LSD《リリーサイド・ディメンション》第22話「変化する風帝」
*
一方、ウィンダ・トルネードは――。
「――見つけたぞ、アリエル・テンペスト……はぐれエルフは、はぐれエルフらしく……はぐれて死んでしまえ」
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あいつこそが百合世界《リリーワールド》の危機を脅かす最大の存在だというのに――。
最大の敵である、あいつ……「四帝《してい》」四体のうちの一体――「風帝《ふうてい》」は、イーストウッドの最東端に位置する「拒絶《きょぜつ》の壁《かべ》」を破壊し、魔物たちをセントラルシティに誘導している。
おそらく「風帝《ふうてい》」は、それなりに考えて行動できる巨人だ。
だから壁を壊し、セントラルシティへ向かっているのだろう。
オレたちは魔物への攻撃をやめ、「風帝《ふうてい》」を攻撃目標とし、行動を開始する――。
『――……百合《ひゃくごう》……――』
――……と口上を唱えて、斬撃を重ね合わせる空想《イメージ》を……――。
『――……重斬《じゅうざん》っ!!』
オレは百の斬撃を「風帝《ふうてい》」に与えた。
化物は、なにも発しない。鳴き声を発するかと思ったのだけど。
オレの斬撃は「風帝《ふうてい》」の鎧を傷つける程度で、たいしたダメージにはなっていないようだった。
オレの精神は真っ黒になりかけるが――。
――トライ・アンド・エラー……ですよ!!
――わたくしたちにはチハヤがいます。チハヤとわたくしたちが力を合わせれば攻略できないものはないはずですわ!!
オレたち四人は空想の鎧の機能である魂の結合を通じて、思考や意識を共有しているのだ。
――リリアさまに選ばれし神託者《オラクルネーマー》なのですからです!!
――無限に宿る力があるのですわ!!
――……よし、トライ・アンド・エラーだ!!
斬撃が効かないのであれば、突による攻撃はどうだ?
そういえば……オレの「超回復《ちょうかいふく》」能力は、魂の結合をしている四人全員に効果があるんだよな?
『――技の共有だって、できるはずだ!!』
『――……百合《ひゃくごう》……――』
――……精神を研ぎ澄ます。四人同時で、やってやる……――。
『――……連突《れんとつ》っ!!』
百の突による連撃を四人で合わせて放った。
合計、四百の突による攻撃だ。
さすがに……効いてくれよ、な……?
あの巨人をまとっていた緑色の鎧がコナゴナに砕け散った。
裸に近い格好になった……下半身にふんどしらしきものがあるから全裸では、ないはず……だが――。
「風帝《ふうてい》」が裸に近い格好になった瞬間、雷光がとどろく。
まるで漫画によく出てくる形態が変わったように感じられる。
『まるで「雷帝《らいてい》」……なぜだ、なぜこんなことが起きる?』
「……これはオレの隠された能力である……」
『……しゃ、しゃべった!?』
やはり人語を話せるのか……?
「しゃべれるさ。なぜならオレは、この世界について知っている。薔薇世界《ローズワールド》と百合世界《リリーワールド》の真実を、な……」
……しゃべるのか、真実を?
『オレたちの知っている昔話とは、また違うのか?』
「……まあ、そこそこ違うな」
そこそこって、なんかアバウトだな……。
「ただなあ、いずれおまえたちは知ることになる。この世界と、あの世界の真実を、だ」
『というか……なんで世界最大級の最強の敵が、こんなフランクに話しかけてくるんだ!?』
「さあ。それを判断するのは、おまえだ。ユリミチ・チハヤよ……」
魂の結合を発動《はつどう》しているからか、マリアンたちがオレをオレ自身であると勘違いしてしまうようだ。
完全に同化してしまいそうになるのはデメリットかもしれない。
もしかしたら、この力……VS「四帝《してい》」戦以外では使わないほうがいいのかな?
……もし、この「風帝《ふうてい》」に無事、勝利できれば対策を考えなくては……な。
――ピシャン、ゴロゴロ……。
雷鳴がとどろく。
「さて、真面目に勝負を再開するか……今、おまえたちの中でオレは『風帝《ふうてい》』の第二形態である『雷帝《らいてい》』になったという認識でいいな?」
『ああ、こっちはそう解釈する』
「では、見せてやろう……先ほどの『風帝《ふうてい》』形態で使っていた烈風剣《れっぷうけん》と対になる第二の剣……轟雷剣《ごうらいけん》だ」
その剣はピシピシと電流が流れている――。
「――轟雷斬《ごうらいざん》!!」
電流をまとい、オレたち四人に突撃してくる。
『かわすぞ!!』
オレたちは、なんとか回避した。
「ほう、今の攻撃をかわすとは」
『オレたちには無限の空想力《エーテルフォース》を宿せる力がある!!』
「しかし、かわしたことで被害を受けた地域があるようだが」
『なにっ!!』
エルヴィンレッジだ。里は完全に崩壊した。
『だが、オレたちには有加利《ゆうかり》の剣《けん》がある!!』
ユーカリであるオレたちは空想力《エーテルフォース》を使って瞬時に移動し、有加利《ゆうかり》の剣《けん》をエルヴィンレッジの土地にブッ刺した。花言葉《はなことば》である「新生」と「再生」をねじ込み、強引に花言葉《はなことば》を解釈し、コネコネこねくり回しながらオレたちが里に訪れたときの状態に戻す。
「力業だな。もはや人間の領域を超えているのではないか?」
『そうかもしれねえ! オレたちは一心同体だ!!』
「ならば、攻略される前に次の形態へと変化するか……見せてやる。オレの第三形態を――」
最初「風帝《ふうてい》」だった「雷帝《らいてい》」は自身の存在をふたつに分けた。
「――第三形態『双帝《そうてい》』だ」
「風帝《ふうてい》」と「雷帝《らいてい》」の二体に!?
*
第三形態――「双帝《そうてい》」。
要するに「風帝《ふうてい》」と「雷帝《らいてい》」が二体の状態で召喚された、というところか。
……「双帝《そうてい》」がセントラルシティに着くまで、あと三割程度の距離だ。
二十メートルの巨体は、いつでも「断罪《だんざい》の壁《かべ》」を破壊する覚悟ができているだろう。
なのに、あいつはどこか……躊躇しているようにも見受けられる。
「まあ、神々の遊び……みたいなものだ」
『神々の遊び……だと?』
「ああ、オレは気まぐれでなあ……気分で行動が変わるんだ」
『そんなので、よく帝《みかど》として務まるよなあ……』
「……いや、正確には神々《かみがみ》の遊《あそ》びならぬ帝々《ていでい》の遊《あそ》びかもしれんな……どうでもいいけど」
『どうでもよくないわ。こっちは世界の危機に立ち向かっているんだ。おまえのような存在は消滅しなければいけないんだ……よっ!!』
二体ともオレたちの攻撃をかわした。
「おまえらさあ、四人がかりだから負けないというスタンスやめようか。本来なら帝《みかど》に対抗できる時点でいろいろ間違っているんだよ。おまえたちは、この世界のバグみたいなものさ。理解できないわけ……じゃ、ないよな?」
『そう言って、オレたちに限界を見せようとしているだろ? いつ隙を見せて、負けないか誘っているだろ!?』
「風帝《ふうてい》」は烈風剣《れっぷうけん》を、「雷帝《らいてい》」は轟雷剣《ごうらいけん》を構える。
「合技《ごうぎ》……――烈風轟雷斬《れっぷうごうらいざん》っ!!」
風と雷を組み合わせた合体技を発動《はつどう》させた。
『かわせ! ……いや、しまった!!』
東に位置する「断罪《だんざい》の壁《かべ》」の一部が破壊されてしまった。
「どうだ。二体分の帝《みかど》の力は……!!」
クソッ!! ノリと勢いで、うっかりしてしまった!!
二十メートルの巨体から攻撃、簡単に災害級のものになる。
『……そうだ! ミチルドとケイたちに連絡をしなければ!!』
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