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青色のコンビニで恋をした(2/17〜 まだ何も知らない

2月17日

コンビニ深夜勤のバイトの子に恋をしている。

シフトのことで彼女と春菜が話をしている。商品を見てるフリして、耳を傾けてしまった。

「3月前半は卒業式とかで忙しいからなるべく出て欲しいんだけど…」

「妹の卒業式とかあって、そこはどうしても岩手に帰りたいんです…」

彼女には妹がいるのか。高校の卒業式かな?
そういえば、うちの娘も高校の卒業式だ。3月12日…岩手県も同じくらいだろうか。

いつもとは違うお姉さんな表情。

レジにレモンティーとおにぎりを持っていき、つい話しかけてしまう。

「妹さんいるんだ…」

「あっ聞いてました?そうなんです。実家には、おじいちゃんとおばあちゃんと、あと母と妹がいて…あっ父はもういないんですけど…」

僕の表情が気になったのか、

「──あぁ、父のこと知らないんですよ。病気で早くに亡くなったので顔もわからない。写真で見てもパッとこないですよね…元々いないと同じですよ」

と説明してくれた。

「ねぇ…ほんと、休み、お願い!」

と、レジを終えた彼女は再びシフト調整を春菜にねだる。

彼女のお願いポーズのかわいさに僕は卒倒しそうだけれど、春菜はなかなかウンと言わない。

僕は会計を済ませたので帰るしかなくて、シフトがどうなったかはわからない。ただ、彼女のいない数日間はちょっと寂しいな…なんて思ってしまった。

2月18日

冬だけれど、どうしてもアイスが食べたくなって、今日はレジにレモンティーと棒アイスを持っていく。
レジの角刈りは何も言わず淡々とバーコードを読み取り会計した。

なんだよ、つれないなあ…

と思うけどそりゃそうか。

寡黙な男…角刈りは、油の交換に取り組んでいて何だか忙しそうだった。

2月19日

いずれコンビニには人がいなくなる。
完全に無人になるかどうかははわからないけれど、おそらく対面のレジ作業はなくなるだろう。
それが10年後なのか、20年後なのかわからないけれど。

夜遅くコンビニに寄ったとき

「いらっしゃいませ」

という温かさ。安堵感。
街のホットステーションだよなぁ。

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2月20日

日曜日。

昨日録画した「デカワンコ」を観る。

多部ちゃんはかわいいけれど、彼女のことをぼんやり考えていて内容が頭に入ってこない。

先日のコンビニで、いつも髪をまとめてる姿しか知らなかった僕は、休憩中髪をおろしている彼女を見ちゃったんだ。

それが腰くらいまであるロングというね…

ドキッ。

2月21日

今日はコンビニに寄るのがだいぶ遅くなってしまった。もはや朝に近い。

この時間になると''一便''と呼ばれる納品物が店に配送されてくる。
この商品群を一個ずつ検品(バーコードを読み込む)しながら並べていく作業を、角刈りは手際良くこなしていた。

コンビニの深夜勤は、思ってる以上に忙しいのね。

2月22日

角刈りがスポーツ新聞をセットしている。
チラッと一面が見えた…ニュージーランドの地震だ。
クライストチャーチ大聖堂の塔が崩壊した写真が生々しい。
日本人犠牲者も出た。語学学校の生徒だ。

いま2011年なのでもう16年前だけど、阪神大震災のTV映像を瞬時に思い出してしまった。

関東人なので直接被災したわけじゃないけれど、それは空襲後のような、戦争番組や教科書でしか見たことのない焼け野原とまるで同じだった…日に日に犠牲者が増え、死傷者、行方不明者の桁違いな数字を羅列していく…

僕は、レジ前のユニセフ募金箱にお金を入れた。
役に立つかなんてわからないけれど。

2月23日

彼女、シフトどうなったのかなぁ…ていうか、まず彼女は学生なのか何なのか全然知らなかった。
20代前半なのは間違いなく、でも大学生なのかフリーターなのか…。
学生なら春休みで1週間くらい帰省しそうだし、フリーならそんなに長く休めないだろうし。来月前半なら1日から15日まで?そりゃ寂しいよ。

2月24日

コンビニにホワイトデー関連商品が並び始めた。
だからといって、彼女に何かアプローチするわけじゃない。あくまでも適切な距離感が、幸せな時間を保たせてくれるのだから。

いや、女の子は敏感だからすでに僕の好意を感じ取っているはず…
だとしたら、僕はお釈迦さまの手の上で何をしてるんだろう。

2月25日

コンビニ深夜勤のバイトの子に恋をしている。

今日は雨。
吐く息は白くなるけれど、それほど寒くはない。8℃くらい。このまま春になるのだろうか。

彼女の姿が見えない。休みか…

初めのころ、見てるだけでよかったのに、いつしか会話をするようになった。

もう出会ってしまったんだ。戻れないよ。

2月26日

コンビニ業界の熾烈な争い。

プライベートブランドからちょっとしたポイントサービスを含め、競合店との差別化に悩む本部は悩ましいことだろう。
でも、詰まるところ商品は人から買うってことに尽きると思うんだ。
細やかな気遣いと触れ合いが、夜の孤独を癒してくれる。

人はひとりじゃ生きられない。


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