街色

鶫すら遠ざかるなりかげはみな冷たい頬に聖痕残す

悲しけれ河を漂う夢にすら游びあらずや陽はかげりたる

寂しかれゆうべの鍋を眺めやる もしや失くせし望みあるかと

ぼくを裁く砂漠地帯の官吏らがミートボールに洗礼をす

うつし身の存り方おもう紅あずま土をかむってだれを待ちゐる

夜はブルーまたもブルーに染められて見えなくなったきみを愛する

たれぞやの庭に葡萄の蔦あふれわれの家路へ走る夕立ち

ささやかなはなむけならん祭り火のむこうにきみが立ってゐました

莇色のワンピースのみが残された物干し竿の淡いさみしさ

夏蝶の翅が街色して遙か頭上をかすむ一瞬の午後

涕らしきものあり ふいにあがれば沖が来てわれを掴んだ海のやさしさ

砂踊る 波がしぶいてまざまざと心の澱へとどく日没

星かなた芽生えるときよそろそろと梯子を降りる工夫の痛苦

追放の歌また聞ゆ藍染の幕いちまいを触媒として

みなやがて飛び去る夢を見し真午取り残さるるわれと寝台

メフィストのいざないばかり魚屋で鰤の短冊しばらく見つむ

死がうずく網戸のむこうきみの手がゆれるみたいなまぼろしがゐて

なみだ花たとえばきみの乳房にて流る汗など愛しくおもう

葦ゆれて足がなくともかまわない亡霊蒐集家の家路

肘を打つ机上の手紙追伸を書き終えて猶解せぬ誤解

見つむ愛育ちながらに叛逆を夢みいまだに気づかぬ母よ

蝉すら黙する夏や心もて蒸留したり飴売りのかげ

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