LSD《リリーサイド・ディメンション》第63話「架空の少女――ユリハ・フラワー・サウザンドロード(千道花百合葉《チミチハナ・ユリハ》)」

  *

 ――オレがつくった架空の少女……?

 話がついていけなくなりそうだ。

 でも、この少女はオレの過去の記憶に存在していた。

 千道花ちみちはな百合葉ゆりは……オレがいた世界の、架空の西暦二〇XXにせんダブルエックス年のとき、千道せんどう百合ゆりに振られた代替として、つくり出した少女が彼女であった。

 オレの秘密の創作ノートに書き殴って生み出した架空の少女……それが千道花ちみちはな百合葉ゆりはだった。

 それが今の世界に転生して、ユリハ・フラワー・サウザンドロードという、遊里道ゆりみち千早ちはやが亡くなる直前の千道せんどう百合ゆりの因子を吸収したとき、ボク――リリアの因子が混ざり合い、ひとつの形となった。

 それがリリアではなくユリハ・フラワー・サウザンドロードとして顕現したということは、まだ、オレの中にはリリアの核が存在するということだ。

「ワタシは花の近くにある葉にすぎない。ワタシはチハヤ・ロード・リリーロードを守るために顕現した架空の少女であるっ! その力を今、見せてやろうっ!!」

 ユリハは手を構え、空想の箱エーテルボックスを形成する――。

「――細葉百合の銃剣ナローリーフリリーベイオネット

 ユリハは自身の空想の箱エーテルボックスから細葉百合ほそばゆり銃剣じゅうけんという心器しんきを開錠した――。

「――細葉百合斬ほそばひゃくごうざんっ!!」

 ユリハの、百合ゆりちゃんに似た緑がかった黒髪が動きで揺れる。

 百合ゆりちゃんに似た、整った顔の中にある瞳が強く光る。

 その攻撃はオレの手足を拘束していた薔薇ばらむちを斬った。

「ありがとう、ユリハ」

「いいえ、チハヤ……これくらい当然です。だってワタシは、あなたの心の結晶なのですからっ!」

「心の結晶か……」

 オレが生み出した架空の少女――千道花ちみちはな百合葉ゆりは……いや、ユリハ・フラワー・サウザンドロード。

 その架空の少女が人格を持つとき、新たな可能性が生まれる。

「ワタシに可能性を託してみませんか?」

「可能性を、託す?」

「そうです。ワタシと一緒に新たな心器しんきをつくりましょう」

「新たな、心器しんき……?」

「そう……新百合しんゆり銃剣じゅうけんをつくりましょう。そのためにワタシは生まれました」

新百合しんゆり銃剣じゅうけん……それは、この戦いに勝てる要素になるのか?」

「ええ、この戦いに終止符を打ちましょう。まずは百合ゆり銃剣じゅうけんを形成してください」

「それをすると、どうなるんだ?」

「ワタシの細葉百合ほそばゆり銃剣じゅうけんと融合させます。そして、新百合しんゆり銃剣じゅうけんを顕現させるのです。リーダン・ロリー・ローズゲートの薔薇ばら心器しんきを壊す力になるでしょう」

「わかった。――百合の銃剣リリーベイオネット

 百合ゆり銃剣じゅうけんを顕現させたあと、ユリハが手を構え――。

「――細葉百合の銃剣ナローリーフリリーベイオネット

 細葉百合ほそばゆり銃剣じゅうけんを顕現させる。

「あとはワタシとチハヤの、その心器しんきから空想の箱エーテルボックスに投入すれば……」

 ……白百合しらゆり銃剣じゅうけんとは違う模様の白色の銃剣の心器しんきが完成する――。

『――新百合の銃剣ニューリリーベイオネット

 新百合しんゆり銃剣じゅうけんはオレとユリハの手に握られる――。

 ――瞬間、薔薇ばら牢獄ろうごくに覆われた空間に亀裂が走る。

 それは新百合しんゆり銃剣じゅうけんの刀身が割れ、銃口が現れた瞬間、その銃口から光の刀身が現れたことにより、その光の刀身は薔薇ばら牢獄ろうごくくさびを破壊していった。

 薔薇ばら牢獄ろうごくに覆われる以前のもとの世界に戻っていく……。

「みんな、無事か?」

「ええ、チハヤも無事で、なによりですわ。それより、その方は……?」

「マリアン……どうやら、また、オレの中にある核が、新たな存在を生み出したようだ」

「ワタシはユリハ・フラワー・サウザンドロード……前世の名は千道花ちみちはな百合葉ゆりは百合道ゆりみち千刃弥ちはやの中で生まれた架空の少女です。ごきげんよう、エンプレシアの『女帝』さま?」

「架空の、少女……ですの?」

「オレにも、うまく説明はできない。けど、味方なのは確かだ。保証する――」

「――また、か……。とんでもない力だな」

 リーダン・ロリー・ローズゲートが、あきれたように口を開く。

「だが、これは、どうだ? 薔薇ばら百万ひゃくまん

 百万本の薔薇ばらけん百合世界リリーワールドの騎士たちに向けられる。

 だが、同時に――。

「――百合ゆり百万ひゃくまん

 百万本の新百合しんゆり銃剣じゅうけんが、百万本の薔薇ばらけんを対消滅していく。

 むしろ、新百合しんゆり銃剣じゅうけんは百万本、顕現した状態で薔薇世界《ローズワールド》の住人を襲う。

薔薇の剣ローズソード変化ヴァリアント――薔薇の銃剣ローズベイオネット

 リーダンが薔薇ばらけん薔薇ばら銃剣じゅうけんに変化させていく。

 おそらく新百合しんゆり銃剣じゅうけんに対抗するためだ。

 でも、それでも、新百合しんゆり銃剣じゅうけん薔薇ばら銃剣じゅうけんに勝っている。

 新たな百合ゆり心器しんき薔薇ばら心器しんきには負けない。

 もう、運命は決まっていた。

「まずは、残りの三体のみかどを葬ってみせる」

 新百合しんゆり銃剣じゅうけんを三体のみかどに向かって飛ばす――。

「――百万ひゃくまん百合ひゃくごう光刃こうじん

 百万本の新百合しんゆり銃剣じゅうけんの割れた刀身から光の刃が顕現する。

 その光の刃は、三体のやみみかどを貫いた。

 同時に、右手の中指に装備されている五闇ごあん指輪ゆびわの宝石が黒く光る――。

「――変化ヴァリアント百万ひゃくまん百合ひゃくごう闇刃あんじん

 光の刃から闇の刃に変化していく。

 それは白百合しらゆり銃剣じゅうけん黒百合くろゆり銃剣じゅうけんに変化していくように、その新百合しんゆり銃剣じゅうけんは両方の能力を持っていた。

 雷帝らいてい光帝こうてい天帝てんていが光属性のみかどならば、邪帝じゃてい闇帝あんてい冥帝めいていは闇属性のみかどである。

 エーテルは、その持ち主により光にもなるし闇にもなる。

 つまり、ボク――リリアである遊里道ゆりみち千早ちはやが光属性でオレ――チハヤ・ロード・リリーロードである百合道ゆりみち千刃弥ちはやが闇属性である。

 黒百合くろゆりころもをまとっているチハヤ・ロード・リリーロードは基本的に闇属性なのだが、その中にある核である白百合しらゆりたま千道せんどう百合ゆりと融合して生まれた千道花ちみちはな百合葉ゆりはことユリハ・フラワー・サウザンドロードが光属性である。

 オレ――チハヤ・ロード・リリーロードは闇属性の衣と光属性の玉の、両方のエーテル属性を持つ。

 オレはユリハと能力の共有をおこなうことで光属性と闇属性を自由に使うことができる。

 つまり、新百合しんゆり銃剣じゅうけんは光と闇、両方の属性に変化することができる。

 みかどHPヒットポイントが一のとき、同属性の攻撃を受けると消滅するというデメリットが存在する。

 要は五闇ごあん指輪ゆびわの黒い闇?をまとった新百合しんゆり銃剣じゅうけんは三体の闇のみかどを消滅させるだけの条件が揃っている。

 オレと(ユリハ)が放った技である百万ひゃくまん百合ひゃくごう闇刃あんじんは三体の闇のみかどHPヒットポイントを一にする。

 そして――。

「――冥幽めいゆう百合弾斬ひゃくごうだんざん

 新百合しんゆり銃剣じゅうけんがオレの手に握られている。

 新百合しんゆり銃剣じゅうけん黒百合くろゆり銃剣じゅうけんが持つ吸収の特性を持つだけではない。

 黒くなった新百合しんゆり銃剣じゅうけんは放出の特性も併せ持つ。

 新百合しんゆり銃剣じゅうけんの割れた刀身の銃口から黒い闇?の刃が現れる。

 その刃で三体の闇のみかどを斬る。

 邪帝じゃてい闇帝あんてい冥帝めいていは、その攻撃――冥幽めいゆう百合弾斬ひゃくごうだんざんにより消滅した。

 残るメインの敵は……薔薇世界ローズワールド神託者オラクルネーマーだけだ。

「まだ、オレたちは、あきらめない。どんな可能性も逃がすものか。オレたちは世界のすべてを取り戻す。そのために戦っているんだ。宇宙を蘇らせてみせる。絶対にっ!!」

 そう。

 まだ、可能性は残っているはずだ。

 宇宙が消滅の危機になっているとしても、未来へ向かっていくたびにオレたちは進化している。

 宇宙を再生するために、オレたちは、すべてを取り戻す。

 心器しんきには……オレたちには、その力がある。

 オレたちは、あきらめるわけには、いかないんだ。

 そのためには、過去も、未来も、あらゆる世界も、すべてを統合してやる――。

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