだから……これ以上はない! 何度でも言う! 安心しろ!!」

『安心だと!? できるものかっ! おまえたち薔薇世界《ローズワールド》の魔物が百合世界《リリーワールド》の侵略をおこなうからっ! 百合世界《リリーワールド》は、いつまでたっても平和にならないんだよ!!』

「本当に、おまえたちのしていることが世界平和につながるとでも? おまえたちの行動が世界をよくすると、そう思っているのか?」

『――なに言っているんだよ!? 当たり前だろ! そうでなきゃ、なぜオレたちは戦っている!? お互いの正義のためにっ! こうやって戦っているんだろうがっ!!』

「もはや、ユリミチ・チハヤ……おまえだけだな。『女帝《じょてい》』たちはどうした? 完全に溶けてなくなってしまったか?」

『マリアンたちが、どうしたって!? ……――!?』

 ……あれ、そういえばマリアンたちはオレたちだよな?

 なのに、どうして疑問に思うのだろう……?

 オレたちは、ちゃんと……四人、だよな?

 ひとり……じゃ、ないよ……な?

『う、うわ、うわあ……うわあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ! なんだ、この……感覚――はっ!? なんなんだよっ! おまえたちは一体なんなんだっ! オレの頭に侵入してくるなっ!!』

 オレたちは、いや……オレは、たったひとつの願いを言う。

「オレを解放しろっ! オレの世界を、これ以上……共有なんて、するなっ!!」

 三人がオレの感覚から離れる。

 まるで、強制的にシャットダウンされたような……感覚だ。

 頭を冷やせと、言われたような気がした。

「……大丈夫ですの、チハヤっ!?」

「顔色が悪いです! いったい、どうしてしまったのです!?」

「わたしたちは、確かにつながっていましたよ……魂の結合ソウルリンケージで、ね。しかし、チハヤお姉さま以外は……なんとも、ない……無事の、ようですよ」

「いや、たぶん……大丈夫だ、たぶん……」

 三人とも胸をなで下ろした。

「今、オレたちは……なにをしていたんだっけ?」

「『合帝《ごうてい》』であるオレとの勝負だよ、ユリミチ・チハヤ……」

「合帝《ごうてい》」は確信しながら。

「よかったな。オレが物語の舞台装置で。まあ、初めて……? の、チャレンジだ。大目に見てやろう」

「舞台装置だと!? なにを言っているんだ、おまえ!!」

「――動くな!!」

 ウィンダ・トルネードの声だ。

「はぐれエルフのアリエル・テンペストがどうなってもいいのか!? このナイフで殺してやるわよ!!」

「ちょうどいい。そこのエルフ、オレに取り込まれろ」

「なっ、風帝《ふうてい》……なの? なぜ、しゃべる!?」

「いただきます」

 ウィンダ・トルネードは「合帝《ごうてい》」に取り込まれた。

  *

 ウィンダ・トルネードは、かつて「風帝《ふうてい》」だった存在である「合帝《ごうてい》」に取り込まれた。

 正確には、それに至るまでの手順があった。

 ウィンダ・トルネードのダークエルフ化の手順だ。

 まず、「合帝《ごうてい》」はウィンダ・トルネードに秘められた邪悪な心を現実化させた。

 黒い影の霊体だ。

 霊体はウィンダ・トルネードをまといつくし、肌が褐色化し、髪が銀色になった。

 その状態でウィンダ・トルネードを取り込んだのだ。

 そして、最初「風帝《ふうてい》」だった存在は……最終的に魔法や魔術を使えるダークエルフ化したウィンダ・トルネードを吸収したことにより、第五形態――「魔帝《まてい》」へとランクアップしたのである。

「……火《ファイア》の属性攻撃ですよ! お見舞いしてやります、よっ!!」

 メロディは花蘇芳《はなずおう》の剣《けん》に火《ファイア》属性を付加した。

 一応、かつての「風帝《ふうてい》」の弱点だったわけだが……今の「魔帝《まてい》」に通用するのだろうか……?

「……ダメっ! 火《ファイア》の属性攻撃がまったく通用しないのよっ!!」

 これは、つまりだな……まあ、単純に言ってしまえば属性が弱点でなくなった、という意味だ。

 ダークエルフ化したウィンダ・トルネードを取り込んだのである。

 地《アース》・水《ウォーター》・火《ファイア》・風《エア》・空《エーテル》の属性、すべてを対策し、網羅しているはずだ。

 オレたち四人による魂の結合ソウルリンケージが解除された今の状態ではチビチビHPヒットポイントを削るしか方法がないのか!?

「チハヤお姉さま、諦めないでくださいです! トライ・アンド・エラー、ですっ!!」

「さすが前向きっ! わたくしの護衛騎士なだけありますわっ! チハヤ、前を向きましょう! この世界を守って救う! それが目標なのでしょう? 後宮王《ハーレムキング》になりたいのでしょう! ならっ、やるしかありませんわね!!」

「わたしも諦めませんよ! 何度だって攻撃して見せますよ! わたしたちは、これから世界を救いに行くのですからっ!!」

 ――そっか、そうだよな。

 なら、オレはオレのできることを全力でやる、やってみせるっ!!

 絶対に救ってやるからな!!

 オレたちの戦いは、まだ始まったばかりだっ!!

  *

 紫苑《しおん》の騎士《きし》はセントラルシティから「断罪《だんざい》の壁《かべ》」の先へ向かうために、行動を開始した。

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