見出し画像

流れる雲を追いかけて②

前回はここまで


何とか山手線に乗り込んだ。
もう後戻り出来ないと思ったのもこのとき。

電車内ではドアにもたれかかりたかったが、乗り換えの激しい東京、秋葉原では乗客の入れ替えでぐりぐり押されてあぶら汗だった。
何とか体勢を立て直し、いざ上野駅乗り換えに挑む。

そして、人並みに押されながらも何とか上野駅ホームへと降りたった。

時刻は23:25くらい。最終電車の発車時刻までは少し時間がある。
「もう1回トイレに行っておくか…」
とトイレに駆け込んだ時点で財布がないことに気づいてしまった。
「まーじかよ…」
と思えど後の祭りだ。
そして便器は血祭りである。4回目の下血だ。気が張っているせいもあって、特に何の感情もない。冷静に「これでしばらく持つな…」と判断した自分がいる。

財布は心配だし、下っ腹の違和感は続いていたけれど、とにかく急いで電車に乗り込むことを優先した。上野始発の最終電車は早く行かないと座れないし、それどころか帰ることもできないのだ。
ジャーっと流して鮮血の便器に別れを告げ、フラフラとホームを目指す。

いざ自宅へ


ホームにはすでに電車が到着していたけれど、運良くまだ座れる席が残っていた。
「助かった(まだ助かってはいない)」
と座席にもたれ掛かり目を瞑る。
おっといけない、財布の行方だ。

意識は割としっかりしていたので、財布を無くした場所の検討はある程度ついていた。

LINEで「財布を忘れたので探して欲しい」と同僚に連絡。「B1Fのトイレにありました」とすぐに折り返しのLINEが届きひと安心。財布にはお金が入ってるけど、保険証やクレジットカードも入っていて、無くしたら大事だ。

安心したら、肩と首筋が猛烈に張っていることに気づいてしまった。血圧が低くて頭が支えられないのだ。座ったまま天を仰いだり、俯いてみたり、ほぼ酔っ払いの姿である。
「こりゃ無理だなぁ…」
駅までは自転車通勤だけれど、いまの体力では到底無理がある。
電車は浦和駅目前を走っていた…0時を過ぎていたが僕は奥さんにLINEした。

「起きてますか」
「自力で帰れそうにないです。」

時刻は0:07〜0:09
まだ文章の最後に読点をつける余裕がある。
しかし既読にならない。
焦った僕はさらに続けた。

「貧血で倒れました。身体に力が入りません」
「宮原駅までは辿り着けそうです」

駅までの迎えを頼もうと試みたが、一向に既読にならない。
ちなみに後で訊いたら、スマホは充電中で手元になく全く気づかなかったとのこと。運がない。
既読にならないので自力で帰ることを決意。最終電車にありがちな遅延もあったけど、5分遅れくらいで宮原駅まで帰ってこれた。

まずはトイレである。

そう、この時点では家に帰って翌日病院に行けばいいと思っていたのだ。
自分じゃわからないけど、人はこれを無理と呼ぶらしい。
そして5回目の下血…。

家路


無理だ。
「たすけて」
と、僕は奥さんに再度LINEを試みた…が、既読になることはなかった。

スクショは既読だけど、このときは未読だった。

この時間バスは走ってないし、財布を忘れたのでお金もないし、結局自転車で帰るしかなかった。僕は本当のフラフラ状態で駐輪場を目指す。駐輪場は駅から少し離れていて、健康な状態でも5分は歩く。このときは頭が重く身体で支えるのがつらかったが、休みながら駐輪場まで何とか歩ききった。

自転車に乗ったところで楽になるわけじゃない。頭が重くて前を向けないので、ハンドルにアゴを乗せながらゆっくりと漕ぐ。
とにかく家まで帰って横になりたい…それだけだ。

自宅までは自転車でおよそ10分。途中休みながら最後の力を振り絞って漕ぐ。
家が見えた瞬間
「帰ってきた…」
と安堵感が湧きあがり、自転車を置いた僕は一心不乱に玄関へ向かう。
ただ、そのときはもう体力が1mmも残っていなかったのだ。玄関まで10段以上階段を登るのだが、一向に脚をあげることが出来ない。
「もうダメだ…」
階段に倒れこみながらスマホをポケットから取り出す。まだ未読である。
インターホンは玄関脇だ。諦めた僕は奥さんにLINE電話…これで繋がらなかったら万事休すだ。

そしてこの時点で精神的にも限界だった。自分の身体に何が起こっているのかわからない。不安MAXである。そう、素人判断には限界があるのだ。
10コールくらいで繋がった。

「救急車を呼んでくれ…」

そのときの僕は消え入るほどの声で呟くのが精一杯だった。

続きはこちら


サポートするってちょっとした勇気ですよね。僕もそう。書き手はその勇気に対して責任も感じるし、もっと頑張ろうと思うもの。「えいや!」とサポートしてくれた方の記憶に残れたらとても嬉しいです。