LSD《リリーサイド・ディメンション》第67話「融合と吸収」

  *

 オレ空想力エーテルフォースでメロディの花蘇芳はなずおうけんを複製し、むき出しの「雷帝らいてい」を斬りつけた。

 すると……「雷帝オレ」は「風帝オレ」に攻撃し始めた。

「くっ……オレもそのことを忘れていた。そういえば、そんな花言葉はなことばがあったな、『裏切り』というな……。ならば……第四形態『合帝ごうてい』に変化する!!」

 二体の化物オレとオレは融合した。

『「風帝《ふうてい》」と「雷帝《らいてい》」が融合しただと!?』

「ああ、これですべてを終わらせる」

 二体の融合……それは想定内だ。

「なあに、安心せい……これが最後だ」

『ホントだな!? 本当なんだな!? 男に二言はないよな!? 嘘ついたら百合ゆり短剣たんけん千本飲ますぞゴラ!!』

「だんだん口調が荒く、悪くなっていくな……本当に、ここまでだから……これ以上はない! 何度でも言う! 安心しろ!!」

『安心だと!? できるものかっ! おまえたち薔薇世界ローズワールドの魔物が百合世界リリーワールドの侵略をおこなうからっ! 百合世界リリーワールドは、いつまでたっても平和にならないんだよ!!』

「本当に、おまえたちのしていることが世界平和につながるとでも? おまえたちの行動が世界をよくすると、そう思っているのか?」

『――なに言っているんだよ!? 当たり前だろ! そうでなきゃ、なぜオレたちは戦っている!? お互いの正義のためにっ! こうやって戦っているんだろうがっ!!』

「もはや、ユリミチ・チハヤ……おまえだけだな。『女帝じょてい』たちはどうした? 完全に溶けてなくなってしまったか?」

『マリアンたちが、どうしたって!? ……――!?』

 ……あれ、そういえばマリアンたちはオレたちだよな?

 なのに、どうして疑問に思うのだろう……?

 オレたちは、ちゃんと……四人、だよな?

 ひとり……じゃ、ないよ……な?

『う、うわ、うわあ……うわあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ! なんだ、この……感覚――はっ!? なんなんだよっ! おまえたちは一体なんなんだっ! オレの頭に侵入してくるなっ!!』

 オレたちは、いや……オレは、たったひとつの願いを言う。

「オレを解放しろっ! オレの世界を、これ以上……共有なんて、するなっ!!」

 三人がオレの感覚から離れる。

 まるで、強制的にシャットダウンされたような……感覚だ。

 頭を冷やせと、言われたような気がした。

「……大丈夫ですの、チハヤっ!?」

「顔色が悪いです! いったい、どうしてしまったのです!?」

「わたしたちは、確かにつながっていましたよ……魂の結合ソウルリンケージで、ね。しかし、チハヤお姉さま以外は……なんとも、ない……無事の、ようですよ」

「いや、たぶん……大丈夫だ、たぶん……」

 三人とも胸をなで下ろした。

「今、オレたちは……なにをしていたんだっけ?」

「『合帝ごうてい』であるオレとの勝負だよ、ユリミチ・チハヤ……」

合帝オレ」は確信しながら。

「よかったな。オレが物語の舞台装置で。まあ、初めて……? の、チャレンジだ。大目に見てやろう」

「舞台装置だと!? なにを言っているんだ、おまえ!!」

「――動くな!!」

 ウィンダ・トルネードの声だ。

「はぐれエルフのアリエル・テンペストがどうなってもいいのか!? このナイフで殺してやるわよ!!」

「ちょうどいい。そこのエルフ、オレに取り込まれろ」

「なっ、風帝ふうてい……なの? なぜ、しゃべる!?」

「いただきます」

 ウィンダ・トルネードは「合帝オレ」に取り込まれた。

  *

 ウィンダ・トルネードは、「合帝オレ」が持っているスキルである超吸収ちょうきゅうしゅうによって取り込まれる。

 正確には、それに至るまでの手順があった。

 ウィンダ・トルネードのダークエルフ化の手順だ。

 まず、「合帝オレ」はウィンダ・トルネードに秘められた邪悪な心を現実化させた。

 黒い影の霊体だ。

 霊体はウィンダ・トルネードをまといつくし、肌が褐色化し、髪が銀色になった。

 その状態でウィンダ・トルネードを取り込んだのだ。

 そして、最初「風帝ふうてい」だったオレは……最終的に魔法や魔術を使えるダークエルフ化したウィンダ・トルネードを吸収したことにより、第五形態――「魔帝まてい」へとランクアップした。

「……ファイアの属性攻撃ですよ! お見舞いしてやります、よっ!!」

 メロディは花蘇芳はなずおうけんファイア属性を付加した。

「……ダメっ! ファイアの属性攻撃がまったく通用しないのよっ!!」

 これは、つまりだな……まあ、単純に言ってしまえば属性が弱点でなくなった、という意味だ。

 ダークエルフ化したウィンダ・トルネードを取り込んで、アースウォーターファイアエアエーテルの属性、すべてを対策し、網羅している。

「チハヤお姉さま、諦めないでくださいです! トライ・アンド・エラー、ですっ!!」

「さすが前向きっ! わたくしの護衛騎士なだけありますわっ! チハヤ、前を向きましょう! この世界を守って救う! それが目標なのでしょう? 後宮王ハーレムキングになりたいのでしょう! ならっ、やるしかありませんわね!!」

「わたしも諦めませんよ! 何度だって攻撃して見せますよ! わたしたちは、これから世界を救いに行くのですからっ!!」

  *

「体色変化」――それは、かつて「風帝オレ」だった「魔帝オレ」に備わった「弱点のヒント」である。

 一秒ごとに「魔帝オレ」の体色が変化する。

「まさか、こんなに早く属性が変化する魔物と出会うとはな」

「でも、わたしたちは……ここまで来ましたよっ!!」

「ええ! わたくしたちは世界の運命を背負っているからこそ、ここで勝たなくてはいけませんわっ!!」

「あたしたちは何度だってトライ・アンド・エラーしてみせるですっ!!」

「オレだっては、みんなと同じ気持ちだっ! ここまで来たら、やるだけやってみるさっ!!」

 彼らは百合世界リリーワールドの世界平和のために作戦を立て直す。

「――魂の結合ソウルリンケージは、この戦いでは……もう使えない。チビッとしたダメージを与えながら攻略するしかないっ!!」

HPヒットポイントMPマジックポイント、それとAPエーテルポイントが、このままじゃ消費され尽くしそうですわっ!!」

「あたしたち神託者《オラクルネーマー》四人が魂の結合ソウルリンケージすることは、もうできないのです?」

「あのチハヤお姉さまの状態を思い出してくださいよっ! できないのはわかりきっていることでしょうっ!!」

「では、隙を見て――はぐれエルフのアリエル・テンペストよっ! 死ねえっ!!」

 ――オレは、本当に、そんなことを望んでいるわけではなかった。

 ただ、オレは、この過去の出来事を知っていた。

 だから、これが、ある過去であるなら、あいつが現れる。

「アリエルっ! 間に合えっ!!」

 ――間に合わない……アリエルっ!!

 ……オレは間に合わないが、あいつなら間に合う。

「――いや、まだです! ここからは私、紫苑《しおん》の騎士《きし》の出番です!!」

  *

 あいつ――アスター・トゥルース・クロスリーが現れる。

 マリアンがアスターを心配する。

「――……どうして? 体は大丈夫ですの?」

「問題ありません、マリアン女王さま。この通りピンピンしております」

「でも、どうしてなのですか!? わたくしはアスターがかぜたみであることは昔から知っているはずなのに……」

「チハヤさま、忘れたとは言わせませんよ。私が、こうして戦闘に入れるのは……チハヤさまが残した空想の箱エーテルボックスのおかげなのですからっ!!」

「でも、オレ……よく考えたら今、魂の結合ソウルリンケージの影響で物忘れが激しいんだった……ごめん、アスター」

「いいですよ。この、ご恩は私が忘れません。あなたが私に施した『呪文』と、新しく作成された『私専用の心器しんき』、そして『新たな鎧』……至れり尽くせりでした」

「――それって、空想の鎧エーテルアーマーか?」

「ええ、確かに口上で『空想の鎧エーテルアーマー着装ちゃくそう!!』と叫びましたね。なんだか、しっくりくる口上でしたよ。私の鎧は『紫苑しおんよろい』と言います。まあ、実際に叫んで口上しているのは『紫苑の鎧アスターアーマー』ですけど」

「……んっ、これは――!?」

 アスターが持つ紫苑しおん心器しんきふたつと、アリエルの心器しんき――風玉の指輪エア・エメラルド・リングが、お互いをリンクさせる……要は共鳴だ。

 彼らの周囲には緑色の障壁バリアみたいなものが形成されていく。

「――と、いうことは……だっ! アスターとアリエルの心器しんき同士のつながりを形成すれば、『風帝ふうてい』もとい『魔帝まてい』に勝てるのではないだろうか?」

「そう、かもしれないが……どうだろうな?」

魔帝オレ」は発言する。

「さすがにオレは、そこまでお人好しじゃねえぞ」

「でも……最終的な弱点は、オレ……知っているから」

「ほう……まあ、せいぜいあがけよ、未成年ども」

「……チハヤお姉さま……」

 ……――アリエルはオレたちに、いや、オレに対して、なにか言いたいことがあるようだ。

「……おそらく、ですが……この緑色の防御は、いつまでも効果は持続しないでしょう……」

「そう、だろうな……」

「だから防御を最大の守りにするのではなく、わたしたちの攻撃を最大の防御にするのです。つまり、さっき……チハヤお姉さまが皆さまに言っていた台詞を再現すると、あっ……脳内に直接、送りますね」

(『属性は……まあ、当然だけど、エアだよな。弱点はファイアHPヒットポイントが一になった場合、同属性でレベルが九十九MAXの攻撃が必要である――この攻撃がなければ倒すことができない……か。ほかのみかども同じ条件っぽそう……』)

(……なるほど。言っていたかもしれない)とオレは思った。

 アスターとオレは脳内会話を始める。

(もしもし、アスター?)

(はい、なんでしょうか?)

(アスターって、今レベルいくつよ? 実はさ、アスターが「風帝ふうてい」もとい「魔帝まてい」を攻略するキーマン……いや、キーウーマンになるかもしれないんだっ!!)

(私が、キー、ウー、マン、ですか?)

(ああ、だから……アスター、キミには今からレベル九十九になってもらう。要するにオレと同じレベルMAXになるってことだぜ!!)

(私がチハヤさまと同じに、なるってことですか?)

(おう、もうアスターしか、この戦いを攻略できねえっ! だから、やるぞっ!! 真・魂の結合トゥルース・ソウルリンケージを、なっ!!)

 オレとオレの最後の戦いが近づいていく――。

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